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黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第4章 呪われた過去 ――政府首都グリードシティ――
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第28話 過去の呪い

※パトラー視点です。

 私たちの過去はあまりに呪われ過ぎていた。


「お前のせいで私がどれほど苦しんだか!」

「…………」


 ピューリタンはクラスタとの黒い過去がある。クラスタには2年前、故郷を政府軍の空爆で失った過去がある。クォット将軍には11年前のテトラルシティの事がある。私は2年前、財閥連合のオーロラ支部でのことがある。


「……私が、お前にしたことは許されない。それを死というカタチで償わせるのならば、受け入れよう。……だが、1つだけ問おう」

「なに?」

「お前たち政府軍が私の故郷にしたことは、誰が罪に問うのだ?」

「…………ッ!」


 ピューリタンの顔が急に曇る。政府軍の黒い過去だった。テトラルシティとティトシティ。2度に渡って政府軍は多くの市民を殺してしまった。ピューリタンが双方の戦いに関わっていなくても、関係がないとはいえない。

 過去は現在へと繋がる。過去が黒く呪われていれば、現在もまた同じ。どこかでこの呪いを払拭しなきゃならない。……今がその1つなのだろうか?


「……ティトシティ空爆はマグフェルト総統の命令だった」

「だろうな。だが、実行犯はお前たち政府軍だ」

「…………」


 ピューリタンはベッドに腰掛け俯く。長い沈黙。クラスタもピューリタンも黙り込んでしまった。内心、2人とも互いが互いを憎んでいる。でも、それぞれの過去がそれに歯止めをかけていた。

 しばらく沈黙が続いていたが、不意に扉が開く。1人の男性が入ってきた。服装からして政府軍の将官だろう。


「失礼します。ピューリタン将軍、パトラー准将。クォット将軍がお呼びです」

「……分かった」


 私が一言いうと、彼は一礼して部屋から出て行った。私とピューリタンは無言で立ち上る。私はそのまま部屋から出て行こうとするが、ピューリタンはクラスタの手を握り、無理やり立たせる。


「来い」

「…………」


 クラスタは少しだけ躊躇するが、そのまま黙って歩き出す。私は部屋のロックを解除すると扉を開け、そのまま部屋から出た。



 【軍事総本部 クォット専用オフィス】


 クォット将軍の専用の扉を開け、私は中へと入る。濃い赤色の部屋。床に敷かれたじゅうたんもほぼ同じ色をしていた。部屋の隅には観葉植物。部屋の奥にクォット将軍のデスク。その後ろに一面の大窓。首都の複雑に入り組んだ道路と建物群が見える。


「……来たか。ピューリタン、パトラー。そして、クラスタ」


 窓の外を見ていたクォット将軍は振り返って私たちの方を見る。


「なんだ? 私に何の用でもあるのか?」

「……すまない」


 クォット将軍は真っ直ぐと私たち3人の真ん中にいるクラスタを見て言った。


「なぜあんたが謝る?」

「11年前、テトラルシティの時にわたしが真実を明るみにしておけば、戦争は防げたかも知れない」

「…………」


 11年前のテトラルシティ。今は封鎖区域テトラルとなったあの地。かつては魔物が爆発的に発生して滅んだ街とされていた。でも、真実は財閥連合軍と政府軍の戦いだった。政府はそれを隠していた。


「クラスタ、わたしの事が憎ければ、殺しても構わない」

「……ほう?」

「だが、その前に1つだけ、頼まれてくれ」

「…………」

「もう一度世界の平和を取り戻してほしい。……パトフォーを倒すのを手伝ってくれ」

「…………!」


 私は瞬間的に2年前のことを思い出す。パトフォー。フィルドさんを連れ去ったあの男。黒いフードを被り、サングラスをした男。財閥連合を操り、連合政府をも操る男。世界大戦の黒幕。そうだ、あの男だ。全ての黒く呪われた過去を紡ぎ出すのは、パトフォー――!


「お前は私を仲間にしたいのか?」

「そうだ」


 力強くそう言うと、クォット将軍はクラスタの前でひざまずく。


「多くの市民を助ける為に、力を貸してほしい」

「クォット将軍……」


 私とピューリタンは何も出来ず、ただその成り行きを見守るしかなかった。クラスタはしばらく何も言わなかったが、やがて口を開いた。


「……いいだろう」


 私はクラスタの言葉に、何か身体の内側から湧き上がって来るものを感じた。希望、だろうか? かつての連合政府七将軍筆頭クラスタ。彼女が仲間になった今、本当にパトフォーを倒せるかも知れない。なんだか、そんな予感がした。


「だが、1つ忘れているぞ」


 えっ? なにを?


「……そうだな」


 クォット将軍は懐からリボルバーを取りだす。リボルバーは高官が持つ強力なハンドガンだ。彼はそれをピューリタンの足元に転がす。そして、自身は腰から鋭い刃をした剣を抜き取る。


「ピューリタン、クラスタを我々の仲間に入れようと思う」


 そうだ! ピューリタンはクラスタの事を恨んでいるんだった! 私は背筋に冷たいモノが走る。見えない手で、背中を撫でられるかのような感覚を覚える。


「…………」

「もし、クラスタを殺したければ、それで撃ち殺せ。わたしもこの剣で自らの首をハネて、ケジメをつけよう」

「なっ……!」


 ピューリタンがクラスタを撃ち殺せば、クォット将軍も自ら首を斬って自殺する……!? そんな! なんでそうなる!?


「パトフォーによってかけられた過去の呪いが解けぬ以上、我々の結束はもろい。強大なパトフォーを倒すことは不可能だろう」


 私は震えながら後ずさる。状況が怖くて仕方なかった。自らの心臓の音が聞こえてきそうだった。ピューリタン、クラスタ、クォット将軍……!

 パトフォーの呪い。それは憎しみというものだろうか? みんなを戦わせて、自分はそこから生まれた利益だけを享受する。それが呪いの効果だろうか?

 長い長い沈黙。それはどれだけのものだっただろうか。だが、その沈黙も、終わりを迎える。


「……お前を殺しても憎しみは消えない。私はパトフォーの首が欲しい。――共に戦おう」

「…………! ピューリタン!」


 私はつい駆け寄って彼女を抱き締める。私は心の底から何か言い表せぬモノが湧き上がってくる感じがした。目から、熱いものが零れ落ちた。

 やれる。やれるよ! 力を合わせれば、きっとパトフォーにも勝てる――!!

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