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黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第4章 呪われた過去 ――政府首都グリードシティ――
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第25話 グリードシティ最下層

※パトラー視点です(冒頭除く)。

 復讐の果てにあるものはなんだろうか?


 私は許すつもりはない。


 だが、時々考えてしまう。


 復讐して何が残るんだ、と。


 復讐の果てに残るのは、満足感だけだろう。


 いや、もしかしたらそれすらも残らず、

 虚しさだけかも知れない――。


































 【政府首都グリードシティ 中央エリア 最下層】


 私はスロイディア将軍と一緒に政府首都グリードシティの“最下層”と呼ばれるエリアへとやってきた。2ヶ月前の首都爆破事件に関係する「ウワサ」を調べる為だ。

 今、最下層では、首都爆破の工作に深く関係した組織として財閥連合が挙げられていた。それが本当なのかどうかは分からないけど、連中ならやりかねない。何しろ、かつて私を拷問した組織だからな。


「ずいぶん、荒れたところですね……」

「だが、貴重な情報がある」


 スロイディア将軍は落ち着いた声で言う。彼は常日頃から落ち着いた人で、滅多に感情を表に出さない。


「こんな所に、ですか?」


 スロイディア将軍は私の問いに答えずに早足で進んでいく。私もその後について行くけど、周りの視線が気になる。賞金稼ぎ、傭兵らだ。

 彼らはたぶん私やスロイディア将軍のことを知っている。少しでも隙を見せれば、捕まえられて連合軍に引き渡されちゃうかも。


「あそこのバーがよさそうだな」

「…………?」


 スロイディア将軍は華やかなバーを指差す。出入り口の周りにはタバコ(だと思う)をふかした男性が数人たむろしている。うわっ、近づきたくなっ。

 そんな私の心中はさておきスロイディア将軍はさっさと進んでいく。あんな汚い店に何があるというのやら。


 私たちはバーに入ると、カウンター席に座る。中では20人ぐらいの客が騒がしく何かを喋っていた。よくこんなところで飲めるものだ。


「いらっしゃい。どうするかな?」

「情報を1つ頼めるかな」

「……ヘヘ、政府軍人か。高けぇぞ?」


 ガラの悪そうなマスター。赤色のバンダナを被り、汚れの目立つエプロン。捲し上げた腕には無数の傷跡。元々、傭兵かなんかだろか?


「財閥連合と首都爆破事件の関係について、だ。カネはいくらでもある」

「だろうな。だが、残念だな。なんも知らねぇよ」

「そうか……」


 そう言うとスロイディア将軍はもう席を立つ。私も慌てて席を立ち、彼についていく。うわわっ、動きが早い。少し待ってよ。

 扉を開ける時だった。さっきのマスターが言った。


「おおう、そうだ。暗黒層に近いところにザディスって女がいる。そいつなら何か知っているかもな!」

「……そうか」


 スロイディア将軍は一言そう言うと店から出て行く。私もその後について行った。

 外に出ると、冷たい風が吹いていた。今は昼間なのに何故か最下層は夜の繁華街状態だった。下層・中層・上層へとつながるビルが高すぎて光が完全に遮られているのだろう。


「ザディスって誰だと思いますか?」

「……マスターの近くにいた客の弟を殺した人間らしい」

「えっ? なんで分かるんですか?」

「我々が立ったとき、その客がマスターにこう言った。“あの政府軍人たちをザディスの元に頼む”とな」

「ええっ!?」


 そんなの全然気がつかなかった。確かにカウンターには私達2人を加えて4人座っていた。2人共男。その内、片方は誰とも喋らず、俯いていた。何かブツブツ言ってたような気はしたけど。


「その客は言っていただろ? “弟を殺したあの女を許さない”とか“仇を取ってやる”とか」


 す、凄い。そこまで聞いていたなんて。私は騒がしさにイライラしているだけだった。フィルドさんも同じようなことが出来るのだろうか……?


「でも、罠だと分かって行くんですか?」

「……一応だ。手がかりもないまま歩いても仕方ない」

「そうです、か」


 暗黒層は首都の中心部にある。何千メートルもある建物群に光を完全に遮断され、風さえも届かないエリア。真っ暗で、ウワサでは魔物が棲んでいるらしい。それに、ずっといると精神が汚染されるとも。


 しばらく歩くと、人が少なくなってきた。暗黒層も近いのだろう。それに、なんだか空気が悪い。気分が悪くなりそうだ。


「パトラー、いつでも戦えるようにな」

「えっ? あ、はい」


 私はサブマシンガンを握り締め、辺りを警戒しながら歩く。スロイディア将軍も剣を抜く。そんなに危ないのか、ここは。

 進めば進むほど人は少なくなってくる。もう暗黒そうだろうか? いや、もう少し先だな。この辺りは境目といった所だろうか。


「グォォォッ!」

「…………!?」


 今の声、魔物!? まさか、本当にこの首都グリードシティに魔物がいるなんて……!

 私は素早くサブマシンガンの銃口を向ける。奥から何か歩いてくる。全部で3体。……人? 私は目を凝らして“それ”を見る。間違いない、人間だ。


「グリード=グールだ」

「グリード=グール?」

「グリードシティに生息する魔物。暗黒層で過ごす人間の成れの果て」


 そう言っている間にもグリード=グールとやらは近づいてくる。……確かに、アレは人間じゃない。鋭く伸びた青色の爪。全身の肌は藍色になり、硬化してゴツゴツになっている。身体には僅かに衣服を纏っていた。


「グァォオォォ!」

「クッ……!」


 身体の芯に響く雄叫び。背筋がゾクリとする。あの声には精神汚染の効果があるのだろうか?

 そんな事を思っていると、グリード=グールの1体が腕を大きく振る。その瞬間、衝撃弾が飛んできた。それはスロイディア将軍の胸にぶつかると、爆発する。


「魔法まで……!」


 私は近づいてきたグリード=グールにサブマシンガンの銃口を向け、発砲する。無数の銃弾がグリード=グールの胸を貫く。しばらくは私の攻撃に耐えていたが、それも僅かな間だった。グリード=グールはその場に倒れ込む。


「なんなんだ、コイツら……」


 人間の成れの果てって……。どうやったら人間がこんな魔物になってしまうのだろうか? 私は死んだグリード=グールを見ながら思った。


「ふむ、なかなか危険なエリアだな」

「スロイディア将軍……」


 グリード=グール2体をあっという間に斬り倒したスロイディア将軍は剣を鞘に収め、更に先に進んで行こうとする。私はこんな不気味なところからは早くおさらばしたいのだが……。


「待てよ」

「えっ?」


 私もスロイディア将軍と共に行こうとしたが、いきなり後ろから背中にハンドガンの銃口を突きつけられる。今、私は物理シールドを張っていない。撃たれれば即死だ。

 スロイディア将軍は素早くハンドガンを取り出し、私の後ろにいる人間に向ける。だが、発砲はしなかった。


「離れろ。誰を相手にしているのか分かっているのか?」

「脅しか? スロイディア」

「…………」

「政府軍人のクソ共。殺してやるっ!」


 後ろからハンドガンを突きつけている人間は女性だろうか? 腰に手を回し、ハンドガンの銃口を私のこめかみに当てる。身体を密着させる。背中に胸のふくらみを感じる……。女の人だ。


「た、助けてッ……!」

「…………。……パトラー=オイジュス、か」


 その人は私からハンドガンを離し、半ば強引に私を押しのけると、ハンドガンを構えるスロイディア将軍に近づいて行く。

 彼女はボロボロに何度も引き裂かれたような布きれを被っているだけだった。手に持つのもハンドガン1つだけ。勝てるハズがないのに、なんで……?


「…………! ま、待て! お前、まさか!」

「やっと気がついたか?」

「…………?」

「連合政府のクラスタ……!」


 えっ……? 私は目を見張る。目の前にいるこの人は失脚した連合軍七将軍の1人、クラスタ将軍……!?

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