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黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 価値ある信頼 ――ハーベストフォレスト――
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第24話 仲間

※前半はクォット視点です。

※後半はケイレイト視点です。

 【大型飛空艇プローフィビ 医療室】


 わたしは医療室で苦しそうな表情を浮かべて横たわるトワイラルを眺めていた。彼はクナと戦い、相当の重傷を負った。

 連合軍の追手は振り切れた。だが、状況はあまりに酷いものだった。中型飛空艇3隻を失い、大勢の兵士が死んだ。そう、わたしたちは連合軍に負けたのだ。


「クォット将軍、首都グリードシティに到着しました。首都警備軍がパスコードとパスデータの開示を求めています」

「うむ、すぐに行こう……」


 わたしは医療室から白いマントを翻して最高司令室へと向かう。首都全体は強力なシールドで覆われている。そのシールドを通過する為には首都警備軍にパスコードとパスデータを送らねばならなかった。


[こちら、首都警備軍。パスコードとパスデータをお願いします]

「66238。データ転送」

[……了解しました。6番セキュリティゲートから艦隊を入れて下さい]

「了解。お役目ご苦労」


 わたしは通信が切れると、ため息を付いた。ケイレイトは逃げ失せ、クナによって大勢の兵士が殺され、軍艦の艦隊によって中型飛空艇3隻を失った。ピューリタンの副官であるトワイラルも重症だ。

 わたしは将軍としての器なのだろうか……? こうも何も出来ないでいると、自身を信じられなくなる。


「クォット将軍、そんなに落ち込まなくても……」

「ライト議員……。相手はクローンの少女が率いる小規模艦隊だ。それがここまで叩きのめされるとは、な」


 わたしは呟くように言うと、ゆっくりと最高司令席を立つ。後ろの出入り口へと向かうと、灰色の大きな扉を開け、最高司令室から出て行く。ライト議員も付いてきた。


「11年前のテトラルのことが、忘れられませんか?」

「……テトラルの時も何も出来なかったな」


 真実を世界に伝えられず、フィルドを苛酷な運命に叩き落してしまった。そのフィルドのクローンが、今度はわたしを叩きのめすとは、一種の皮肉だろうか……?

 ――信じてくれていた仲間を切り捨てた、わたしへの当然の報いなのかも知れない。



◆◇◆



 【封鎖区域テトラル 製薬会社テトラル本部要塞】


 軍艦6隻は戦場から近い封鎖区域テトラルへと入った。旧テトラルシティを囲うようにして作られた巨大な城壁。その中に入れば、辺りは一面の瓦礫。

 だが、旧中央市内には瓦礫もあるが、何十隻ものコア・シップが下半球を地中に埋め、着陸していた。専用の着陸場らしい。コア・シップ着陸場はテトラル本部要塞を囲むようにして造られていた。


「ママ、着いたよ!」

「…………」


 まさか、“また”ここに戻って来るとは思ってもいなかった。そう、11年前のあの日、私はこの街から逃げた。それ以来、一度も来たことはなかったが……

 テトラルシティの戦い。11年前の隠された真実。葬られた歴史。架空の楽園を維持するが為に、真実を知り、それを明るみに出そうとした者はことごとく殺された。

 クォットは賢明な判断をした……と思う。もし、フィルドの言うとおりにしていたら、マグフェルトに殺されていただろう。あの男の得意技は暗殺だから。


「おおっ、ケイレイト将軍、よくぞお越し頂けた……。我は製薬会社テトラルの総帥ララーベル。連合政府のリーダーの一角を担っておる」

「もちろん、存じております、ララーベル閣下」


 私たちは製薬会社テトラルの空中エントランスに降りる。製薬会社テトラルは連合政府を支える組織の1つだった。主に生体実験などを行っているらしい。クローン造りも担っている。


「この度は私をお助け頂き、誠にありがとうございました」

「なに、気にするでない。我らは打倒国際政府を誓い合った仲間ではないか」

「……………」


 誓い合った仲、か。所詮、利益が絡みまくって結成された連合政府。ララーベルも利益があるから連合政府に加わってるだけであって、本気で打倒国際政府を目指しているワケじゃない。……信頼できる仲間ってワケじゃない。


「……コマンダー・クナ」

「えっ? なんですか、ララーベル閣下」

「お前はファンタジアから東進し、我らが連合政府領を脅かす者共を駆逐せよ。最新の情報では連中、ファンタジア・クロント・プレリアの3州を平定し、更に東のレート州へと侵攻しておる」

「……わ、分かりました」


 クナはララーベルに一礼して元来た軍艦へと去って行く。クナはクローン。連合政府内の階級は准将だ。リーダーの1人であるララーベルには遠く及ばない。


「我らが連合軍に投資している額は財閥連合やマネー・インフィニティに比べればずっと少ない」

「……まぁ、そうなりますね。しかし、医療テクノロジーでいえば、一番は貴社かヒーラーズ・グループかと思いますよ」


 ホンネをいえば、医療系では製薬連盟のヒーラーズ・グループだと思うけどね。組織の規模がまるで違う。ヒーラーズ・グループはかなり大きな規模を持つ。


「そう、我らはコマンダー・クナや“コマンダー・アレイシア”のような優秀なクローンを生み出している。にも、関わらず、連合政府はヒーラーズを優遇しておる」


 確かにその2人やウォゴプルを生み出したのはテトラルだけど、それ以外の面では全てヒーラーズに劣っているからな……。


「そこで、だ。ケイレイト将軍に1つ、やって頂きたいことがあるのだ」

「…………?」

「我らは仲間だ。お主が我を信頼しているのであれば、何も問題はない」

「は、はい……?」

「実は、実験台としてその身体を提供して欲しい。我らに」

「……はっ?」





































 そこから先、私の意識は途絶えた。


 クナをレート州に遠ざけたのは私を“こうする”為に、邪魔だったからだ。


 冷たい液体が足の先に触れる。


 液体は次第に脚を水没させていく。


 クナ……。

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