第23話 クナとケイレイト
※前半はトワイラル視点です。
※後半はクナ視点です。
【セルディス2号艦 ガンシップ格納庫】
何機もの白いガンシップが止まっている広いガンシップ格納庫。そこに黒い機体が突っ込んできた。連合軍のアサルト・シップだ。
「ぐぁあ!」
「連合軍の軍勢――ぐぁッ!」
「数が多すぎるッ!」
俺は剣を振り、バトル=アルファやバトル=ベータを斬り壊していく。だが、数が多すぎる。突っ込んできたアサルト・シップから次々と敵は出てくる。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
俺はスタンロッド型の魔法発生装置をも使い、次々と侵攻してくる敵を破壊していく。その間に無線機で独房にいるミュートに連絡を取る。
「ミュート! 敵は至る所から乗り込んできている」
[うん、分かってる。油断はなしだよね! ケイレイトは絶対に逃がさないから!]
「俺はガンシップ格納庫の敵を――」
[破壊セヨ!]
俺はすぐ側まで迫ったバトル=アルファの首を斬り壊す。一応、俺は物理シールドは張っているから簡単にはやられない。
[トワイラル!?]
「俺は大丈夫だ! 俺はガンシップ格納庫の敵を片付けたらすぐにそっちに向かう。それまで耐えてくれ!」
[うん、大丈夫だよっ!]
俺は通信を切ると、剣を握り直す。敵はコイツらだけじゃない。たぶん、クナとかいうヤツも乗り込んで来るハズだ。クォットさんによると、アイツはあのフィルドさんのクローン。能力は政府特殊軍の将官に匹敵する。
[攻撃セヨ!]
「邪魔だ! お前たちのボスはどこにいるッ!」
バトル=ベータが火花を散らしながら倒れる。俺は焦っていた。もし、クナが別の場所から乗り込んで来たら、アイツが、ミュートが危ない!
「トワイラル准将! エリア223より緊急の連絡が!」
「なにっ、どうした!?」
「バトル=パラディン4体を引き連れた1人の少女が――」
俺は周りのバトル=アルファを斬り壊すと、彼の話が終わらぬ内に走り出していた。間違いない、クナだ! ミュート……!
◆◇◆
【セルディス2号艦 廊下】
私は手をかざす。その瞬間、アサルトライフルを持って私達を撃っていた兵士の身体が腹部で横に斬れ飛ぶ。おびただしい量の血が白に近い灰色の床や壁に広がる。
「撃て撃て! 怯むな!」
「喰らえッ!」
「邪魔だ。死ね」
私は鋭い目で彼らを睨みながら高度魔法で斬り殺していく。悲鳴と絶叫がこだます。ママを連れ去った者たちの声。ママの敵は皆殺しだ!
「ぐぇッ!」
「ぎゃぁあッ!」
「うぐッ!」
銃弾が頬をかする。血が伝う。私はそれをそっと拭うと、拳を握りしめる。ママに少しでも酷い事してみろ。この艦の人間全員殺す……!
「殺せ! 子どもとて手加減す――」
将校と思われる男の首が斬れる。痛い事いっぱいされて無理やりつけさせられたこの力。スゴイ、人を簡単に殺せる。
私は腕を振る。その瞬間、電撃や火炎弾が飛び、大勢の兵士を一気に吹き飛ばしていく。実験施設の敵よりも弱いね。
私は扉を開ける。細長い廊下が広がっていた。廊下の奥の扉だ。あの扉の先にママがいる。私、分かるんだ……!
「そこまでだ」
「……あら、まだいたの?」
一番奥の扉を開けようとした時だった。黒髪に黒い瞳をした政府軍の上級将校が現れる。両手に持つのは2本のアサルトソード。ここまで全力で走って来たのか、息が上がっていた。
「お前が、クナか……!」
「そうだよ。ママを迎えに来たの」
「そうか、だったら尚更進ませるワケには――」
「お兄ちゃん、邪魔」
彼は突然、腹部に強い衝撃を受けて倒れる。高度魔法の1つ――打撃。彼はお腹を抑えてその場にうずくまる。内臓やっちゃったかな? まぁいいや。
私は扉を斬り壊す。これも高度魔法。打撃とは違い、斬撃だけどね。扉の先にいたのは1人の女の子。栗色の髪の毛に同色の瞳。
「クッ……!」
女の子は私にクロスボウを向けようとする。でも、それよりも先に私が衝撃弾を飛ばす。白い衝撃弾は尾を引きながら、女の子に当たる。爆発。女の子はその場に倒れる。
私は床に転がったクロスボウを遠くに蹴り飛ばし、女の子の胸倉を掴んで言った。
「シールドを解除しろ」
「うっ、だ、誰が……!」
胸倉を掴んだまま、私は彼女を壁に押し付ける。
「死にたいか?」
私はママのいる独房のシールドを見る。薄い青のシールド。隣の解除パネルはパスコード式だ。パスワードが分からないと開けれない。
「ママ、もう少しだけ待ってね」
シールドのすぐ側まで来ているママに微笑みかけながら私は腰に剣を抜き取る。その剣で女の子の右手手の甲を突き刺した。女の子は悲鳴を上げ、暴れ出す。
「痛いだろ? これ以上痛い思いしたくなかったら、パスコードを言え」
「うぅっ、いや、だっ! トワイラル助けてッ……!」
女の子は泣きながら誰かに助けを求める。トワイラル? 誰だったかな?
「ミュ、ミュートを、放せッ!」
「……ん?」
私は入ってきた扉の方を見る。さっきのお兄ちゃんが血を吐きながらコッチを見ていた。ああ、アレがトワイラルか。
「お兄ちゃん、この子好き?」
「な、なにをッ……!」
「この子ね、私にパスコードを教えてくれないんだ。だから、――」
私は彼女の手から剣を引き抜く。べっとりと血がついていた。女の子を脚でうつ伏せにすると、彼女の首に剣の先っぽを当てる。
「パスワードをお前が言え」
「…………!?」
「言わなかったら、この子の首と胴が離れるよ」
本当は超能力の斬撃でも簡単に斬れるケド、相手の心理効果を考えれば、こうするのがいいよね。この方が、脅迫にいい。
「トワ、イラル……。ダメだ、よぉっ……」
「うるさい、黙れ」
「ミュー、ト……」
「お兄ちゃん、パスコード言うまで死なないでね」
「……約束は、守れッ! 248234だッ!」
血を吐きながらお兄ちゃんは言った。私は操作パネルにパスコードを入力していく。全部の数字を入れ終えると、シールドは消える。お兄ちゃんはウソをつかなかった。
「クナ!」
「ママっ!」
私はママに抱き着く。やっと会えたっ! ママだッ!
「急ごう! 早くここから出よう!」
私はママの手を引いて独房から出る。お兄ちゃんと女の子はその場に倒れていた。2人共死んじゃったかな……?
「クナ……」
「ん? どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
ママは一瞬だけ、悲しそうな表情を浮かべた。2人の血を見て、イヤな気分になったのかな……? それとも、私、なにか悪い事をしたのかな……。
私とママは近くのエレベーターに乗り込む。エレベーターの先にはアサルト・シップがあったハズ。それを使えば逃げ出せるハズ。
「クナ、ありがとう。私、信じていたよ。絶対に助けてくれるって」
「当たり前じゃん。私、ママの役に立ちたいもん!」
「……ありがとうっ」
そう言うとママは素早く涙を拭う。私はしっかりとそれを見ていた。
私は知っている。ママは連合軍の中じゃあまりいいことされていない。いつも苦しんでる。こっそり泣いている。なぜかは私には分からないけど、いつかママと一緒に連合政府を倒せたらいいな。
そのために私は痛い訓練に耐えているんだから。もっともっと強くなるために、いっぱい頑張っているんだ。ママの役に立つ為に。
私はぎゅっとママの手を握る。ママ、大好き……! いつか、もっとママの役に立てるって信じているッ……!




