第1話 敗北の女性将軍
[北北西より、政府軍中型飛空艇3隻出現!]
[我が軍の軍艦2隻墜落!]
[本艦に敵艦1隻接近中!]
私は椅子から立ち上がる。深夜2時、私はとある空域で政府軍と戦っていた。外では無数の軍用兵器や軍艦、飛空艇が飛び交っていた。最高司令室の大窓からも激しい戦闘の様子が見えていた。
政府軍の白い機体をした大型飛空艇がこっちに向かって飛んでくる。大型飛空艇プローフィビだ。総兵力1万6千。私の今乗っている軍艦よりも大きい機体だ。
[シールドを強化!]
[パワーチャージ開始!]
[左舷、砲撃部隊は攻撃の準備にかかれ]
私の周りでは人間型ロボット――バトル=コマンダーたちがコンピューターを操作し、指令を出していた。
私の乗る軍艦のすぐ横を政府軍の大型飛空艇が通る。その瞬間、軍艦は大きく揺れる。敵軍の砲撃が始まったのだろう。
[ケイレイト将軍! 敵の砲撃です!]
「……シールドを強化して! 戦線を離脱するよ!」
[イエッサー!]
もう私たちが負けるのは分かっていた。政府軍と私たち連合軍だと、政府軍の方が圧倒的に強かった。政府軍の飛空艇は強く、頑丈だった。
また、飛空艇を扱うのは訓練された政府軍人。一方、こちら側は人間型の機械であるバトル=コマンダーやバトル=アルファ。決して優秀な機械とはいえない。
[将軍、追撃を受けますが……]
「2号艦と4号艦に命令を。私たちの横にある飛空艇を攻撃して」
[ケイレイト将軍、2号艦はもう破壊されてます]
私は窓から2号艦の方を見る。1隻の中型飛空艇によって激しい砲撃を加えられ、機体は炎上し、傾き始めていた。
すでにシールドは破壊されたらしく、砲弾1つ1つの攻撃で大きなダメージを負っていく。早くしないと私たちもああなる。私が乗ってるこの艦も今、破壊された2号艦と何ら変わりはない同タイプの軍艦だ。
「他の軍艦は?」
政府軍の大型飛空艇が全部で1隻、中型飛空艇6隻。私たちの軍艦は10隻。数では勝っているけど、力では圧倒的に負けていた。
[4隻が落とされています。他の軍艦も全機交戦中とのことです]
マズイ。このままだと私もやられる。こうなったら追撃覚悟で遠くにワープするしかない。ワープすれば、戦線から抜け出せる。
でも、失敗すれば私は死ぬ。成功しても、安全に着陸する頃には軍艦は半壊状態だろう。
「死ぬよりかはマシ!」
[えっ?]
「撤退! 撤退せよ!」
私は覚悟を決め、叫ぶように言う。バトル=コマンダーは慌ててタッチパネル式のコンピューターを操作し始める。
逃げるんだ。逃げてもいい事はないけど、何の考えもなしに前へと進むよりかはマシだっ! 時には撤退する事も必要なんだっ!
[ケイレイト将軍、ティワード政府代表より通信が入っていますが……]
「出して」
[イエッサー]
目の前の立体映像投影台に立体映像が映し出される。黒いマントに黒い服を着た連合政府グランド・リーダーのティワード政府代表。
[ケイレイト将軍、戦況はどうなっておる?]
「……私たちの負けです」
私は俯いて言った。タイミング悪く言って来たな……。今まさに負けるところ。これから撤収する予定だ。
[そうか、それは残念だ。パトフォー閣下がお知りになればさぞお怒りになるであろう。こうも何度も敗北を重ねるならばその内、キツイ罰が下るであろうな……]
そう言うとティワード政府代表の立体映像は消える。アッチが通信を遮断したのだろう。
私は拳を握る。体が僅かに震えていた。頭の中でティワード政府代表の言葉が何度も駆け巡る。パトフォーの怒り、敗北を重ねる、キツイ罰……。
「こんな、こんな多目的機械軍団で、訓練された国際政府軍に勝てるワケないじゃないかッ!」
私は腰にぶら下げていた自分の武器である白色のブーメランを握り締め、灰色の床に叩き付ける。ブーメランは床に叩き付けられ、転がる。頑丈なブーメランだからこれくらいで砕け散ったりはしない。
バトル=アルファは多目的機械だ。基本は戦闘用だが、色々な用途に応じて使えた。そのため、戦闘に特化しているというワケじゃなかった。
[エネルギー装填! 30秒後にワープ開始!]
私はブーメランをそのままにして最高司令室から出て行く。あとは私が何かする必要はないだろう。4号艦が邪魔しているのが見えたから、たぶん逃げ切れる。4号艦は墜落すると思うけど。
重い足取りで薄暗い廊下を歩く。何度か軍艦が揺れる。政府軍の砲撃を受けているのだろう。邪魔されつつも攻撃できる政府軍は本当に優秀だね。
「今月は7回殺り合って、5回敗北。私もそろそろ捨てられるかもね……」
私はIDカードを挿し、ロックされた扉を開ける。来い灰色の扉は左右にスライドして開く。ここは自分の部屋。私は白いシーツが敷かれたベッドに転がる。ふぅ、疲れた……。
気がつくと、軍艦が揺れなくなっていた。恐らくワープ中なのだろう。しばらくは何もしなくていいな。出た所に政府軍がいたら終わりだけど。
私は白い枕を抱き寄せる。あーあ、こんな機械軍団で戦争に勝てるのだろうか? 確かに一時期は政府滅亡は時間の問題とさえ言われたのに……。