第18話 政府代表マグフェルト
ファンタジアシティの戦いから早くも1ヶ月が過ぎた。
ウォゴプルを失い、指揮官オーディンの逃走によって連合軍は敗走した。パトラー准将とピューリタン将軍、そしてわたしはファンタジア州の郡都を次々と陥落させ、連合軍を完全にファンタジア全域から追い出した。
「クォット将軍、ファンタジア州の郡都は完全に陥落。ファンタジア州を奪還しました」
「うむ。これでもう連合政府がファンタジア侵攻を企むことはまずないだろう」
わたしは大型飛空艇の中からファンタジアの大地を見ながらそう言った。これでこの地の戦いは終わった。だが、まだまだ他の州では連合の支配や戦いが続いている。戦争そのものは終わってはいない。
「クォット将軍、マグフェルト総統より緊急の連絡が入っています」
「なにっ? すぐに向かおう」
わたしは最高司令席を立つと、プローフィビの艦橋から出て行く。マグフェルト総統から緊急の連絡とは一体……?
【大型飛空艇 通信室】
わたしは通信室に入ると、椅子に座り、通信を繋げる。目の前に2、3倍はあるであろうマグフェルト総統の立体映像が浮かび上がる。
「マグフェルト総統。特殊軍将軍クォット、参上致しました」
[うむ。ファンタジアの平定は見事であった。これで連合政府は貴重な魔法クリスタルの供給源を失った]
ファンタジア州はファンタジアシティを中心に全域で貴重な資源である魔法クリスタルが採取出来た。また、魔法クリスタルだけではなく、豊富な資源にも恵まれ、肥えた土地は多くの食物を育てる。この地はまさに天の土地であった。
「我が軍はこれより南進し、連合に支配されたクロント州へと侵攻するつもりです。また、ピューリタン将軍の部隊は東進させ、プレリア州とその更に東のレート州へと侵攻予定です」
南のクロント州と東のプレリア州・レート州を平定すれば、広大な地域を奪い返せる。特にファンタジア・クロント・プレリアの3州は穀倉地帯でもあった。現在この地を奪われている為、世界中で食糧不足状態となっていた。
[確かにオーディンのいない今は大きなチャンスであろう。しかし、クォット将軍。お主には別の任務がある]
えっ?
「ど、どういう事ですか? 4州を一気に奪い返すチャンスですが……」
この4州を失えば連合軍にとってかなりの痛手となる。今、圧倒的に劣勢に立たされている国際政府がこの4州を奪い返せば、一気に立て直しを図る事ができるのだ。
[4州の平定及び復興にはクディラス将軍、ホーガム将軍、プトレイ将軍、ジェルクス将軍の4人とその部隊を向かわせよう。ピューリタン、パトラー、そして君は部隊を残して早急に撤収せよ]
「……分かりました」
わたしはそう言って椅子を立ち、彼に向かって一礼すると、マントを翻して出入り口へと向かう。マグフェルト総統の立体映像は消えていった。
「…………」
*
【ファンタジアシティ 防衛師団本部】
マグフェルト総統の命令から数日後、4人の将軍はそれぞれ20万もの軍勢を率いてこのファンタジアシティへとやって来た。
作戦会議の結果、ホーガム将軍がクロント州へ。他の3人がプレリア州とレート州へと進行する事になった。
わたしの部隊は部下のウェイダ准将、ファイザ准将、セメイト准将、ハーゲル少将の4人が率いて、ファンタジア州の復興と治安維持・防衛を行う。
ピューリタン将軍の部隊はトワイラル准将とミュート准将が、パトラー准将の部隊はクロノス大佐が指揮するらしい。任務はわたしの軍と同じだった。
そして、ファンタジアシティから撤収する前日の夜、わたしはピューリタンとパトラーを密かに呼び出した。
「……今回のこと、どう思う?」
「どうって、マグフェルト総統の判断ですか?」
「そうだ。彼はあくまで政府元老院の政治家だ。それがどういうワケか政府総帥と政府代表の地位を兼任した挙句、軍事にまで口を出す。彼の判断は間違ってはいないが……」
実はわたしはマグフェルト総統に恐れを抱いていた。彼は政府代表時代、再選して2期議長の座についている。それだけでなく、戦争が始まれば、それを理由に自身の権力を強める。これではいずれ独裁になりかねない。
「マグフェルト総統はこの戦争を利用しているってことですか?」
「……だったら、まだいい」
「えっ?」
「なにっ?」
わたしは驚いてピューリタンの方を向く。わたしはパトラーが言ったようにマグフェルト総統マグフェルト総統はこの戦争を利用して権力を高めているのだと思っていた。
「私は……あの男こそが戦争を引き起こした張本人だと思っている」
「なんだと!?」
「連合政府の真の支配者とウワサされる“パトフォー”。その正体がマグフェルト総統だと思っているんだ」
わたしはあまりの事に唖然としてしまう。しばらく沈黙が続いた。
「何の為に、戦争を……?」
「やっぱり自分の権力増強だと思う」
「そんな……! じゃぁ、私たちもティワードも彼の駒みたいなもの!?」
この時、わたしは瞬間的に10年前の事を思い出した。財閥連合と国際政府の密約。今思えば、なぜあんな短期間で簡単に成立したのだ……?
当時、マグフェルトは今ほど権力を持ってはいなかったが、それでも政府代表だった。オモテでマグフェルト政府代表として政府を操り、ウラでパトフォーとして財閥連合を操っていたのならば――!
「この事は、表では絶対に話すな……」
わたしはそれだけ言うと部屋から出た。冬だというのに全身から汗が出ていた。マグフェルト総統とパトフォーが同一人物、か……。
もし、そうだとしたら状況は最悪だ。国際政府と連合政府は、世界はもはや彼の奴隷人形となっているのだろうか? ――わたしは悪夢を見ているのだろうか? 希望は、もうどこにもないのか――?




