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黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 幻想の師 ――幻想都市ファンタジアシティ――
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第9話 動かぬ封鎖艦隊

 【大型飛空艇プローフィビ 最高司令室】


 私は最高司令室の正面にある窓から青い空に浮かぶ連合軍の軍艦の艦隊を見ていた。1隻だけ軍艦じゃない飛空艇がある。キレイな球状をした大型飛空艇。連合軍の旗艦であるコア・シップだ。


「敵は軍艦25隻にコア・シップが1隻です」

「うん。あの中に指揮官が……」


 大きな球状型機体の最上部からせり出すように造られた小さなエリア。そこに窓ガラスが見える。恐らくあれが最高司令室だ。指揮官はそこにいる。


「パトラー准将、敵の小型戦闘機です! バトル=スカイとバトル=デルタが突っ込んできます!」


 部下がそう叫んだ瞬間、飛空艇が揺れる。周囲をハエのごとく無数のバトル=スカイとバトル=デルタが飛び交う。

 バトル=スカイは球状の機体をした軍用兵器。左右に大型銃撃機を持ち、正面の銃砲でより強力な弾を撃って来る。

 バトル=デルタは二等辺三角形をした軍用兵器。機体の上下左右に取り付けられた計4つのマシンガンで攻撃してくる。また、爆撃も可能らしい。


「連中、シールド・ジェネレーターを狙っています!」

「全艦、軍用兵器フェンサーを飛ばせ! シールド・ジェネレーターを守るんだ!」


 私は叫ぶように言う。シールドの消えた飛空艇から順番に集中砲火で壊す気だ!


「パトラー准将! フェンサーだけでは守り抜けません! 圧倒的に敵の数が多すぎます!」

「クッ……!」


 私たちの軍用兵器であるフェンサーは強い兵器だけど数が少ない。各艦30機ずつしか持っていない。全部で50体。それに比べ、敵は何百体もいる。


「パトラー准将! 敵は小型機です! 小さすぎて狙い撃てません!!」

「連中は!?」


 せめて、軍艦の艦隊がコッチに来ればいい。封鎖艦隊の隙を突いてファンタジアシティに行ければ……。でも、敵の艦隊は包囲網を崩していない。軍艦は1隻も動いてはなかった。


「パトラー准将! 4号艦がもう持ちません! こののままだとシールド・ジェネレーターが破壊されます」

「6号艦、7号艦、ピューリタン将軍の旗艦も限界です!」

「准将! ファンタジア防衛師団本部要塞が陥落の危機にあります! 要塞を守っていたシールドが破壊されたそうです!」


 状況は最悪だった。


「クォット将軍より、伝令! 敵が正門を破壊し、なだれ込んできたと!」

「4号艦のシールド・ジェネレーターが破壊されました!」


 私ははっと4号艦の方を見る。25隻もの軍艦の艦隊は一斉に砲撃を始める。今まで何もしなかったのにいきなりの砲撃だった。


「本艦を使い、4号艦を守れ!」

「パトラー准将!?」

「本艦は大型飛空艇だ! まだシールドもある! 4号艦を……殺すなッ!!」

「イ、イエッサー!」


 せめて4号艦が逃げるまでの時間稼ぎになれば……! 私を乗せた飛空艇は大型でシールドも機体そのものも頑丈だ。でも、4号艦は中型飛空艇。機体は大きくもなく、頑丈でもない。シールドがないと撃ち落される!


「4号艦の前に、う、うわッ!」


 4号艦の正面に来ると軍艦の艦隊の集中砲火を浴びるのは私たちの飛空艇。機体は激しく揺れる。シールドも消えかけているらしい。


「…………。……全艦に告ぐ! ファンタジア救出は不可能! 全部隊撤収せよ!」

「じゅ、准将!!?」


 将校たちは驚いた表情を浮かべる。私はそんな部下たちを睨むようにして最高司令室を出て行く。これしかない。これが最善なんだっ……!



◆◇◆



 【コア・シップ 最高司令室】


[中将、政府艦隊が逃げ始めました]

「んんっ……」


 俺は機体の方向を180度向ける政府艦隊を見ていた。簡単に逃げ出したが、どうやらビビったようだな。この勝負、俺の勝ち……か?


[追撃を命令しますか?]

「んん?」


 追撃? そうか、そういう事か! 連中、軍艦の艦隊に追撃させるためにわざと逃げているな。追撃させ、包囲網を解かせる気だ。

 我が艦隊が包囲網を解いた瞬間、連中は引き返して来るぞ……。バカめ、そんな手に乗る俺ではないわ。


「各艦、その場を離れるな。我らの使命はあくまでファンタジアシティ封鎖だからな……」


 俺は椅子にどっかりと座り込む。これでいい。つい先ほどファンタジアシティの防衛師団本部要塞のシールドは消滅した。今日でファンタジアは晴れて我らのものとなる。


[中将閣下]

「なんだ?」

[パトラー旗艦が格納庫から大量の軍用物資を捨ててます]

「ほっとけ」


 今度は物でおびき寄せる気か? アレを取りに行った瞬間、連中は引き返してくるのだろうな。なるほど、パトラーはそこそこの指揮官であるらしいな。


[グラボー中将]

「んんっ……。おお、バトル=オーディン将軍ではないですか!」


 俺の椅子の目の前に映る青い立体映像の姿は連合軍七将軍の1人・バトル=オーディン将軍だった。今まさにファンタジアシティで戦ってる将軍だった。


[敵の援軍はどうなりましたか?]

「ご心配いりません。敵は退却しました。これでファンタジアシティは我らのものです」

[そうですか。それはお疲れ様です。ですが、国際政府もファンタジアの重要性はよく分かっているハズです。いつ引き返してきても不思議ではありません。警戒を怠らないよう、よろしくお願いします]

「はい、閣下……」


 そう言うとバトル=オーディン将軍の立体映像は消滅する。俺は正面の大窓に目を移す。政府の艦隊はずいぶん遠くに飛び去っていた。


「コア・シップのシールドをカットし、バトル=スカイとバトル=デルタの部隊を撤収させよ」

[イエッサー!]

「連中がおかしな動きをしたら撤収途中でも即座にシールドを起動させよ。あの距離なら十分に間に合う。例え小型戦闘機でも、な……」


 もう十分だ。あれだけ離れればもう大丈夫だ。例えシールドをカットした隙を突いて突っ込んできても間に合わない。速度の速い最新鋭の小型戦闘機・小型軍用兵器でもそれは不可能だ。

 ファンタジアが落ちれば、全軍を回せる。そうすれば彼女たちは死を迎えるだろう。最善の策は首都へ即時撤収さ。若い女軍人よ……。

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