第1回☆桜ノ雨 ~前編~
今回はボーカロイドの初音ミクが歌う、「桜ノ雨」です。ボカロが嫌いな方でも気に入られると思います。
――――――弥生=三月、今はすっかり桜色に染め上げられたこの町。窓を開けるとフワリと桜の香りが辺りに立ち込める、私にとって一番幸せな月とこの町。
中学三年生、中学生活、義務教育。どれにしてもこれが最後の春だ。そんなもう二度と来ない春をこの町で過せる――――――。そんな日常からしたら当たり前のことだが、卒業までの目まぐるしく移り変わる一週間の間に私は変わった。
土ぼこりをあげて競い合った校庭、窮屈で着崩した制服、机の上のラクガキ。どれもこれも今となっては懐かしい物でしかない。それでも私たちの証。
そんなこんなで迎えた卒業式の前日。授業中、不意に涙が込み上げそうになった。もうこの先生たちともおさらばだ。いつかの私なら泣いて喜んでいるだろう。でも今の私の涙は「お別れ」の涙だろう。慌てて目を擦る。辺りをこっそり窺うと案外、私だけではないようで。何人かの女子は目がウルウルしていてとても面白かった。
十人十色に輝いていた日々――――――。白紙の答辞には伝えきれないほどの思いの数だけ涙が滲んだ。幼さから傷つけあった日々。あれから少しくらい大人になれたのかな?
そういえば、とあることを思い出した。私の思いは届いたのだろうか?一年半かけてゆっくり、慎重に書いた初めての恋文。それを下駄箱の中にそっと置き、願った。
―――――――オモイガトドキマスヨウニ―――――――。
それっきりうんともすんとも言わなかった――――――。そう思った刹那、その張本人が現れた。バッチリ目が合ってしまった。無表情だった。ツカツカとこっちに歩いてくるが動けない。間が10センチしかないのではというほど近づくと私はその人を見上げる形になる。フッとその人の目が和らぐ。――――――この人、こんなに背が高かったっけ?そう思った。せいぜい頭1つ分ほどだと思っていたのに、頭2つ分ほどに思える。その人が大きな長い腕と手でそっと繊細なガラス細工を手に取るような感じで私を包み込む。
その人の匂いが桜の香りと混ざり、絡まって鼻腔をくすぐる。そのお返しにと私も彼の割とほっそりしたウエストに手をまわす。とても幸せな一瞬だった。そしてそれが答えだと全身で感じた――――――。
次回は後編です。