『あみちゃん』
面白かったら高評価いただけると嬉しいですー!
ボイスレコーダー の再生を再開します。
[▶︎再生]
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『あっつぅ〜、なぁエアコンもうちょい下げね?』
私が勤めている◯◯警察署の管轄で事件が発生した。内容は、住民の相次ぐ連続失踪だ。
『もう最低温度だよ。16度』
『マジ? ヤバすぎ……』
現在行方を捜索中の失踪者はほとんどが女性で、その数十二名。うち二人は同じ住居から忽然と姿を消した。
それが現時点で判明している最新の失踪事件であり、そして、唯一の証拠品であるボイスレコーダーが見つかった案件だった。
ピッピッ、と何度かリモコンを操作する音が続く。
被害者はその家に住む天音 舞さん(17)と友人の鏑木 聖司さん(17)の二名。通報者は買い出しから帰ってきた天音さん宅のお母様。帰宅したときすでに二人の姿はなく、机の上には見慣れないボイスレコーダーが一つ置かれているだけだった。家を離れていた時間は一時間程度だったという。
『こんな日はアレだな! なんか怖い話しようぜ』
私の仕事はこのボイスレコーダーの内容を検め、事件当時の状況を把握すること。そして、持ち主の特定に繋がる情報を得ることだ。
『涼むためにって? あんた、それで涼しくなったことあるの?』
『いや、全然。でも夏って感じでいいじゃん』
吐息がかすかに響く。
『じゃあ、とっておきのやつ話したげる』
『お! 待ってました!』
『これは私が小学生の頃、友達から聞いた話なんだけど。その子、いつも使っている通学路で、毎日帰り道の時だけ同じおばさんに「今日もお勉強頑張って偉いね」って声をかけられてたんだって』
『ほぉ』
『友達の名前はアカネちゃんって言うんだけど、そのおばさんはなぜかいつもアカネちゃんのことを「あみちゃん」って呼んでくるらしくて』
『へぇ』
『いつもニコニコ笑ってそう呼ばれるから、アカネちゃんもなかなか違うって言い出せなかったらしいんだけど、なんか悪いことをしてる気分になってきて、ついに学校帰りに「人違いです」って伝えたの』
『はーん』
『相槌ウザイ』
『イタッ! ゴメンて! で、言ったらどうなった?』
少しの沈黙。冷風と思われるノイズがかすかに響く。
『そのおばさん、急にアカネちゃんの手をガシッて掴んで、家に連れ込もうとしたんだって。そして言ったの。「あみちゃん、今日もお勉強頑張って偉いね」って、いつもみたいにニコニコ笑いながら』
『……うわ』
『アカネちゃん、怖くなって思いっきり腕ほどいてすぐダッシュで逃げたんだって。必死で走って公園を突っ切ってなんとか家に着いて、そこで振り返ろうか迷ったんだけど「後ろから追ってきてたらどうしよう」って思ったら振り向けなくて結局急いで家のドアの鍵を開けて中に入ったの』
『閉めた時、見えた?』
『たぶん見えなかったんだと思う。私が聞いたときはこのあと「超怖かったから舞ちゃんもあの通学路使わないほうがいいよ」で終わりだったから』
『なるほどなぁ。ヤッバぁ、そのオバサン』
『でしょ? ヤバいよね。結局そのあとすぐアカネちゃんも引っ越しちゃったしさ』
『そのオバサンって正体なんなの? 実は怪異的な何かだった〜みたいな』
『いや流石にないでしょ。はい、私の話はこれでおしまい。次、聖司の番』
『あっやっぱ話さないとダメか』
『当然』
『そうだなぁ。怖い話、怖い話かぁ……。んじゃあ、こういうのは? これは俺がネットの古い掲示板で知った話なのですが、あなたはキリハギサマという存在をご存知でしょうか?』
『なに、その話し方……まぁいいや。キリハギサマって?』
『やはり、ご存知ないですか。実はこれは、とある山間部の村落でひっそりと語り継がれていた存在でして。この村で生まれ育ったAさんによるとそこでは誰もが知る怪談話だったそうです。
だから当然その内容も対処法もみんな当たり前に知っているはずだと、Aさんはそう思い込んでいた。そのように書かれた文章には深く後悔が滲んでいました。
Aさんが上京した年の夏。ちょうど今のようにじっとりと汗ばむような湿った空気の中、Aさんは大学の近所にある食堂でサークル仲間たちと次の映画の題材について各々アイデアを出す流れになったそうです。
昼ご飯にしては遅すぎる時間のため団体客は彼らの他になく、ほどなくして実質的な貸切状態となりました。Aさんはすっかり常連となった食堂のおばさんから料理の載ったトレイを受け取り、席に着きます。そこでAさんは今と同じように怖い話の題材として、このキリハギサマの話をしました。
机の上にボイスレコーダーを置き、録音ボタンを押して。開口一番、こう言いました』
声が途切れる。冷風と思しきノイズと布が擦れるような音が響く。
『キリハギサマについて噂してはいけない』
『……』
『キリハギサマは自分の話を見聞きした人のもとに現れる。キリハギサマに受け答えしてはいけない。キリハギサマに触れてはいけない。キリハギサマを見てはいけない。
もしも破れば、大事なものを奪られてしまう。
それは声かもしれない。モノかもしれない。自分の身体やあるいは習慣かもしれない。
大事なものを切って、剥いで、奪られたくなければ。キリハギサマの噂をしてはいけない』
声が途切れる。冷風と思しきノイズがかすかに響く。
『それからAさんは机の上を指差し、キリハギサマについて伝えるときは必ず記録を残すこと。そうすればその記録が自分の身代わりとなってくれる、と言ったそうです。
机の上のボイスレコーダーを止め、Aさんはサークル仲間たちに感想を求めました。この題材は使えるか、と。しかし、反応はまばらであまり芳しいものとは言えず、Aさんは自分の語りに少し自信をなくしたんだとか。ともあれこの話はこれでおしまい……そうなるはずでした。
Aさんがキリハギサマについて話した翌日。その場に居合わせたサークル仲間男女5名が、突然寮から姿を消したそうです。
彼らの部屋はどれも私物がそのまま置かれており、中にはお湯を入れたカップ麺が机に放置されたままタイマーのアラームが鳴り続けている部屋もありました。
寮の防犯カメラも外に出た姿は映っておらず、ついに警察に通報する事態となりました。
Aさんはとても混乱したそうです。いなくなった仲間たちの人柄を知っていることもあり、必ず何か原因があるはずだと。そう思い調べると小さな異変は他にも。臨時休業してしまった食堂、探しても見つからないボイスレコーダー。そこで、気づきました。
自分がボイスレコーダーに録音していたとき、彼らは一言も話していなかったことに。
もしも自分がもっと真剣に伝えていたら。いや、そもそも自分があんな話をしなければ。Aさんは悔やみ、そしてもしも仲間たちがこの文章を見ているなら戻ってきてほしい。タチの悪いドッキリだったと安心させてほしい。そんな呼びかけが綴られたところで、このお話は締めくくられておりました』
声が途切れる。冷風と思しきノイズがかすかに響く。
私はチラリと残り時間に目を向けた。あと40秒程度か。目頭をグリグリと揉み、軽く腕を伸ばすとスゥーっと力が抜け、途端に眠気がやってきた。
『どうよ?』
『なんとも。というか、私らその話したのに録音してないじゃん』……ん? 録音していない?
『そのキリハギサマに会っちゃうんじゃないの?』いや、たしかボイスレコーダーを操作したと会話で
『ただのネットの怪談だし、別によくね?』違う。あれは怪談話の登場人物がおこなったものか。内容は日常会話が中心で録音するようなものではなかった
『あー、でもあったほうが』おばさんはなぜ執拗に「あみちゃん」と呼んで
『雰囲気は出たかもな』いや、関係ないことを考え始めてる。忘れよう。キリハギサマを見てはいけない。
──結局、このボイスレコーダーはいったい誰のモノなのか。
ピンポーン。インターホンの呼び出し音が鳴る。冷風と思しきノイズとスリッパが床を擦る音が響く。
ガシッと、私の腕が掴まれた。
振り返るとニコニコと笑顔を浮かべたオバサンと目が合った。
[■停止]
07m26s / 07m40s
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「あみちゃん、今日もお勉強頑張って偉いねぇ」




