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番号違いの恋  作者: 蒼月想
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6話: 日曜日のハプニング

夢から目覚めたとき、ほんの一瞬、隣に誰かがいる気がした。


でも、目を開ければ、そこにはいつもの天井と、静まり返った部屋。


布団の中で小さく息を吐いた。まだ日曜日の朝。時計の針は、いつもよりゆっくり進んでいる気がした。


なんとなく、胸がざわついていた。


夢の中に湊が出てきたせいだ。何も話さず、ただ隣にいて、笑っていた。

あの静かなぬくもりが、まだ手のひらに残っているような気がして、落ち着かない。


「……ちょっと、出かけてみるか」


顔を洗って、適当なワンピースに袖を通し、出かける準備をする。

向かった先は、駅前のスーパー。目的なんて、特にない。ただ、じっとしていられなかっただけ。


外に出ると、昨日の雨が嘘みたいに晴れていた。

空はまだ少し雲が残っていたけど、その隙間から差し込む陽射しが眩しい。


「こういう日って、誰かと一緒にいたくなるよね……」


思わずひとりごちた。

なんてことのない日曜日。だけど、そんな“なんてことのない日”に、一緒に過ごしたい人がいること自体が、もう特別なのかもしれない。



その再会は、あっけないほど突然だった。


スーパーの前で、風にあおられた自転車が倒れてきて、近くにいた小学生の男の子がそれに巻き込まれそうになった。


「危ないっ!」


私はとっさに子どもをかばった。その子は無事だったけど、私の膝は見事にアスファルトに擦れていた。


「いたた……やば、血……」


慌ててバッグの中を探る。ティッシュはどこ、絆創膏なんて入れてたっけ……。


あたふたしていたそのとき、ふいに背後から影が差した。


「……千紗さん?」


その声に、心臓が跳ねた。


ゆっくり顔を上げると、そこに湊がいた。


白いTシャツに黒のジャケット。少し寝癖が残った髪と、私を見下ろすようにのぞきこむ視線。


「大丈夫ですか?」


彼は一歩近づいて、しゃがみ込む。


「あ、うん……ちょっと派手にすりむいただけ。大丈夫、大人だから」


そう笑ってごまかしたつもりだったけど、彼は真面目な顔のまま、ポケットから何かを取り出した。


「非常用です」


それは、絆創膏だった。


「……あ、ありがとう。なんでそんなの持ってるの?」


「靴擦れしやすいから。あと、転ぶ友人が多くて」


「それ、どんな人間関係?」


「いや、まあ……念のためってやつです」


そんなやりとりの合間にも、彼は手際よく私の膝を拭いて、そっと絆創膏を貼ってくれた。


いつも気だるそうなその手が、思いのほか優しくて、なんだかくすぐったい。


「痛くないですか?」


「うん、大丈夫。ありがとう、ナースみたい」


「じゃあ、時給ください」


「最低賃金でよければ」


「うーん、やめときます」


ほんの数日ぶりなのに、こうして言葉を交わすのは、ずいぶん久しぶりな気がした。

言葉の端に、少しだけ距離がある。でも、その距離は心地悪くなかった。


むしろ――懐かしい、と思った。



ふたりで並んで歩きながら、スーパーの横のベンチに腰を下ろす。


「最近、どうしてました?」


湊がふとそう聞いた。


その声は軽い調子だったけど、どこか探るような、慎重な響きがあった。


「うーん……仕事して、寝て、また仕事して……」


「忙しそう」


「まあ、暇なときよりは、気が紛れていいかな」


本当は言いかけた言葉があった。“あなたのこと、ずっと考えてました”って。


でも、それを口にするには、まだ時間が足りない気がした。


私も聞きたかった。あの日、駅前で話してたのは誰だったのか。

どうして、メッセージが来なかったのか。

……今、私のことをどう思ってるのか。


でも、聞いたら何かが壊れてしまいそうで、私は口を閉じた。


しばらく沈黙が続いたあと、湊が立ち上がる。


「また、どこかで会うかもしれませんね」


「うん、たぶん、またどこかで」


別れ際、彼は何か言いたげだった。でも、何も言わなかった。


そして私も、なぜか「またね」と言えなかった。



帰り道。


カバンの中を整理していて、ふと、湊が貼ってくれた絆創膏の包み紙が手に触れた。


あの手の温度。短い会話。静かな笑い声。


それはまだ、恋とは呼べないかもしれないけれど、

確かにそこにあった、小さなぬくもりだった。


しばらくその包み紙を捨てられずに、私はポケットの奥にそっとしまった。


たぶん、またどこかで――なんて、ぼんやり思いながら。


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