番外編・湊の職場同僚視点: 昼休みの青いボタン
「湊さんって、そういうのあるんですね」
昼休み。
レンジの前で、ちょっと焦げた冷凍チャーハンの匂いを嗅ぎながら、そう言ってみた。
彼は、例によって「何が?」と、とぼけた顔。
「いや、ボタンない日、機嫌悪かったし」
「そんなことないよ」
「ありました。3回は見た」
職場の中では、湊さんはわりと評判がいい。
無口で淡々としてるけど、ちゃんと見てくれてる人って感じで、後輩にも優しい。
でも、たまに、ほんとにたまに、ポケットをそわそわ触る日がある。
それが妙に印象的だった。
そしてその日には、いつも左胸のあたりに「青いボタン」がなかった。
*
あるとき、コーヒーを買いに行ったとき、彼がぽつんとつぶやいた。
「隣の人と、最近うまく話せなくて」
なんの脈絡もなかったから、「え、だれですか?」と聞き返してしまった。
「……まあ、近所の人」
そう言って笑ったけど、目線が遠くて、ちょっと切なそうだった。
なるほど、そういう相手がいるんだなと思った。
仕事の手際は良くても、私生活では不器用そうだもんなぁ。
なんだか納得した。
*
先週の金曜、いつもより早く定時で帰っていく彼の背中を見た。
ポケットには、あの「青いボタン」がちゃんとあった。
――今日、会える日なんだ。
私はそう思った。
誰かを思って帰る背中って、案外すぐに分かる。
今度話すときには、「頑張ってくださいね」って、
こっそり応援してみようと思う。




