番外編・千紗の母視点: 娘の話は、よくわからない
「最近どう?元気にしてる?」
LINEにそう送って、スタンプで返ってくるまでに三時間。
千紗の返事はいつも、短くて淡白だ。
昔からそうだった。
小さいころは、ひとりで黙々と積み木を並べていたし、
思春期になると「別に」「ふつう」「とくになし」が会話のすべてになった。
だけど私は、そういう子だと、ちゃんと分かっているつもりだった。
*
去年の冬だったか、あの子がふと帰省してきた。
滅多にないことだったから、私は少し張り切って、カレーを作った。
けど食卓についても、千紗はスマホを見たり、テレビのニュースを眺めたり、なんだか心ここにあらず。
「ねえ、なんかあったの?」
そう聞いたら、ほんの少し間を置いて、
「となりの人が変でさ」
と、ぽつり。
何が“変”なのかは、まったく説明されなかったけど、
言葉の節々に、妙な温度があった。
心配というより、興味というか。
嫌な感じじゃなくて、むしろ……楽しそうだった。
それが、あの子が人の話をするときには珍しくて、私は思わず笑ってしまった。
「変わった人、好きだったじゃない」
そのとき、千紗は初めて、ちょっとだけ照れたような顔をした。
*
つい先日、たまたま上京のついでに千紗の部屋へ行った。
少し散らかっていたけれど、前よりずっと明るい雰囲気だった。
「誰か遊びに来たりしてるの?」
そう聞いたら、あの子は麦茶を差し出しながら、
「まあ……たまに」
とだけ言った。
それ以上は聞かなかった。
でも分かる。
なんとなく空気が違う。
いつか来る人のために、部屋を整えてる空気だった。
私はそっと麦茶を飲みながら、心の中で思った。
――ありがとうね。うちの子を、大事にしてくれて。
言葉にはしないけど、それが、母親としてのいちばんの願いだった。




