第六話 終話
イーグルは呼吸に意識を持っていき、鼓動を抑える。エンジンがついたジープに乗り込み、天窓から上半身だけ出していた。
手にはいつも困難を切り開いてくれる相棒の狙撃銃がある。
耳に届くのは、遠くからの銃撃音。それが重なり、恐怖の叫びとなっていた。
『ふ、二人とも帰ってきたです』
車内でドローン操作をしていたスワローからの通信。彼女の声に合わせて、視線を動かした。
見えたのはローブ姿でこちらに走ってくるウルフとキャットの姿。彼女たちの後ろには追っ手の姿はない。
しかし、今もまだ銃声は止むことがない。その状態が、敵が混乱していることを物語っていた。
二人がジープに乗り込んだのを確認すると、イーグルはいつもの席に落ち着く。
「それじゃあ、いっちょ逃げますか!」
ウルフの元気な掛け声とともに、ジープは発車した。
「おかえり」
イーグルが小さく言うと、ローバを脱いだキャットが息をつく。
「ただいま」
その言葉は、苦笑が混じっていた。
「イーグルの予想通りだった。多分、今もいない敵を求めて撃ち合ってるんじゃない?」
「もう少しで止むかもね。それまでに、遠いところまで逃げとこう」
「そうね」
銃声はいまだに続いている。一度起こった混乱は中々収まらない。
指揮系統を一つに統一していたつけが回ってきたのだ。
普通は、権限のある人間が止めに入る。少しでも影響力のある人がいれば、声一つかかるだけで混乱を止められる。そして次に移る行動は、こちらを冷静に探すことだ。
しかし、彼らは最初から冷静ではなかった。
初遭遇のとき突っ込んでくるウルフに反射で撃ってしまう。
仲間を殺された復讐に、大量の兵士を投下する。
仲間が捕まっているにも関わらず攻撃する。
そのすべてが、自分たちの都合を正当化しているだけの集団だと裏付けている。
つまり、結局のところは自分たちを正義だと思い込みたいだけだ。
そういう人間たちは、決まって指示がなければ崩れる。同士討ちしている現実も、あいつがやったからと言って続ける。
「ほんと、バカみたい」
イーグルは流れる景色を見ながら唾棄した。車の振動に身を預けるように、座席に深くもたれかかる。
※※※※※※※※※※
「今日もロックが映えるね〜!」
運転席のウルフが、騒いでいる。軽快にハンドルを捌き回している。
「うるさい! 運転に集中して!」
助手席のキャットが強めに突っ込んで、何かが壊れる音がした。
「あぁ! あたしの音楽ホルダー五号が……壊れた」
「あ、ごめん……って、ハンドルを放すな!」
「うぅ……カセットテープがパカパカしてる……」
前二人はいつものように元気に漫才を繰り広げている。イーグルはその光景を見て、平和だなと苦笑した。
先ほどまで、死線を彷徨っていた。今の彼女たちはとてもそうには思えないほど明るい。
これが良い意味で狂ってると言うことだろう。
「あ、破棄するなら私にくださいです。部品は結構大事なのでです」
「うわーん! スワローに、破棄扱いされた! これ、直らないやつ!」
「こら! 本当に! ちゃんと運転しろ! ぶつかる!」
助手席から慌ててハンドル操作をするキャット。その動きに合わせて車が大きく左右する。
イーグルは揺れに合わせて体を揺らしながら、苦笑した。
──狂ってなけりゃ、やっていけない。
自分の言葉が頭の中に響く。
本当にその通りだと、イーグルは思う。
読んでいただきありがとうございます。
次の作品もまた2週間後の金曜日22時に投稿予定です。
今度は “狐娘が人間に憧れる”お話になります。
また暇な時に目を通していただけると嬉しいです




