第二話
この世界は残酷だ。ふとした時に、故郷が襲われてなくなってしまう。
イーグルたち四人が生き残ったのは、偶然でしかなかった。
たまたま四人が仲良かっただけ。たまたま一緒に警らで遠くまで行っていた。たまたま敵に見つからなかった。
いくつもの要素が重なって、今がある。
こんな世界でも楽しく生きていられるのは、ウルフの「笑っていればなんとかなる」って精神のおかげだろう。
村の人たちが遺してくれたジープに乗り込み、四人は廃品回収者として生計を立てていた。
その日暮らしを凌ぎながら生きていく。
「んーー! やっぱりドライブって言ったらロックでしょ!」
緊張感を打ち消すような声を、運転席のウルフが漏らす。彼女厳選の音楽が備え付けられたカセットテープから流れる。
その彼女に向かって、助手席のキャットが大きくため息をついた。
「静かにしろバカ!」
スパーンとウルフの後頭部から、心地のいい音が鳴る。
はたかれた彼女は、左手で頭を押さえながらキャットの方を見ている。唇は尖らせて、どこか不満げだ。
後部座席に座っていたイーグルは、何時もの光景だなと苦笑を漏らす。
「う……くそ」
漏れる声に、彼女は右を向いた。
イーグルの隣には右肩を負傷した男が縛られていた。傷口からは血を流し、呼吸は浅い。
そのさらに隣には、青髪ショートカットの小柄な少女が座っている。手にはドローンを持ち、工具で弄っていた。車の大きな揺れも関係なく、一心不乱に作業に入っている。
その赤い瞳は、少し特殊だった。黒い瞳孔の周りを描くように、白い光のような輪を作っている。彼女用に最適化された、コンタクト型のデバイスをはめている証である。
彼女はスワロー。最後の一人。ドローンの扱いは、父親ゆずりらしい。
ちなみに、真ん中の男は捕虜として連れてきただけでまったくの無関係の人間だった。
「お前ら……こんなことして……ただで済むと思うな?」
息も切れ切れで言い放つ男に、助手席のキャットが大きなため息をついた。
「何言ってんの? あんたたちから襲ってきたんでしょうが」
「あんな急に……突撃されたら……誰だって敵対行動に……出る」
「……それは否定しないけど」
キャットが運転席をチラッと見やる。イーグルもつられても視線を追う。
ウルフは音楽を聴きながら、ノリに乗っていた。
「ああもううるさい!」
堪忍袋の緒が切れたキャットが、彼女のカセットテープを取り上げた。
「ああ! あたしの音楽ホルダー五号が!?」
ハンドルから手を放すウルフに、キャットが目を見開いた。
「今、運転中!?」
「返してよ! あたしの音楽ホルダー五号!」
助手席に乗り越える勢いで身を乗り出すウルフ。その上から、キャットがハンドルを慌てて握っていた。
自身の手に戻ってきた「音楽ホルダー五号」とやらを、満足気に見つめている。
「──それで」
彼女たちの温度を無視して、イーグルは続ける。
「突撃したのは私たち、でも撃ったのはあなたたち。違う?」
「それこそ……責任転嫁だろ……」
「そうだけど?」
イーグルはケロッとした顔で答える。
そのことに、彼は少し驚いたような息遣いを漏らした。
「でも、先に撃ってきたのはあなたたち。その事実も変わらない。つまり、あなたたちも責任転嫁をしてる」
視界の端では、ウルフ曰く「音楽ホルダー五号」が没収されていた。肩を落として項垂れたまま運転を続ける。
「結局のところ主張と主張はぶつかって、お互い譲れない。だったら残るのは勝つか負けるか。私たちは勝って、あなたたちは負けた」
イーグルの言葉を受けた男は、笑っていた。薄く、ただ受け止めるように。
「……狂ってやがる」
その言葉を聞いて、イーグルは応えた。
「この世界は狂ってなけりゃ、やってけない」
車の振動の揺れと同調するように、彼は笑う。肩からさらに出血がひどくなり、顔を歪ませていた。
「こりゃ……いいや。……どんな育ち方したら……そんな考えに至るんだよ……?」
「何も、私たちは普通に生きてきただけ」
「そうか……そうかそうか」
から笑いを続ける彼は、納得したように頷き続ける。
声はかすれている。目も虚ろ。しかし、その奥にある光が、何かを確信している。
「でもな……狂ってるのは……お前たちだけじゃない」
スワローがいきなり顔を上げた。視線を交わす。
「敵影! す、数台のバイクと車が追いかけているです!」
イーグルは彼女の声よりも早く動いていた。ジープの天窓を開けて、体を出す。
強烈な風が身を襲い、思わず体勢を崩しかけた。
タイヤの巻き上げる砂ぼこりが、目を少し刺激する。目を細めて、後方を確認した。
瓦礫の町中。装甲車やバイクが爆音を鳴らしてこっちに迫ってきていた。
『はぁ!? こっちには人質がいるの分かってないの!?』
『いいねいいね! 戦いってのは、こうでなくちゃ!』
『ウルフ! 喜んでないで、ニトロを使って!』
『無理無理〜! ただ、爆走するだけじゃ奴らは撒けないって〜』
嬉しそうな声のウルフと起こり声のキャットが、耳につけた通信で漫才を始める。
それを聞き流しながら、狙撃銃を構えた。
武器携行は、車両に付けられている機関銃。二人で乗ってるバイクは、後方の人間がロケットランチャーを肩に背負っていた。
殺気を漂わせる彼らは、こちらのことを殺す気しかない。それも、仲間の男を道連れにして。
照準器から目を離して、イーグルは静かに告げる。
「彼を殺して」
通信の奥の声が止まった。時が止まったかのような錯覚がする。
数秒後のウルフの笑い声で、すべての温度が引き戻る。
キャットの息遣いが静かに聞こえてくる。少し迷った様子で、彼女の声が聞こえた。
『殺して、良いのね?』
「その男に人質としての価値はもうない。暴れられたほうが面倒だから」
『分かった』
キャットは何も言い返さなかった。
再び照準器をのぞき込むイーグルの耳に、車内から拳銃の銃声が一発聞こえてくる。
「さぁ、開戦だ」
すべてを覚悟して、その上で口元に笑みを讃える。




