序章
その日は晴れ渡った明るい日だった。
白銀色の城壁に守られた都市には店の立ち並ぶにぎやかな街道がある。その街道沿いには非常に人目を引く店が一軒あった。そこは広くはないが、程よい装飾とすでに知れ渡った名声によって異彩を放っている。色々な物品の揃ったにぎやかな街道上であっても埋もれることはない。
容姿端麗な長髪の少女がそっと店舗の扉を押し開けば、少し薄暗かった屋内を陽光が明るく照らした。
彼女はこっそりと店内に入り、自ら扉を閉めた。ここには多くの人が彼女と同じように待っているものと見受けられる。奥の部屋へ通じる大門はしっかりと閉じられており、両側に並んだ木製の椅子にも少なくない人々が腰を下ろしている。客には男も女もいたが、その多くは彼女のような若い女性だった。
紫色の生地が壁の四方にかけられており、天井からは多角星の水晶装飾がぶら下がっている。傍にある小さな窓の中から陽光が差し込んでおり、床には水晶が反射した光の斑を映し出していた。光の反射や影によって部屋の中には少なからず不思議な雰囲気が添えられていた。
しばらくして、一人の少女が扉の奥から出てきた。彼女は両手で胸を抱え、安堵に胸をなでおろした様子で笑顔を見せ、嬉しそうに去って行った。
「次の方、どうぞ。」
奥の部屋から声が上がる。
ドアの傍に座っていた一組のカップルはこの声に応えた。一度振り向き、そして扉を閉める。
外の待合室と違って奥の部屋は十分に広々としているようだった。余分なカーテンや装飾はなく、部屋の中央には白布を敷いた丸いテーブルがあり、テーブルの上には明るくて透き通るような水晶玉がひとつ置かれている。
「ほほほ、いらっしゃい。」
丸テーブルの後ろにある椅子に座っていたのは、黒いドレスを着た女性だった。彼女は淡い黒色のベールで顔のほとんどを覆っており、目だけを露わにして、入ってきた二人を見ている。彼女の後ろには背の高い金色の燭台が二本あり、蝋燭の光はほのかにこの薄暗い部屋を照らしていた。
ベールの後ろからは魅惑的な声が伝わる。薄いベールの後ろにはどんな秘密があるのだろうか、そう好奇を感じさせるような声色だ。
「では、ここにおかけください。」
カップルの片割れである少女は、怯えているのか、用心深い様子で恋人の手を握ったままでいた。水晶玉を前にしてようやく手を離せば、彼女は自分の心臓がますます速くなるのを覚える。次に何が起こるのか、ひどく緊張している。
「とても正確な占い師」こそが、少女が恋人を伴ってここに来た理由である。噂によるとここの占いは一点の曇りもなく、福であれ、災であれ、どれもよく当たるらしい。この年頃の少女からすると、このような事柄に興味を持つのも無理はない。しかし、自分から相性を占ってもらいに来たというのに、いざその時がくれば、緊張してたまらなくなる。
少年にも占ってみたいことはあるが、少女と違ってさほど熱心ではない。ここに来た以上試してみよう、といった程度の心積もりだった。
「お二人はさぞ長くお待ちしたでしょうね、それでは始めましょう。」
落ち着かない様子で椅子に座る少女の脳裏には、これから告げられるであろうさまざまな可能性が、次々と浮かんでは消えていった。もしこの占い師が噂通りの人なら、よくない結果を告げられても、もうどうしようもない。それなら、来なければよかったんじゃないか。黒いベールの女性は二人をしげしげと見つめ、軽く頷いた。
「なるほど、お嬢さんが占いたいのは『相性』だけど、お坊ちゃんが占いたいのは『試験問題』ですか……まあ、本当に珍しいわ。」
「あれ……?」
少女は女の言葉に驚きを隠すことができなかった。自分の恋人がおかしなことを占おうとしていることにも驚いたが、何も言っていないのに一瞬で考えを悟られたことに何よりも驚きを隠せなかった。
少年もいささか驚き、恥ずかしそうに頭を掻いた。彼がここに来た一番の理由は、数日後に騎士団の新人として応募をしたいと考えているからだった。国家を守る騎士には十分な知識を持つことも重要であり、試験も設けられる。少年は騎士団に参加しようと考えていたが、試験に対しては全く自信がなく、そのため占いに頼りに来たというわけであった。
「よかったら、始めましょうか。」
女性は目を瞑って水晶玉へ両手を伸ばす。それに伴って、水晶玉は次第に光を放ち始める。
「えぇ……どうやら、お二人にはすでによい縁があるみたい。幼い頃から一緒に成長してきただけでなく、今も互いに気持ちが通じ合っている。この状況では心配することは一つもないわ。お嬢さん、安心していいわよ。」
「そ、そうですか……。」
安心していいとの言葉に、少女はほっと胸を撫でおろした。目の前にいるこの人に自分の考えを徹底的に悟られたのなら、自分の緊張さえも悟られていたのも無理はない。
「もう一人のお客様には……実際のところ私は、あなたが機に乗じてうまく立ち回れるよう助けることはできないけれど、復習の範囲を提供することはできるわ。本をきちんと読んで復習すれば、試験は問題なくパスできるでしょう。」
「そうですか……。」
少年は少し落ち込んでいるようにも見受けられた。言われたことは期待していたものとはあまりにも違っていたが、パスできないと告げられるよりは些かましであった。
「しっかり頑張ってくださいね。」
この二人が立ち去ったあとにも、新しい客が入ってくる。午前中はこのように早く過ぎていった。最後の一人を見送ったあと、ベールの女性は長く息を吐いた。ようやく、自分の休憩時間を迎えることができる。
占い部屋から出て陽光を浴びる。新鮮な空気を吸いながら、絶え間なく続く人の群れを黙々と見つめていた。旅の占い師である彼女――アリヤスティヤは、この国に着いてしばらく経つ。占いで生計を立てながら処々を歩き回り、ようやく近頃、当分この王都に定住することを決めた。
見知らぬこの街で、彼女の名は以前は知られていなかったが、最近では占い師として少しずつ知られるようになってきた。しかも料金も高くなければ、最初は占い好きの少女たちを惹きつけるだけだったが、最近ではそれ以外の客も増えてきていた。評判が広まるのは喜ばしいことだが、こうして忙しくなると、ろくに休憩も取れない日が増えてしまうかもしれない。
すべてが以前と変わらない――誰もが、そう思っていた。
女は店の軒先に立ち、青空を見上げたあと、街の彼方にも目をやった。ますます大きくなるような喧騒が、遠くから伝わってきた。
今日は、ただならぬ一日になるに違いない。彼女は、それをもうとっくに感じ取っていた。




