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吉祥天姫~地味な無能令嬢と馬鹿にしてますが、実は完全無敵のラッキーガールです。嫌がらせは全部跳ね返し、最強のイケメンに溺愛されてます~   作者: enth
第三章

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70 やっぱり意図反射

 ”俺は天帝には成らぬ”


 天帝の娘婿になるのが条件だと聞き、

 レイオウはあっさりとその座を断ったのだ。


 天帝の座を蹴るなど、

 いろいろな意味であり得ないことなのに。


 まったく予想してなかったのか、

 マアサ姫は口をぽかんと開けてレイオウを見た。

 そしてやっと言葉を絞り出して言う。

「な、なにを言って……」

 

 そんな彼女に、レイオウは再びはっきり告げたのだ。

「天帝には成らない、と申しております。

 俺はすでに妻を決めております故。

 どうか別の方に()()()ください」


「お待ちください!

 そのような条件は出されておりません!」

 すかさず大臣が割り込んで来て叫ぶ。

 断られた衝撃で顔が真っ青になっている。


「そうです! ぜひお受けください!

 今までの歴史で”結婚が条件”など

 一度も無いのはご存じでしょう」

 他の者も焦った面持ちでレイオウに頼み込んだ。


 マアサ姫はそれをぼーっと見ていたが

 だんだんと腹が立ってきたようだった。

 その顔がみるみる、不機嫌そうに変わっていく。


 ”別の者にご依頼ください、なんて。

 まるで結婚して欲しいと

 私が頼んだみたいではありませんか!”


 まったくもってその通りなのだが、

 フラれたと思いたくない彼女は

 当然の義務を彼が拒否した、

 と思い込もうとしていた。


 短絡的な彼女は、レイオウを指さして言う。

「これは天帝に対する反逆ですわ!」


 その幼い仕草と物言いを見て、

 周囲は呆れながらも

 どこか彼女を哀れに思ったのだ。


 ”《《こんなになるまで》》ほおって置かれたのか”と。


 アヤハが取りなすように前に出て言う。

「そのようなことではございません。

 ただ単に、レイオウ様は幼き頃より想い合った方と

 ご婚約が成立したばかりで、

 姫様のお相手にはふさわしくない、

 というだけでございますわ」


 マアサ姫の立場を立てるような言い方に、

 案の定マアサ姫の怒りがすこし収まる。


 セーランも必死に言葉を添える。

「”家門のために”というお気持ちは

 本当にご立派ですわ。

 でも天帝という職業は世襲制ではなく、

 四天王からふさわしい者が選ばれるのです。

 姫様が好きでもない方と結婚せずとも

 自由に相手をお選びになってよろしいのですよ」


 あたかもマアサ姫が

 個人的にレイオウに惹かれたのではなく

 家の存続のために言ったかのように扱うが。


「え、では私はどうなるの?」

 困惑したマアサ姫が大臣に問うと、

 彼は”もう何度も言いましたが”

 という言葉をのみ込み答える。


「兄君同様、西王門家が迎えてくださいます。

 天帝無き後は、ご家族は出身国に戻る決まりです」


 面目は保たれたため、マアサ姫の怒りは静まったが。

 それでもレイオウの前を動かなかった。

 彼をじっと見あげて考え込んでいる。


 ”いつも遠くから見ているだけでしたけど、

 近くで見れば、本当に美しく素敵な方だわ。

 流れる銀の髪、深く大きな碧眼。

 端正なお顔も、立派な体躯もすごく魅力的”


 すでに婚約しているという事実は、

 実はマアサ姫も知っていた。

 というより、帝都で知らないものなどいないだろう。


 でも、そちらを断ってくれると思ったのだ。

 ”天帝に選ばれたのだから仕方ない”と言えば

 相手もおとなしく引き下がるだろうに。


 ”まさか、こっちを断るなんて。

 これを口実にすれば、

 彼と結婚できると思ったのに”


 何も言わないマアサ姫を横目で気遣いつつ、

 大臣はレイオウに、再び懇願した。

「お父上にご報告されるのはもっともですが、

 基本的には、決定事項と考えていただきたい」


 他の者もうなずいて言う。

「貴方は幼少のみぎりより、

 天帝の資質を見込まれた方です。

 全ての現四天王が認めた方ですから」


 その言葉に、クーカイが笑いながら言う。

「次期四天王たちも、だ。

 レイオウ、とりあえずこの話は保留にし

 北王にお伝えするのが筋というものだろう」


 皆はうなずき、とりあえず解散となった。


 いまだに立ち尽くすマアサ姫に一礼し、

 レイオウは去って行った。


 彼女はその後ろ姿を、ずっとずっと見つめていた。


 ーーーーーーーーーーーー


「はあ。愛妾、ですか」

 目の前に立ち、自分を見下すマアサ姫に

 アイレンは首をかしげながら答えた。


 マアサ姫はいきなり後宮に

 アイレンを呼び出して叫んだのだ。

「あなたがアイレンね? ……想像と違ったわ。

 まあいいわ、貴女、立場をわきまえていただけません?」


 いきなり食ってかかられ、

 アイレンは困惑しながら答える。

「私のしたことで、何かご迷惑でも?」


 マアサ姫は、自分とレイオウと結ばれるの事が

 世界にとって最も良いことなのだ、と力説した。


 そして譲歩してやる、とでもいうように

 アイレンに”愛妾ならば許す”と言ったのだ。


 レイオウについて調べたら、

 彼の方がアイレンに夢中であり、

 その溺愛ぶりは帝都でも有名だということを知った。


 さらに丞相(じょうしょう)の事件の際には

 ”たとえアイレンが犯罪者になっても娶る”などと

 宣言したことも聞かされ、

 これはレイオウを変えるよりも

 アイレンに身を引かせるしかない、と思ったのだが。


「そのお申し出は受けかねます。

 結婚については、

 私とレイオウ様が決めることですから」

 と、アイレンは笑顔できっぱり断ったのだ。


 マアサ姫はぐっと黙るが、これは想定内のことだ。

 あのような素敵な人を、

 誰がみすみす逃すというのか。

 自分でも断るだろう。


 そしてマアサ姫は、次の作戦に出た。

「貴女は彼しか知らないのでしょうけど。

 世界は広いのよ? もっと見聞を広めたほうが良いわ」

「はあ、見聞ですか」

 なんか意味が違うのでは? とアイレンは思ったが

 マアサ姫は得意げにうなずき、侍女に合図を送った。


 そしてアイレンにニヤニヤしながら言ったのだ。

「ご紹介したい方がいるの。

 全員、武家や僧家の御子息よ。

 ちょうどこの帝都にいらっしゃる方を招いたのよ」


 マアサ姫は伝手を使って、

 帝都に滞在中の子息たちを呼び寄せたのだ。

 なるべく見目の良い者を選ぶように命じて。


 これでアイレンが彼らに目移りしたり、

 浮気してくれたらこっちのものだ。


 自分も彼らにはほとんど会ったことはないが

 侍女たちの噂を聞けば、

 皆揃いも揃って美形でたくましいらしい。


「えっ! 武家や僧家の御子息ですか?」

 嬉しそうに驚くアイレンを、マアサ姫は勘違いして喜ぶ。

「ええ、そうよ。お会いしてみたいでしょ?」


 アイレンがそれに答える前に、扉が開き

 たくさんの令息が挨拶をしながら

 次々と入ってくる。


 真っ白なスーツの青年は、まるで王子のようだった。

 赤い羽織に市松模様の袴の令息は見るからに強そうだ。

 ロイヤルブルーのスーツを着た青年は

 知的ながらも優しい微笑みを浮かべている。


 他の令息たちも、みな違った魅力を持っていたのだ。


 ”まあ! まあ! まあ!

 皆さま、想像以上に素敵じゃない!”

 マアサ姫は頬を染め舞い上がり、

 両手を胸の前に組んで彼らを見つめた。


 そして最後に入って来た

 黒地に銀の文様が描かれた羽織をまとった令息が

 隅に座るアイレンを見て叫んだのだ。


「アイレン? アイレンじゃないか!

 まさかこんなところで会えるとは」

「八幡守 修哉(シュウヤ)様! お久しぶりです!」


 マアサ姫は勢いよく振り返って尋ねた。

「えっ!? あなた、彼らの知り合いなの?」

「ええ、幼馴染ですわ。

 武家や僧家の令息と聞いて、まさかと思いましたが」


 アイレンは久しぶりに幼馴染たちに会えると思い

 嬉しそうな顔をしたのだ。


 初めて令息に会わせて驚かせるつもりが

 アイレンはとっくに知っていた。


 マアサ姫は一瞬恥ずかしく思ったが、

 そんなことはすぐに、どうでも良くなる。


 たくさんの美形に囲まれ、

 一番はしゃいでいたのも、

 夢中になっていたのもマアサ姫だった。


 彼女は本来の目的すら忘れて、

 彼らと親しくなろうとし

 彼らに気にいってもらおうと必死になっていた。


 やがて場がお開きになると、

 帰っていく彼らを名残惜しそうにマアサ姫は見送った。


「またお会いできるかしら」

 そのうちの、もっとも気に入った令息に尋ねると

 彼は笑顔でうなずき、答えたのだ。


「ええ。もちろん。ぜひお会いしたいですね。

 僕は西王門家の武官になるので、

 あちらにいらした時にはぜひお立ち寄りください」


 全員が帰った後、ボーっと立ち尽くすマアサ姫に

 アイレンが声をかける。

「あの……どうされました?」


 彼女は振り返り、え? という顔で答えた。

「あら、貴女。まだいらっしゃったの?

 どうぞお帰りくださいな」


「あ、はい。友人に会わせていただき

 ありがとうございました」

 戸惑いつつも、アイレンはお礼を言って帰る。


 ”いったい何だったんだろう……”、そう思いながら。


 そしてマアサ姫は侍女に言ったのだ。

「お兄様たちに連絡を取って。

 私も西に住むことにした、と伝えてちょうだい」


 今まで何度言っても”嫌だ”の一点張りだったのに。


 あぜんとする侍女たちは、知らないのだ。

 これがアイレンの持つ”意図反射”の力だということを。


 ”レイオウを忘れさせ、他の令息に夢中にさせる”

 という意図は、そのままマアサ姫へと反射したのだ。



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