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【完結】吉祥天姫~地味な無能令嬢と馬鹿にしてますが、実は完全無敵のラッキーガールです。嫌がらせは全部跳ね返し、最強のイケメンに溺愛されてます~   作者: enth
第三章

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67 吉祥天の選別会

 ”今度はあの時みたいに間違えたりしない”

 そう思い、カアラは念入りに調べることにした。


 吉祥天の着ていたものは何か。

 どのような振る舞い、どんな風に話したか。

 そして彼女が持つ”宝玉”とは。


 しかしどれも古い文体で書かれており、

 勉強が苦手なカアラとその母は解読を試みたが

 すぐに挫折してしまった。


 そこでカアラに会いに来ていたピーターに

 代わりに読んでもらったのだ。

「ね、たしか貴方、高学歴だって言ってたわね?

 これ読んでくれない?」


 カアラに甘えられるように言われ、

 ピーターはにやけ顔で書物を覗き込んだが、

 とたんに顔をしかめて首を振る。

「……俺の分野じゃないよ。俺は経営だったから」


 それでもカアラは諦めなかった。

 外の人を頼むのは、吉祥天について

 調べていることがバレるから嫌だったのだ。


「ええー、私のことが書いてあるのに?

 吉祥天を妻にするなら、

 知っておいた方が良いんじゃなあい?」

 カアラにそう言われ、脂ぎった顔をニヤつかせながら

 ピーターは解読を試みたのだ。


「えーっとだな……常に穏やかで?

 微笑んでいて? 驚き……驚きってなんだ?

 型破り、いや、尋常でない、だったかな」


 ピーターはむくんだ顔に汗をたらしながら

 必死に知っている単語を探し、読み取った。


 それを聞きながらカアラは考える。

 ”常に穏やかに笑っていて、

 周囲の人が驚くほどの、

 尋常でない美しさ……ってこと?”


 ピーターは読み進める。

「うーんとそれから玉。手のひらに玉、って。

 白? 透明? 桃色? あれ、ここには水色ってある」

「いったい何色の玉なのよ!」


 カアラにつっこまれ、

 ピーターは慌ててさらに単語を読み上げる。

「現れる? 変わる……」

「ああ、色が変わるってこと? そうなると……

 やっぱり丸くカットされたダイアモンドかしら」


 しかしピーターは首を横に振ったのだ。

「いやいや、”柔らかな”とも書いてあるけど?

 世界一硬質なダイアモンドではないんじゃないか?」


 困惑するカアラに、ピーターは知識をひけらかして言う。

「ま、一番柔らかい石は滑石(ソープストーン)だね。

 白もピンクとか、いろんな色もあるし

 なんといっても加工がしやすいから球形にもできる」


「分かったわ。たぶん、それね」

 カアラは安直に結論を出してしまう。


 そしてさっとピーターから離れ、

 口の端に笑みを浮かべて頼んだ。

「今日はもう帰ってくれない?

 それから……今度来るときは、

 滑石(ソープストーン)の丸いの、持ってきてね」


 さすがにピーターはムッとして答える。

「おい、来たばかりじゃないか。

 それにプレゼントはこれ以上あげない約束だ。

 ……親の許可が降りないよ」


 あまりにいろいろ買ってあげたため

 ピーターの親が”結婚までは禁止”にしたのだ。

 しかも自由に使えるお金も格段に減らされてしまった。


 カアラもそれを思い出し、一瞬顔をゆがめたが、

 すぐに甘えるような顔で首をかしげた。

「でもぉ、婚約指輪の分の予算は取っておいてる、

 って言ってたじゃない」


 ピーターは考え込み、そしてうなずく。

「ああ、そこから出せば良いか。

 じゃあさ、こっちのお願いも聞いて欲しいな」

 そうしてカアラにニヤニヤしながら、

 自分の膝をぽんぽんと叩いた。


 ”ここに座れ”と言われていることに気付き、

 カアラは不快さで吐きそうになる。

 ベトベトの肌も臭い息も、

 中年特有の体臭も全てが無理過ぎる。

 ……しかし。


 カアラは無表情で、息をとめながら座った。

 すぐに立とうとしたが、

 毛むくじゃらの手がガッチリと抑え込んで離してくれない。


「ちょっと! 結婚まではこんなの……」

 抗議するカアラに、ピーターは腕に力をこめて答えた。

「もちろんだよ。結婚まではこのくらいで我慢だよな?

 でもさあ、結婚したら、なんでもアリなんだよなあ?」


 ヒヒヒヒヒと、下卑た笑いを浮かべた顔を間近に見ながら

 カアラは必死にもがきつつ、考えた。

 ”今だけよ、こんなの!

 私が吉祥天だと認められたら、

 すぐにレイオウに抱きしめてもらうんだから!”


 ーーーーーーーーーーーー


 そして宮廷へと招かれた日。

 カアラは母と義父と共に向かった。


 馬車を降りたカアラは、

 古文書の挿絵に残された吉祥天の姿そのままだった。


 天女のような唐衣風のドレスに、ふわふわの羽衣。

 色味は文献からは読み取れなかったので、

 神聖な人間らしく、真っ白にしたのだ。


 そして常に微笑みつつ、

 周囲の人々にも愛想よく挨拶しておく。

 カアラは思った。

 ”どう? 誰が見ても吉祥天でしょう?”


 入り口で、招待状を確認している間

 さりげなく手のひらにのせた”宝玉”をみせた。

 白くて丸いそれは、

 手のひらで包み込めるほど小さかった。


 それを見て受付の男の目が丸くなり、

 他の者も驚いた顔をしたり、両手を口で押えていた。


 ”ふふっ。驚きで声がもれそうになってるわ。

 私が本物ってことで間違いなしね”

 そう思いながらカアラは、

 ピーターが持ってきてくれた滑石(ソープストーン)をしまう。


 そうして奥へと案内され、

「ここでお待ちください」

 と通された広間には。


「えっ?!」

「そんな!」

 カアラと母親が驚いて声をあげる。

 義父が呆れたような声でつぶやいた。

「みーんな同じ格好じゃないか!」


 そこには、カアラ以外の”吉祥天候補”が並んでいたのだ。


 揃いも揃って天女風に着飾り、ぎこちなく微笑んでいる。

 20代もいれば、親が連れて来たらしい幼い娘もいた。


 義父はフン、と鼻を鳴らして言う。

「みんな考えることは同じだな」

 カアラは笑顔を保ちつつ、内心イライラしていた。


 前回のパーティーでは、ドレスコードを見誤り

 場違いな格好をして失敗したのだが。

 今度はあまりにもそのままで、

 この中ではカアラの”吉祥天らしさ”など

 まったく目立たなくなってしまったのだ。


 やがて現れた文官が、皆に説明を始めた。

「皆さんには、”能力”の鑑定と

 妖魔の反応試験を受けていただきます」


「え? いまさら?」

 その言葉に、カアラと母親は顔を見合わせる。

 豆鬼はたやすく攻略できるが、

 ”能力”は測定器を使われたら万事休すだ。


 会場の他の候補からも声があがった。

「すでにその試験は終わっているはずですが」

「そうよ、豆鬼が攻撃してこなかったから

 ここに呼ばれたのでしょう?」


 それを聞いてカアラは察した。

 彼女たちもおそらく、

 ”魅了”を用いて豆鬼を攻略したのだろう。


 文官は苦笑いしながらあっさりと返したのだ。

「あれは民間が、子どもを危険に晒さぬために行った

 初歩的なテストに過ぎません。

 豆鬼など”魅了”が効きますし、

 その他の攻略法もございますから」


 やはり、バレていたのだ。

 カアラだけでなく多くの者が真っ青になる。


 そしてそこからは、言葉に厳しさを交えて告げたのだ。

「今回は安全に考慮しながら、

 さまざまな悪鬼や妖魔で試していただきます。

 また能力の有無も測定器だけでなく、

 ”心眼”の持ち主に鑑定していただくこととなります」


 会場は静まり返った。

 カアラは焦りつつ、おかしくなった。

 これだけの大人数が、分もわきまえずに

 ”吉祥天”に成りすまそうとしていたなんて。


 さらに文官は冷たく言い放ったのだ。

「試験開始以降は公務となります。

 そのため、もし偽装なさっている方が判明した場合

 厳しい処罰の対象となります」


 とたんに会場はザワザワし、人々に動揺がみられた。

 一人も平然としている者が見受けられないのが

 逆になんとも滑稽な眺めであった。


 出入り口に立つ、別の文官が皆に優しく言った。

「もし”勘違いだったかも”と思われる方が

 いらっしゃいましたら、退出願います。

 今でしたら何の罪も問われませんから」


 人々は顔を見合わせ、

 すぐに出口に向かうものも現れた。

 未練がましく残っている者も、

 なんとかならないか思案しているようだ。


 カアラも決断を迫られていた。

 ”でも、このまま帰りたくない。

  私がこの中で一番、吉祥天に近かったのに"


 カアラは文官に走り寄って尋ねた。

「あの、宝玉は……決め手にはなりませんか?

 私、ちゃんと持ってるんです!」

 会場に残っていた数人の目が、カアラに集中した。


 文官は無表情のままうなずいた。

「もちろん決め手になりますよ。

 では、お見せいただけますか?」


 カアラはうなずき、微笑みを必死に浮かべながら

 てのひらに彼女の”宝玉”をのせて見せた。

 すると。


 ぶほっ!


 無表情だった文官が吹き出したのだ。

 他の者達も”我慢できない”というように肩を震わせている。


 あぜんとするカアラに、文官は苦しそうに言ったのだ。

「そ、それが貴女の”宝玉”なのですね?

 もちろん決め手になりますよ、

 絶対に”吉祥天様ではない”ってことの」


 カアラはカッとなって文官に詰め寄った。

 もはや微笑んでなどいられなかった。

「どうしてですっ?!

 誰も本物なんて見たことないくせに!

 どうしてこれが偽物だって……」


「馬鹿なの? 古文書にあるじゃない。

 あれは”吉祥天”の手から現れるって。

 もともとあるものを握っていただけでしょ、それ」

 黙って見ていた参加者の一人が言い放つ。


 文官もうなずき、笑いをこらえつつ言った。

「吉祥天様は手の平から宝玉を現す。

 それもそんな、真ん丸なんかじゃない、

 擬宝珠(ぎぼし)と言われる形状の」


 ギボシ……?とつぶやくカアラに、

 参加者の一人が玉ねぎみたいな形よ、と教えてくれる。


 文官は首をふりふりつぶやいた。

「いやあ、それにしてもあり得ないな。

 そんなもので騙せると思っていたなんて。

 浅はかにもほどがある」


 そして犬を追い払うように手を振り言ったのだ。

「さあ、さっさと御退出ください……偽物さん」



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