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【完結】吉祥天姫~地味な無能令嬢と馬鹿にしてますが、実は完全無敵のラッキーガールです。嫌がらせは全部跳ね返し、最強のイケメンに溺愛されてます~   作者: enth
第二章

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62 崩れ落ちる権威

 ”あの家では何か、悪だくみしてるみてえだぞ?

 罪をでっちあげるだの、犯罪者として拘束するだの

 これなら四天王家も服従するだろう、とかさ。

 狐っ子たちが持ち帰る言葉が、物騒(ぶっそう)で仕方ねえんだよ”


 丞相(じょうしょう)の御殿に行く、と言ったセーランに

 慶春は口をへの字にして言ったのだ。


 ”友だちのためってんなら止めねえが、

 重々気を付けるんだぞ?

 ちゃんと準備してから、な?”


「だからアイレン様が濡れ衣を着せられた時のために

 帝都の検査官を連れて行ったのですが……」


 セーランが話し終えると、

 アヤハは笑いながらアイレンに言う。

「結局、貴女の思いやりのおかげで、

 冤罪をかけられることはなかったわね」


 荷物をもってあげる優しさや、

 寂しさを感じているであろう上の子に対する気遣い。

 そういったものがアイレンの身を守ったのだ。


 しかしアイレンは苦笑いで言う。

「でもあの夫人にはご迷惑をおかけしましたわ。

 嫌疑をかけられ、本当に嫌な思いをなさったでしょう」


 レイオウは優しい目でアイレンを見ながら言う。

「セーランのおかげで、すぐに疑いは晴れたのだ。

 それにあの夫人たちへは手厚く対応するよう

 すでに申し渡しているから安心せよ」


 ”巻き込んでしまったお詫びに”、と

 彼女たちの実家と婚家は

 北王門家より多大な恩恵を受けることになった。

 それを聞いて、アイレンは少し安心する。


 クーカイがセーランに尋ねる。

「その狐は役目を果たし、すでに去ったのか?」

「いいえ、お兄様。

 慶春(ケイシュン)さまはおっしゃっていました。

 彼らの本来の目的は間諜ではない、って」


 ーーーーーーーーーーーー


「……駄目だ。我が力では到底かなわぬ」

 ゼイゼイと荒い息をしながら、天命師がつぶやく。


 部屋の四隅に座る、赤い目をした真っ白な狐。

 どんなに払おうと、決して消えてはくれないのだ。


 丞相(じょうしょう)が信じられない、という顔で叫ぶ。

「なんと情けない! それでも帝都最高位の天命師か!」


 それを聞き、皮肉な笑みを浮かべて兄を見上げる天命師。

「私が本当に帝都一の実力を有しているかどうかは

 お選びになった兄上が一番ご存じでしょう?」


 言い返され、丞相(じょうしょう)は苦々しい顔で黙ったが

 ハッと顔を上げ、視えない狐に怯えながら小声で言う。

「……止めよ。聞いておるぞ!」


 彼が”最高位の天命師”として就任できたのは

 ひとえに丞相(じょうしょう)が他の官僚に圧をかけたからだ。

 全ては、彼に”天命”を告げさせるために。


「……他の者を呼ぶか」

 そうつぶやいた兄に、弟は首を横に振る。

「彼らは妖魔や悪鬼の類いではないのですぞ?

 どのような力を持とうと退避させることはできません」


 その通りだった。

 あの狐は丞相(じょうしょう)たちを常に威嚇し

 恐ろしい顔をしているが、実は神の眷属(けんぞく)だ。

 それを追い払うなど、常人ができることではない。


 天命師は苦し気に首を振る。

「きっと天命院はいま、大変な騒ぎになっているだろう。

 何と言えば良い? あやつらはすでに

 衆人の前で私の命令だと言ってしまったのだぞ!」


 それを丞相(じょうしょう)は事も無げに返す。

「あの件は天命院とは関係なく、

 奴らが勝手にやったということにすれば良いのだ」

「ええっ!」


 自分の部下を切り捨てるように言われ、天命師は驚くが

 兄は淡々と今後の策を述べる。


「彼らが蛮行に走った理由は、四天王家のせいなのだ。

 あまりにも身勝手に振る舞い

 傲慢な態度を貫く四天王の若造を

 改めさせるために彼らが勝手に企てた計画……

 それが今回の件の真相だ」


 視えぬ狐に言い聞かせるように、丞相(じょうしょう)はつぶやく。

 天命師は迷ったが、静かにうなずいた。

 どのみち、なにかしらの理由は必要なのだ。


 丞相(じょうしょう)はため息をついて言う。

「……忌々しい。ここでは何も出来んな。

 仕方ない。この子を直接利用するのは諦めよう。

 なあに”吉祥天が我が家に居る”、その事実だけで充分だ」


 天命師は不安げに四隅を見つめてつぶやく。

「……ここに狐を招いた者の目的は

 我々の動きを探るためでしょうか?」

 

 丞相(じょうしょう)は吐き捨てるように言う。

「他に何があるというのだ。

 ()()()()()()この孫娘に、

 神が天罰を与えに来たのなら、なぜ見ているだけなのだ?

 何もしないということは、ただの間諜に違いない。

 ……さあ、戻るぞ」


 しかし彼らは理解していなかった。

 吉祥天を語っているのは孫娘ではなく彼ら自身であり

 天罰が下るのもまた、彼ら自身だということを。


 ーーーーーーーーーーーー


 宮廷に戻った彼らを待っていたのは

 想像以上の混乱だった。


 天命師は配下である方士たちから詰め寄られる。

「いったいどういうことでしょうか!」

「彼が侍従長として派遣されたのは

 あんな計画のためだったのですか!」


 次々と指摘され、天命師は叫んだ

「我は巻き込まれただけだ! 説明は後でする!」

 彼らを振り払い、丞相(じょうしょう)の執務室へ向かう。


 ”ダメだ。やはり俺には対処しきれない!”

 頼りの兄に何とかしてもらおうと、部屋に飛び込むが。


 そこで見たのは、兄が真っ青な顔で、

 食い入るように新聞を見ている姿だった。


 その周囲には見届け人たちが暗い顔で取り囲んでいる。

 そのうちの一人が、天命師に告げたのだ。


「昨日の討伐が、全て報道されているのです」

「何ぃ! 報道だと!?」

 そして机に駆けより新聞を手に取って読む。


 ”南王門の姫、湖に巣食う人食い魚を瞬殺”

 ”東王門の嫡男、雷鳴を持って小鬼の大群を一掃、

 土地と家を取り戻す”

 ”北王門の王子、戦神のごとき強さで

 妖魔の群れを従える巨大な魔猿を一刀に伏す”……


 なかったことにするつもりの討伐について

 いろんな新聞が一部始終を報じているのだ。


「そんな……誰が……?」

 椅子に倒れ込む丞相(じょうしょう)

 見届け人の一人が青ざめた顔で告げた。


「あの場に特派員が来ていたようです。

 昨日すでに報じられていたので

 この討伐を取材するために来ていたのでしょう」


 偶然居合わせたのではない。

 誰かが命じて派遣し、記録して……すぐに報告したのだ。


 誰が? それはアイレンだった。


 全てはアイレンの雇った報道陣だったのだ。

 だから丞相(じょうしょう)の家に行く前に

 彼らの活躍ぶりを”報告”され、知っていたのだ。


 そんな事とは知らずに、

 丞相(じょうしょう)たちはただ困惑する。


 ”まずいぞ、これでは四天王は英雄ではないか。

 傲慢で身勝手だった、などと弁明しようものなら

 こちらの立場がさらに悪くなってしまう”

 天命師の額に汗がにじんだ。


 そしてそれだけではない。

「……これを見てみよ」

 丞相(じょうしょう)が震える声で新聞を記事を指し示す。


 それには”経済学者の分析による経済効果”、

 ”検査官の計算による四天王の技能力”、

 それらを”具体的な数値”として

 彼らの実力が評されていたのだ。


 アイレンは考えたのだ。

 ”評価はあくまでも客観的でなければならない”、と。

 だから討伐で出たデータを素早く、

 それに適した分野の専門に託し、

 客観的な評価を依頼したのだ。


 その結果。ここまで明確に、

 彼らの持つ力の素晴らしさと業績を

 はっきりと世間に知らしめることになった。


 声も出せない丞相(じょうしょう)に、

 とどめのように見届け人が叫ぶ。

「しかも東王門の姫については、

 ついて言った奴らがとんでもないことをしでかしたんです!」


 震える手で持った新聞記事には

 彼らが”象徴の具現“で変容していた姫を

 ”討伐対象の妖魔”だと偽り、

 賞金稼ぎに倒すよう命じたことが書かれている。


 ”何度も言ってましたよ、倒せって”

 賞金稼ぎたちの証言まで載っているではないか。


「そやつらはどうした! 早く拘束して……」

 余計なことを言う前に、と言いかけたが。

「すでに警察に捕まり、尋問も終えたそうです」


 もう間に合わない。

 警察は”能力者”の集まりだ。

 彼らは全て、吐き出したことだろう。


 その時、丞相(じょうしょう)は気が付いた。


 今に至るまで、高官の誰も教えてくれなかったということを。

 以前ならば真夜中でも早朝でも

 伝令を飛ばして事態を報告してくれただろうに。


 ”……すでに、見限られているということか”


 ついこの間までは、宮中は自分の天下だった。

 長きに渡る天帝不在の年月を、

 ()()()()()を用いてここまで昇りつめたのだ。


 皆が自分を崇め奉り、賞賛していた。

 自分の言うことは何でも通り、

 たいした神力もない弟を

 最高位の天命師にすることもできた。


 それなのに。

 まさにあの日からだ。


 北王門 礼王(レイオウ)

 あの男を宮中に呼び寄せ、

 他の者同様に従わせようとしたが。

 

 吉祥天の存在も天命にも心を動かすことなく

 こちらの思惑を見通したかのように一蹴した。


 ”あのわずかな時間で、

 高官たちの態度が変わってしまった。

 あの男は一瞬で、人心を掌握したのだ”


 そして彼が持つ破邪顕正の剣。


 ”自分の企てた様々な陰謀が

 あっけなく露見されていたのは

 あの剣が持つ力のせいなのだろうか”


 そこまで丞相(じょうしょう)が考えた時。


 駆け込んで来た事務官が叫んだのだ。

「僧家や武家の全ての家門代表より書が届きました!

 ”吉祥天についての審議を行え”という要求です!」


 丞相(じょうしょう)の最終・最大の企みに、

 破邪顕正の剣の刃先が向けられたのだ。


 

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