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【完結】吉祥天姫~地味な無能令嬢と馬鹿にしてますが、実は完全無敵のラッキーガールです。嫌がらせは全部跳ね返し、最強のイケメンに溺愛されてます~   作者: enth
第一章

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18 恐喝

 自分が持つ”魅了”の能力を使って、

 アイレンを思うように動かそうとしたカアラ。


 しかしアイレンにはまるで効かなかった。

 それどころか背後の執事から小声で、

 ”彼女を侮るものは破滅する”、と言われたのだ。


 カアラは慌てて立ち上がる。

「か、帰るわ!」

「まあ、そうなの?」

 アイレンは相変わらず、何にも気にしていなかった。


 家を出て行こうとするカアラに、執事が声をかけた。

「……お送りしましょう」

 カアラは心底恐怖し、必死で抵抗する。

「いえいえいえ、結構よっ!」

 帰り道でどんな目にあわされるか、わかったものではない。


 アイレンとジュアンが玄関で見送ってくれた。

 ぎこちなく手を振り、

 カアラは急ぎ足でその場を去った。


 下まで降り、建物の入り口で一息つく。

「はあ。助かった」


「そうでしょうか?」

 いきなり真後ろから低い声が聞こえ、カアラは飛び上がった。

 振り向くとそこには、執事が立っていたのだ。


 震えるカアラに対し、執事は静かに言った。

「……目に余る行為、そろそろ限界を迎えておりますな」

 カアラは黙ったままだ。


 執事は口元に笑みを浮かべ、彼女に問いかける。

「本当に助かりたい、とお望みでしたら、

 小端館ご一家の皆さまはもう二度と、

 アイレン様に関わり無く過ごされることを

 お勧めいたしますが……いかがされますか?」


 カアラはうなずく。何度も、何度も。

 この男は、まったく気配を感じさせず、

 自分に着いて来たのだ。

 気付かぬ間に殺されていたとしてもおかしくはない。


 その様子に執事は目を細め、穏やかな口調で

「それは良かった……それでしたら

 あの不快な文書のことなど

 些末(さまつ)なことだと捨て置きましょう」

 と言い、静かに去って行った。


 カアラはその場から走り出した。

 息が切れるまで、ずっと。


 ーーーーーーーーーーーー


 ほうほうのていでカアラが家に帰ると、

 そこには両親だけでなく

 ツグロ一家がそろっていた。


「……なんで集まっているの?」

 よりによってこんな日に、とカアラは苛立ちを隠せない。


 しかしすっかり疲弊した様子の三人から

 彼らがアイレンとの婚約破棄により

 周囲の信用や人望をすっかり失った、

 と聞かされたのだ。


「まあ、それは仕方ないんじゃない?

 どんなにアイレンが嘆いたって

 私の方が可愛いから、選ばれたんだし」

 カアラは皮肉な口調で言った。


 するとツグロがいきなり、真相を暴露したのだ。

「でもさ、本当は婚約なんてしてないんだよ?

 ただ僕たち家族が”そうなったら良いな”って思って、

 つい言いふらしちゃっただけなんだ」

「はあ?! 何よそれ!」

 カアラは声を張り上げ、ツグロに詰め寄った。


「婚約してないですって?

 プロポーズしたんじゃなかったの?」

「したよ。でも断られたんだ。

 天満院家に近しい華族はみんな知ってるよ。

 僕が断られたことも、勝手に婚約者を名乗ったことも」


 カアラは情けなさでその場に座り込む。

 まただ。また、なのか。


 入学させまいと女学校の辞退届を偽装したのに

 アイレンは元々、入学するつもりなんてなかった。


 婚約破棄されてしまえばいいと、婚約者(ツグロ)を奪ったのに

 アイレンは元々、ツグロなど相手にしていなかった。


 今までもそうだ。自分のアイレンに対する嫌がらせは

 ことごとく空振りに終わるのだ。


 ぐったりとしながら、カアラは思った。

 ”無能じゃなくて、無効だなんて。

 まさかこれも、その能力のせい?”


 カアラの心にふたたび恐怖が戻って来る。

 それを知ることも無く、カアラの父が吐き出すように言う。


「ともかく、何としてでも我々は、

 あの娘を取り戻さなければならない!」

 カアラは驚いて顔を上げる。


 ツグロはともかく、

 うちはもうアイレンなど無関係のはずなのに。


「どうして? あんな子、どうでも良いじゃない」

 カアラの抗議に、その父は忌々しそうにつぶやいた。

「あの娘がいなければ、この家には何も届かないんだ」


 意味がわからないカアラに、

 両親は言いづらそうに説明しだす。


 引っ越してしばらくの間は、

 天満院家の領地や事業所などから、

 さまざまなお金や品物が届いていた。


 しかしそれは当然、全てが”天満院家”宛てのものであり

 執事とアイレンが帝都に向かった際、

 全て送付先をアイレンの新しい自宅へと変更されていたのだ。


 遠方の領地や事業所は、連絡が届くのが遅れたため、

 しばらくの間はどうしても、こちらに届いてしまっていたが、

 今となっては何一つ届いては来ない。


 それまでかなりの金額や宝石、金塊を横取りしていたが

 散財を重ねたため、残りはかなり少なくなっている。


「だから、あの娘と同居すれば良いのだ。

 どうせちょっと脅すか泣きつけば言うことを聞くだろう」

 父の傲慢な言葉を聞き、カアラが思わず叫んだ。

「ダメよ! 絶対に!」


 そのあまりの剣幕に、両親もツグロ一家もたじろいでしまう。


「どうしたの? カアラ」

 カアラの母に問われ、カアラはみんなに話した。


 アイレンは”能力”が無効であること。

 執事に”二度と近づくな”と言われたことを。


 ーーーーーーーーーーーー


「そうなのか……アイレンには効かなかったんだ」

 ツグロが感心したような声を出し、カアラを苛立たせる。


「でもそれって、たいした能力ではないわよね?

 効かないってだけでしょ?」

 深くも考えずにカアラの母が、娘をとりなすように言い、

 ツグロの父も深くうなずいて言う。


「そもそも本当かどうか分かったもんじゃないぞ?

 あの家は金持ちだからな。

 ”魅了除け”の魔道具くらい持っていそうなものだ」


 その言葉に、カアラの顔色がぱあっと明るくなる。

「そうよ、きっとそれだわ!」

 あんな子が、”能力無効”だなんて。

 ”特別な人間”であるわけがない。


 ツグロの母もうなずき、カアラにお世辞を言う。

「魅了が効かなかったことなんて、気にする事ないわ。

 そもそもカアラちゃんは魅了など使わなくても、

 充分魅力的ですものねえ」


 カアラは天満院家の遺産を手にする可能性があるのだ。

 ツグロの大切な婚約者の機嫌を損ねるわけにはいかないから。


「ウフフ。おばさま、ありがとう」

 カアラの機嫌はすっかり戻った。

 しかし一人、怒りに震えている男がいた。


「何が”破滅する”だ! くだらぬ脅しをしおって!」

 それまで黙っていたカアラの父が急に大声をあげたのだ。


「で、でも、アイレンに関わらなければ

 手紙の件はなかったことにしてくれるみたいだし」

 カアラの母が反論するが、父はそれを一蹴した。


「だからその件も、うちは無関係と言えば良いだけだろう。

 あの執事め、うちをコケにしおって。

 目にものを見せてくれるわ!」


 先ほどのカアラの話の流れで、

 彼女がアイレンの書類を偽装したことを知ったツグロ一家は

 内心、ドン引きした上に、

 カアラの父の言い分は無理があると思っていた。


 しかし怒り狂うカアラの父に、

 表立って反論するのも角が立つ。


 そこでツグロの父が言ったのだ。

「どうにかアイレンに関わらず、

 彼女が我々のところに戻るよう、

 仕向けることができれば……」


「そんな、どうやって……」

 ツグロが弱々しくつぶやくと、

 思いついたようにカアラが

 ニヤリと笑って言ったのだ。


「あるわよ。アイレンに関わらず、

 あの子を追い込む方法が。

 ……これならあの子、私たちにすがってくるわよ、きっと」


 ーーーーーーーーーーーー


「はいはい。で、何の用?」

 取り繕うことも無く仏頂面で、

 和菓子屋からジュアンが出てくる。


 笑顔で近づいてくるカアラが何か言う前に、

 ジュアンは胸にぶら下がったペンダントを差して言い放った。

「あ、もう使えないから。

 これ、”魅了”除けの魔道具ね」


 前回の失敗を気にしたジュアンは、親に頼んですぐに

 高性能の魔道具を買ってもらったのだ。


 出鼻をくじかれ、カアラはムッとして黙り込む。

 その様子に、また”魅了”を使って何かしようとしたんだと察し

 ジュアンはあきれ顔でカアラに言った。


「作戦失敗、ってことで。じゃあね」

「ちょっと待ちなさいよ!」

 去って行くジュアンをカアラは必死で呼び止める。


 そして必死に頭をめぐらせる。

 コイツの弱みを握らなければ。


 コイツが大切にしているもの……それは。

「ほんと、立派なお店よねえ」

「ありがとうございます」

 ジュアンはめんどくさそうにお礼を言う。


「ねえ、私に()()なら、もっと大きな店にしてあげる」

「ふ、結構です」


 ジュアンは鼻で笑いながら答える。

 どんなにアイレンと親しくなろうと、

 今まで一度も、天満院家の力すら借りたことはない。

 馬鹿にするな、とジュアンは思っていた。


 するとカアラは、不気味な笑みを浮かべて言ったのだ。

「ええーでも、潰れちゃうのはもったいなくない?

 老舗の和菓子屋なのにね、ジュアン」


 ご心配なく、と言おうとして、ジュアンは黙った。

 カアラがその手に、自分の家のお菓子を持っていたのだ。


「商売は評判が大事よねえ?

 前に大通りにあったアクセサリーショップね、

 あれ無くなったの、なんでだと思う?」


 そしてぐっとジュアンに近づいて、小さな声でつぶやいだ。

「知ってた? 私の”魅了”、いろんなものに使えるの。

 ……私のこと馬鹿にしてるとね、

 破滅することになるわよ」


 そう言ってカアラは耳障りな声をあげて笑った。


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