1/5
第一話「雨の教会と灰色の影」
村の東にある古い石造りの教会では、今日も鐘が鳴らなかった。
ミカエル村の人々は、もはやその沈黙に慣れきっていた。神父が病で倒れて以来、祈りの場所はただの石の箱に変わっていたのだ。
そんな中、教会で掃除を任されている少女――マリアは、変わらず教会に通っていた。
14歳。白いワンピースに茶色のカーディガン。明るく笑い、冗談を言い、誰とでも仲良くできる。で も、本当の彼女を知る者はいない。
ある雨の日のことだった。
雨音が天井を叩く中、マリアは祭壇を拭いていた。
そのときだった。奥の納戸の扉が、ギィ、と音を立てた。
「……誰?」
誰もいないはずの教会に現れたのは、一匹の猫だった。
灰色の毛並みに、青い瞳。
そして咥えていたのは、どこかで見たような小さな杖――