カルティエ宮の亡霊
「王命、ですか」
「ああ。すまない、セレスティーヌ」
当主の兄に呼び出され、告げられたのは王命による縁談だった。
「お相手は?」
「カルティエ公だ」
「家格の差がありすぎるのでは?」
拒否権のない突然の縁談よりも、まずそこが気に掛かった。
我が家は伯爵家。お相手は王家の血も入っている公爵家である。王位継承権も持つような相手であり、余程の事情がなければ私と結婚の話が出る人物ではない。
「私もそう思って、陛下にも確認したよ」
あまりに、釣り合わない。そう思っているのは兄も同じのようで。相手を間違っていないか陛下に確認してきたらしい。
「話を聞いて納得した。公爵閣下の噂は知っているかい?」
「いえ。お身体が強くない為、あまり宮殿から出られない、としか」
私が噂話に興味がないという事情もあるが、社交の場にも滅多に出てこられない方だ。噂も殆ど聞いたことがない。
「ああ、そこまでは知っているのか」
「関係するお話なのですか?」
兄は小さく頷いた。
「カルティエ公爵は、『亡霊公爵』と呼ばれているんだよ」
「亡霊、ですか」
薄い金の髪に、青い瞳。白いを通り過ぎて生気のない肌は、日差しに当たると赤黒く変色するという。
日に当たると辛そうにする姿は、まさに太陽に疎まれた亡霊のようだ、と。
そして日の下を歩けない体を憎み、暗い宮殿の中で、夜な夜な怪しげな書物を読んだり他者を呪ったりしているのだという。
この辺りは流石に誇張表現が含まれていそうだが、確かに嫁ぐ気は削がれる内容だ。
「ああ。それで家格の釣り合う御令嬢たちは皆辞退したらしい」
余程、噂が怖かったのだろう。全員顔を合わせることもなく断ったという。
公爵閣下の両親が若くして亡くなっているという事実も、御令嬢たちの恐怖を助長したのだという。
「公爵閣下はまだ若いし、隣国との境界付近で流行病があったり、忙しかったから……」
「今迄は後回しにされていたのですね」
「しかし、半年後に近隣諸国との会合が開かれることになっただろう?」
「外交官である閣下が、パートナー不在で出席されるのは問題だ、と」
「そういうことだ」
公爵閣下は体質の問題上、外に出なくても可能な政務を任されているようだ。
それが、外交官の仕事であり、普段は他国の要人と書簡でやり取りをしているらしい。
体が弱い分、勉学に励まれていた閣下は言語堪能、知識豊富で外交では大活躍されているのだという。
陛下も閣下を頼りにしているため、会合に参加しないという選択肢はないそうだ。
「事情は理解しました。ですが、何故、我が家なのかは不明なままでは?」
同格の伯爵家は他に幾らでもある。当然、同年代の御令嬢も多い。兄も領地経営しかしておらず、外交に縁はない。
「閣下は音楽がお好きだということで、陛下が適任だと」
目を丸くして、兄を見た。物凄く、腑に落ちたのだ。
「…………音楽と言われると、確かに、私が選ばれますね」
「ああ。我が家しかないとの仰せだ」
私の唯一の取り柄である。ダマーズ伯爵家は領地も平凡で特産品も特にないが、伯爵家の人間に特徴がある。
それが、音楽である。代々音楽一家であり、父はバイオリニスト、母はピアニストだった。兄もバイオリンを嗜み、私は作曲家として活動もしている。
音楽の話ができる令嬢、という条件を付けた場合、私が選ばれるのは納得だ。
「それと、陛下から伝言がある」
「はい」
私にも気を遣ってくださっていることから、陛下の本気度が伺われる。
「『カルティエ宮にはイグナーツ・カイザーがあるが、結婚するなら好きに弾いていい』とのことだ」
イグナーツ・カイザーとは、最高峰のピアノ職人イグナーツが作ったピアノの中で、特に優れたものである。
音域の広さが特徴で、音楽に携わるものなら誰もが憧れるピアノである。
ちなみに、国内には三台しかなく、一台は王宮。もう一つは王都の大神殿にしかない。
つまり、カルティエ公爵夫人となれば、毎日弾き放題、ということだ。
「正直、私が代わりに嫁ぎたくなった」
気持ちはとても理解できる。バイオリンが専門の兄でも憧れるレベルのピアノだ。
私も兄の婿入り先に最高峰の楽器があったら、全く同じことを言うだろう。
「お兄様には流石に無理かと。ですが、これ以上ない殺し文句ですね」
にこり、と兄に微笑んだ。
「…………と、言うことは?」
「ええ。謹んでお受けいたします」
貴族令嬢ならば、家の為に嫁ぐのは当然だ。王命とあれば尚更。
というのは建前で、イグナーツ・カイザー引き放題に心奪われたというのが本音だ。
冷静に考えても、公爵閣下は恐ろしい見た目と、外見に付随するような噂しか聞かない。
『音楽好きに悪い人は少ない』という家訓に則り、取り敢えず、ピアノを弾いてから話をしてみよう。
「極力早く移り住……」
「明日にでも」
優雅に微笑み、兄に答えた。私はドレスも宝飾品も大して持っていない。気に入っている楽譜を幾つか持っていくだけ充分だ。
「……手続きはこちらで済ませておく」
「ありがとうございます、お兄様」
会合までは後半年。関係を構築するなら早いに越したことはない。
明日からの生活に期待と不安を抱きつつ、私は準備を始めるのだった。
◇
翌日、太陽が真上で輝く時間。王都内にあるカルティエ宮に到着した私は、静かな歓待を受けていた。
「ようこそお越しくださいました。セレスティーヌ様」
出迎えに来たのは、年嵩の男性が一人。開かれた扉から覗く人影もない。
純粋に人材が少ないのか、歓迎する気がないのか。もう少し様子をみよう、と微笑んだ。
「初めまして。セレスティーヌ・ダーリエと申します」
「家令のダヴィドと申します」
完璧な角度の礼。言葉や態度に棘はなく、純粋に歓迎されているような声音だ。
「公爵閣下にご挨拶したいのですが、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「大変申し訳ございません。閣下は執務に追われておりまして」
今は日も高い。肌が弱い閣下が出迎えに来ないのは仕方がない。仕事が多いのも事実だろう。
「閣下がお忙しいことは理解しています。私のことはお気になさらず」
政務のための結婚なので、仕事の邪魔をしたら本末転倒である。
素直に引き下がると、ダヴィドは少しだけ表情を緩めて微笑んだ。
「セレスティーヌ様には、何かあれば私に申しつけるようにと言伝を預かっております」
「わかりました。部屋に案内してもらえますか?」
「はい。こちらでございます」
廊下に他の使用人はいないが、埃一つなく丁寧に掃除されている。
案内された部屋も品の良い家具で統一されており、あからさまに邪険にはされていなさそうだ。
一先ず、ここでの生活に慣れてから、公爵閣下のことは考えよう。
人の気配のない、隣の寝室へと繋ぐ扉をチラリと見てから、柔らかいベットに横たわった。
◇
「大人しく、五日は過ごしてみたけれど……」
カルティエ公爵家に来てから五日。書類上でも夫婦になったと兄から連絡が来てから二日。
読書をしたり、刺繍をしたりと、極めて一般的な貴族夫人のような日々を過ごしてみたのだが。
既に書類上は夫になった、カルティエ公爵と顔を合わせることはなく。
見ている相手もいないというのに、猫を被っているのも馬鹿らしくなってきた私は、ピアノの前に座っていた。
「そろそろ、指慣らしをしないと……」
今迄も、毎日、架空の鍵盤を叩いてはいたのだが。やはり本物の楽器に触らないと勘は鈍る。
初日は一日中侍女数名側に居たが、人手が足りないのか、私が大人しくしているからか。
一人でピアノを弾きたいと言ってみれば、簡単に要求が通ったのである。
「ちょっと失敗したかもしれないけれど」
私は、人並み以上にはピアノが弾ける。だが、あくまで人並み以上であって、母と比べると明らかに劣る。
それを自分でも理解しているので、練習は他の人がいない所で行いたいのだ。なので、侍女にも出て行ってもらったのだが。
「温めないと無理そうね」
予想以上に部屋が寒かった。少し弾いてみたが、指が全く動いていない。
そういえば、今の季節は冬だったな、と冷たい譜面台を指でなぞった。
仕方がない、と腰を上げ、暖炉に火を入れてもらおうとした、その時だった。
「あら……」
パチパチと、小さく何かが爆ぜる音に振り返る。視線の先にある暖炉では、小さな赤い炎が揺らめき始めていて。
近付き手をかざせば、じんわりと指先に血が巡っていく。一度、二度と指を握り込み、私は再びピアノの前に戻った。
一曲、二曲と指が覚えている曲を順に弾いていく。曲を弾き続けている間、暖炉の火が消えることはなかった。
「ダヴィド。丁度良かった。聞きたいことがあるのだけれど」
一通り曲を弾き終え、椅子から立つと、暖炉の火は消えていた。
侍女を呼ぼうと、廊下に出ると丁度ダヴィドが歩いていたので呼び止める。
「如何なさいましたか?」
私に気付いたダヴィドは、一人でいる事に僅かに片眉を上げたが、出てきた部屋を見て納得したらしい。
すぐに表情を戻し、慇懃に尋ねてきた。
「公爵閣下の好みの曲をお聞きしたくて」
「でしたら、後で楽譜をお持ちしましょう」
「ありがとう」
楽譜は書庫で管理しているらしい。書庫は広く、場所の説明も難しいため、ひとまずはダヴィドが持ってきてくれるようだ。
「閣下の好みを気にしていただけることは嬉しいのですが、何かあったのですか?」
五日間、私は特に閣下について聞くこともなかった。急に聞けば驚くのも無理はない。
私は少し微笑み、ダヴィドに手招きした。
「ちょっと耳を貸してちょうだい」
小さな声で確認するのは、暖炉の火がついた原因だ。侍女や使用人なら、わざわざ姿を隠さずとも、堂々と火だけ付けていけばいい。
私に姿を見せず、しかし寒さを気に掛け暖炉に火をつけ、演奏が終わるまで待っているような、そんな相手は一人しかいないだろう。
順を追って説明すれば、ダヴィドはなんともいえない声音で肯定した。
「…………それは、間違いなく、閣下ですね」
「やっぱりそうなのね」
「カルティエ宮は元々王家の離宮として使われている場所ですので、色々と通路があるのです」
屋内を移動するものは勿論、外に繋がっているものもあるが、それを知ることができるのは、もう少し後だと言う。
恐らく、王城と繋がっている通路があるのだろう。細かいことは、閣下から直接聞けと言うことだ。
「これは、気付いてない振りをしていた方が良いの?」
一番の問題はこれだ。私のために暖炉に火をつけた癖に、顔を見せず、会話もない。
この調子で半年後の社交は大丈夫なのか、と不安になる気持ちもあるが、無理に追求して嫌われては元も子もない。
なので、一番性格を知っていそうなダヴィドに尋ねてみたのだが。
返ってきたのは意外な言葉だった。
「いえ。そもそも、政略結婚とはいえお相手を放置する閣下の態度にも問題がありますから」
その場で問い詰めても良かったくらいです、と初めてわかりやすい笑みを浮かべた。
恐らく、ダヴィドは閣下が顔を合わせない理由を知っている。知った上で、私に問い詰めて良いと言っているのだ。
「そう。なら、私なりに、話し掛けたくなるようにしてみせるわ」
私は、私らしい方法で、あちらから話し掛けてさせてみせる。微笑みを返せば、ダヴィドは口の端を上げ、恭しく頭を下げた。
「吉報をお待ちしております」
私は早速、真白い五線譜を準備した。
◇
それから数日。私は毎日、決まった時間にピアノを弾きに部屋に向かった。
使用人たちも、私の日課として受け入れてくれている。
「セレスティーヌ様、今日もピアノですか?」
「ええ。少し一人にしてくれる?」
「畏まりました。何かあればお呼びください」
「ありがとう」
既に鍵の空いているドアノブに手を掛ける。部屋の中は、昨日と同様、既に温まっていた。
そろそろ、試してみても良いかもしれない。私は、ダヴィドに頼んだ楽譜ではなく、真新しい紙を譜面台に並べる。
がたり、と、僅かに音がした。その音を確かに聞いてから、私はそっと鍵盤に手を置く。
作ったばかりの曲を弾き終え、静かな部屋で呟いた。
「……貴方の為に、作った曲です」
僅かに、空気が震えた。しかし、揺れた空気は、鼓膜に音を届けるほどではなく。
「お返事してくださらないのですね」
私は目を伏せ、言葉を続ける。
「私の考えなのですが、政略結婚において、愛が無いことは気にしません」
お互いを尊重できれば、それで良いと思っているのだ。顔を合わせていないこの状況も、最終的な目的である夜会に出席できるほどの関係性ができれば、それで良い。
貴族の結婚なんて、そんなものだ。公爵夫人としての生活が保証されており、使用人とも上手くやれているので不満はない。
「ですが、音楽家として、自身の曲に何の反応もいただけないと悲しくなります」
相手の為に作った曲であれば、尚更だ。
この曲を作るに当たり、ダヴィドに閣下の好みの曲を片っ端から持ってきてもらった。
その中から閣下の好みを見つけ、好きな要素を詰め込んで、私の好みも織り交ぜ作り上げた曲だ。
気に入ってもらう自信はあったし、今の反応も悪くないように感じている。
だというのに、公爵閣下は返事をしない。私は楽譜を持っていない手を目元に当てながら、そっと壁に寄りかかる。
「悲しみのあまり、手が滑って暖炉に楽譜が落ちてしまいそうです」
そっと炎の上に楽譜をかざせば、白い羊皮紙が橙色に照らされる。
後は、手を離せば燃え尽きるだけだと、更に手を火に近付けようとした時だった。
「ま、まってくれ!!」
自分のものより一回り大きい、乾燥してざらついた手が、右の手首を掴んだ。
「そんなに近付けては、火傷をしてしまう」
大事な手だろう、そう言いながら、左手でそっと目元を覆われ、静かに目を閉じた。
一歩下がると、背中が何かにぶつかった。ほっとしたような溜息が、頭の上から落ちてくる。
「どこも、熱くはないかい?」
「はい」
大丈夫そうで良かったと、呟くテノールは柔らかい。これが、閣下の声なんだなと、耳に意識を集中させた。
「君の曲は、素晴らしい。今は、面と向かっては言えないが、どうか、馬鹿な真似はよしてくれ」
「わかりました。私こそ、驚かせてしまって、すみません」
聞こえてくる鼓動が早い。本当に、心配してくれたのだろう。
思わず口の端が上がり、手にした羊皮紙がゆったりと揺れる。
「…………その、よければ、もう一度聞かせてくれないか」
「ええ、喜んで」
今度は楽譜を見ながら聴きたい、と私の後ろに立ったまま、公爵閣下に頼まれる。
後ろを向かずに楽譜を手渡す。ありがとう、と声が弾んだ。
「あと、改めて、自己紹介を、したいのだが」
「そうですね。初めまして、旦那様。セレスティーヌと申します」
言外にカルティエ公爵姓に変わっていることを伝えれば、答えの前に、咳払いが一つ挟まった。
「エルネストと呼んでくれ。よろしく頼む、私の奥さん」
◇
暖かい部屋の中、モノクロの鍵盤上で、右へ左へ指を動かす。思いつくままメロディを奏で、五線譜に書き留め、和音を添える。
繰り返し同じフレーズを弾き、アレンジを加え、元に戻し、また別のアレンジを加える。
一小節が埋まれば、少し前から通しで弾いて、また修正。そうして、少しずつ、音の輪郭を模ってゆく。
嫁ぐ前から変わらぬ方法。変わったのは、息を吐けば穏やかなテノールが聞こえてくることだ。
「セレスティーヌ。今日も素晴らしい音色だね」
真後ろからする声にも随分慣れたもので。私は楽譜に音符を書き足しながら答える。
「ふふ、イグナーツ・カイザーの表現力あってこそです。素晴らしい調律です」
「本当に好きだね」
「はい。嫁げて幸せです」
「それは私に?」
「ええ、勿論」
冷遇されることもなく、生き甲斐とも言える音楽を続けられ、最高峰の環境を与えられているのだ。不満があるわけがない。
だと言うのに、当の本人はピアノのお陰だと思っているらしい。
「だが、私は知っての通りの『亡霊公爵』だ。いまだに、君に顔を見せることもできない」
あの日から会話はするようになったが、確かに顔は合わせていない。だが、私はそれでも構わなかった。
「エルネスト様が顔を見られたくないなら、私は別に構いませんよ」
夜会には二人揃って仮面でも付けていきましょう。そう言って笑えば、エルネスト様は私の肩に手を置いた。
「何故……」
声が震えている。手も、力こそ入っていないが、動揺を現すかのように私の肩を掴んだまま。
私はそっと、手を重ねる。
「顔を合わせて話さなくとも、音楽があれば分かり合えますもの」
貴族である私たちは、表情管理はお手のものだ。そんな上辺のものよりも、音楽の方がずっと、分かり合える。
「エルネスト様が好きな曲は、太陽の降り注ぐ草原よりも、柔らかな月光を映す泉ような曲。短調よりも長調がお好みで、偶に私の曲を口遊んでいらっしゃいます」
「…………君は、か弱そうに見えて、とても芯が強い。音色からそれが、よくわかる。細い指が折れそうなほど、しっかりとした音を奏でる」
「丁寧に私の音に耳を傾けてくださいます。最後まで曲を聞いてから、しっかり感想を言ってくださいます」
「小さい手で広い鍵盤を駆け回る。気付けば目が離せなくなる」
指と指を絡める。冷えた指先に、私の熱が伝わっていく。徐々に震えが収まっていく。
「ね、大丈夫でしょう?」
音楽の話だけでも、私たちは、ここまで分かり合えたのだ。
だから、きっと。これから先も大丈夫。
「そうだね。だからこそ……」
そっと肩から手が離れていく。しかし、指は絡まったまま。手を引かれるまま、その場でくるりと半回転した。
「エルネスト、様……?」
後ろを、向けば。当然、そこにいるのは、エルネスト様で。
頑なに顔を見せてこなかった彼の、青い瞳に、私が映る。
「今日こそ、直接、感想を言わせて欲しい」
少し、自信なさそうに俯いたせいで、薄い金髪が目に掛かる。
それでも、目は逸らさないまま、エルネスト様は私に言った。
「君の曲に、いつも、救われている」
君は音楽の天使だね、と告げる頬は、所々赤く変色している。それは、血流によるものではなく、日にあたった跡なのだろう。
今迄、顔を見せてくれなかったのは、跡が消えるのを待っていたから。他の令嬢のように、私が怖がらないように。
亡霊と言われる原因であるその顔を、見せることに、どれだけ勇気が必要だろう。
「…………貴方の為なら、何曲だって捧げるわ」
そういった気遣いができる彼こそ、天使と呼ぶに相応しい。伝えたところで、まだ、信じてはくれないだろうから。
私は微笑み、彼の頬に口付けた。
好きなお話シリーズ第三弾です。
中編くらいで書き直すかもしれません。