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反応する物と者(リライト済)

――――

――


 ――そして数時間後


 無事に元とはいかないが、吹き飛ばされた木々の分だけ農地を広げることができたのである。


 せっかく装着したグラセーヌのパワードスーツは、見たこそ非常に素晴らしかったが、全く動かすことが出来なかった。結局のところ、大きめのシャベル程度にサイズを下げることで、なんとか作業することが出来た。

 おそらく呪文の最後に言った『我を楽にさせたまえ』あたりが良くなかったのだと思った。余計なことを言わなければ、かっこよく動いていたかも知れないのに残念である。


 まぁそれはさておき、グラ父より授かったシャベルは、重量軽減措置が施されているのか、思いのほか軽く扱え、土を掘った際の“土そのものの重量”は殆ど感じる事は無かった。とはいえ作業は中腰で行われるため、負担はそれなりであった。


「ぜぃ……ぜぃ……な、なんとか……なりましたね……」


 当然と言えば当然であるが、慣れない肉体労働に優也は疲れ切っていた。一方グラセーヌはというと、その怠惰であった時間が長かったためか、体力はそれほど続かず、早々にリタイアしていた。それでも文句を言いながら休み休み手伝っていたのでお仕置き自体は発現しなかった。おそらくグラセーヌのメンタルに反応しているのかもしれない。

 日ごろからもう少し運動しておけばよかったと思った優也は、寝そべっていた体を半身だけ起こし村人の方に視線を向けた。


「いやぁ、大変だったけんども、おかげさまで農地も広がり土もふかふか、立派な(うね)もできた。種も蒔けたし文句ないべさ」


「ただ、いつもより、長く動いていたせいか、少しばかり疲れたがね……」


 土だらけ泥だけになった村人らは、手ぬぐいで汗を軽く拭き取るとその体を横たえ、疲れを癒やしていた。彼らにとってはこれが日常なのであろう。普段禄に身体を動かさない我々とは違い、それほど息を切らしているようには見えなかった。


 グラセーヌは天を仰ぐように大の字に地面になって転がり、その体からは大量の汗が絶え間なく流れ出ていた。


「ぜい……ぜい……、ひ……、久しぶりに体というものをまともに動かした気がするわ……膝も腰も悲鳴を上げてるわ……」


 声をあげるグラセーヌであったが、少し目をはなすと、グラセーヌが転がっていた場所は草むらに覆われていた。目を凝らすと、その周辺にある草や蔦、蔓などは絶え間なく動いていて、奇妙な雑草のコロニーを形成していた。


「あ、あれ!? グラセーヌ様?」

 気になった優也は茂みに向かって声をかけた。


「こ、ここよー! こ……! ちょっと草や蔓が! ぷっ、ブぁッ!! は、鼻と口に!!」

 草むらのコロニーから声がしている。急いで駆け寄るとグラセーヌの周囲からは絶え間なく草が生え、そして枯れては、生えてを繰り返している。村人と共にグラセーヌの手を探る。絡みよる蔦を幾つか引きちぎると、手が見つかかった。優也はその大きな手を両手で掴むと、村人の手を借り茂みから引きずり出すことに成功したのである。


「っ……はぁはぁ……。なんなのよもう……」


 ――フンッ!


 片方の鼻を指で押さえ、鼻に入った葉っぱを勢いよく噴き出した。優也は何故かグラセーヌの一連の動作に、今は無き父の後姿を見た。


 続けてグラセーヌは、まとわりつく蔦を一頻(ひとしき)り体から毟り取ると、その手で額の汗を拭い、地面へと払ったのである。


 そんなグラセーヌの行動を遠目に見て首をかしげている優也は、何が原因で草が急成長していたのか、しばらく長考したのち、その飛散する汗に視線がいった。グラセーヌの汗の飛沫は地面に落ち、その瞬間から苔が……草が、雑草が、蔦が発生していくのが確認できた。そして凄まじいスピードで成長を繰り返していく。


「これ……汗に反応してるんですかね……」


 優也は思わず言葉が零れた。ふとグラセーヌの方に視線を向けると、すぐ傍に黒い塊があるのに気付いた。


「ハーゲェン!!」

 村人の一人『ケイン』が声を上げた。


「きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 思わず優也とグラセーヌも声を上げた。


 ――黒い塊はわさわさ動いており、絶え間なく“何か”が伸び続けている。


 あまりに異様な光景から、一同は思わず距離を取り離れた。慌てふためくケインがその塊に恐る恐る近づくと、繊維は突然動きを止めた。


 ――バサァ……


 繊維は糸でも切れたかのようにその場に一斉に落ちた。そして大量の繊維に囲まれた中から、頭髪の失われたハーゲンの頭が出てきた。いや、彼はもともと頭髪など無かったはずである。


「アァァァオォォォォ!!」

 ハーゲンは突然絶叫し起き上がると、グラセーヌに向かい襲いかかった。


「ァァァ!! そのオォオォォォォォ!!!」

 グラセーヌに襲い掛かるハーゲン。その目は異常なまでに赤く充血し理性を忘れ、何者かに精神を乗っ取られているような感じあった。


「何すんのよ!!!」

 グラセーヌはとっさに右のこぶしをハーゲンの頬に繰り出した。

 その巨体から繰り出される重いパンチは、彼をその場で1回転半ほど回転させるほどの威力であった。


 奇妙な叫び声と共に吹き飛ばされるハーゲンの身体。

「ポげェラッ!!」


 ――と、その時であった。殴った際に腕と手に付着していた汗はほとばしり、ハーゲンのまつ毛と眉毛、顔の一部にかかった。汗はハーゲンの表皮にかかると毛母細胞と毛乳頭を刺激し、そこから大量の黒い繊維が噴き出した。


「あぁあああぁぁ、目がアァぁ!! 目がぁぁぁ!」


 異常なまでに発達したまつ毛と眉毛は数メートルほどになり、抜けては生えを繰り返していた。ハーゲンは必死に手で目を塞ぐが、勢いは一向に止まらず、手の隙間から毛が漏れだすほどであった。

 視界を奪われたハーゲンはその影響なのか、グラセーヌのパンチの痛みなのか地面を転げ回った。そして、身体が硬直し大きく仰け反ったかと思うと痙攣し、その場に倒れた。


「ハ、ハーゲンさん!!」


 優也たちは急いで駆け寄りハーゲンの体を揺さぶると、生えていたまつ毛と眉毛は抜け落ち、ハーゲンはうっすらと目を開けた。


「……、はっ!? 一体なにを……?」


 ハーゲンは正気に戻っていた。顔に手を当てると、眉毛、まつ毛は再び正常に生え揃っていた、そして頭皮に違和感を覚えたのであった。

 ハーゲンはゆっくりと起き上がると、涙を流しながら「ありがとう」と何度も何度も礼を言った。グラセーヌは最初自分が何をしたかも理解できないでいたが、ハーゲンの感謝の念を受け、改めて自分の持つ効果を認識した。そして、ハーゲンはその内なる事情を話してくれた。


――


 彼は生まれながらに病気が原因で頭髪が生えてこなかったのだそうだ。幼少の頃それが原因で虐められ、食は細りやせ衰え、一時期はスケルトンハゲなどとも呼ばれていたそうであった。自死をも考えたが、良き理解者たちが彼を庇い救われたのだ。そして、年月は流れ理解者の一人と恋に落ち結婚をし、子を育むまでに至ったのだそうだ。だが皮肉にも、その子……その娘にも頭髪がなく、今なお苦しんでいるのだそうだ。


「頼む……、娘を救ってくれ……! 俺の髪などどうなっても良い……だから娘を!」


「わ、わかったわ……。やれるか分からないけど、わ……わたしが、助けてあげるわ!」


 グラセーヌは脳裏によぎったトラウマに一瞬躊躇(ためら)いを見せたが、ハーゲンの娘を思う気持ちには抗えず、その願いを聞き入れることにした。


――――

――

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