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妹(リライト済)

――――

――


「はっ! ここは!!」


 痛みは無かった。まるで気絶から覚醒するような感覚であった。

 半身を起こしあたりを見回す。これがただの日常の目覚めであったなら、どれほど良かったであろうか。しかし、辺りの様子が視界に入るたび、そんな思いも打ち砕かれてしまう。


 真っ白の空間。16本の柱は等間隔で建っており、それは天を見上げても先端が見えないほど高くそびえ立っていた。表面に細かい装飾が入っているその柱は、通路の脇に並んでおり奥まで続いていた。

 ゆっくりと歩いて行くと、最奥の柱が見え始めたところで、どこかで見たような空間が広がっていた。それはグラセーヌの小部屋にのようであった。その開口された洋装飾の部屋の中央に、大理石で作られたような巨大な椅子があった。周囲には純白の本棚があり、その椅子を囲むように整然と並べられていた。

 椅子の両側には青々と茂った観葉植物、それと開封途中の段ボールが幾つも積まれており、中途半端に生活感の漂う部屋であった。引っ越しの最中であろうか。


 優也はその部屋に近寄ると、柱の陰から疲弊した声が聞こえてきた。


「ッ――、ハァ――ハァ……。よ、ようこそ、いらっしゃいました。優也様……」


 その女性は息を切らしており、ゆっくりと椅子に手を架けると、なだれ込むように座った。


「こ、こんなお見苦しい姿で、申し訳ありません……。わ……私の名前は、『グルベルト・グラティーヌ』。『グラセーヌ』の妹です。此度は姉のグラセーヌがご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 純白の美しい金と銀の刺繍が施されている衣、裾は青い布地で覆われており、これもまた金の刺繍が施されている。水色の髪は眩しいほどに艶があり、赤い宝石を散りばめた金色の髪飾りは気高くも美しい髪を束ねており後ろで一纏めにし、それは肩から胸元へと流れている。目や眉はグラセーヌと同じようではあるが、瞳の色は淡い水色であった。グラセーヌと似ても似つかない体型であった。女神とは本来こういうものであろうか。

 ふと、グラティーヌの足元へと視点を向けると、慌てていたのであろうか、膝にウサギがプリントしてあるピンクのスウェットパンツと、ピンク色のウサギのスリッパに目に付いた。


「……」


 優也の視線を感じたのか、俯き黙り込んでいるグルティーヌ。


「い、いや、大丈夫ですよ……。何も見てませんから。……ウサギ……好きなんですね」

 優也は思わず声が零れた。


 顔を真っ赤にし、涙目で慌てふためくグルティーヌは顔を手を覆っていた。

「ひゃあああぁ!! と、と、と、とにかくですね。まさかこんなに早く死んでしまうとは想定外だったんですよ! まだ引っ越しだって済んでいないんです! でも、でもですね! わたし父様から姉様のこと、優也様のこと任されたんです。誠心誠意一生懸命頑張って、皆様をサポートしてまいりますのでよろしくお願いします!」


 そう言って深々と頭を下げる妹グルティーヌは、姉グラセーヌとはえらい違いであった。


「姉様は……、昔はこうではなかったのです……、いろいろとあって、今のように怠惰になられてしまったんです……。ここ数年前までは誰よりも頑張っていて、わたしの憧れでもあったのですが……」


 そういって小さくうつむくグラティーヌは、少し悲しそうであった。無理もないかつては元気であった姉が全てを投げ出し陰鬱としてしまったのだから……。


「そう……、ですか……。皆何かしら抱え苦しんでいるんでしょうね……。自分も幼き頃、調味料を買うのに苦労しました、それが原因でレッドキャップだのなんだの言われてからかわれたり、虐められたりもしましたからね……。ですが、こうして変われる良い機会を頂いたからには、自分も頑張って姉様……じゃなかった。グラセーヌ様をサポートしていきますよ。どこまで出来るか分かりませんが、任せて下さい」


「そう言って貰えると、私も助かります……姉が無事昔のようになってくれる事を願っています……」


「……しかしアレですねこの状況。自分、半透明になってるけどあっちに帰れるんですかね……」

 優也は自身の透けている手足を見て質問した。


「大丈夫ですよ、肉体はここにはあらず、実体はグラセーヌのもとにありますからね。現在は一応精神体として、ここに戻ってきているだけですし。ただ……」

 そういうとグルティーヌは視線をそらした。


「ただ……、どうしました?」


「その肉体、神罰により自身少々傷んでいるのです。姉様のそばいる場合は自動的に蘇生と再生されるのですが、その時に若干痛みが伴うのです。なので、戻った瞬間……、そうですね……、最初だけ涙が出るくらい傷みますがちょっと耐えてくださいね。すぐに痛みは引くと思うので」


「ま、まぁ始まって間もない状況なので、なんとか頑張ってみますとも……」


「それではグラセーヌ姉様をよろしくお願いします。それと優也様には、内緒で簡単に雷撃(おしおき)で殺されないように、念のため〈雷無効〉を付与しておきますね。あっ、あと言い忘れておりました。先ほどの蘇生の件ですが、姉様から離れないでください。自動蘇生が有効になるのは平地で姉様が視認できる範囲までです。距離にすると……約100~150mくらいでしょうか。それ以上離れて死んでしまった場合、その時点で肉体は加速的に腐敗・消滅し、魂は永遠に暗闇の牢を彷徨うことになりますので、ご注意ください」


「なんか今、さらっと怖いこと言いませんでした?」


「ええと……たぶん大丈夫です、そんなことないです。要するに離れなければ大丈夫ですから……。では、そろそろ転送しますね」


 にっこり笑って見送る彼女は真に女神そのものであった。何が原因でそうなったのかは分からないが、グラセーヌも妹を見習ってほしいもんだ。いや……未だトラウマから抜け出せていないのかもしれないな。グラセーヌに会ったら少し別の方法でアプローチしてみるか。そう思うことにした優也であった。


 グルティーヌは詠唱を続けると、神々しい光りに包まれる。そして、その手を優也にかざした。


 眩しい光と共に自身の身体が包まれると、真っ白な視界は一気に暗転し、眠りに落ちるように全身の力が抜け、意識が遠のいていった。


――――

――

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