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復活と酒

 発光した孤島を遠目に眺めてた村人たちは橋に集まっていた。そして、復活した『ティーア』に皆驚きを隠せなかった。


 村人たちは口々に「お帰り『ティーア』、おめでとう『ルウス』!」と言い、二人を励ました。

 そしてすぐさま村人たちは一斉にグラセーヌの方を振り向き、群がるように(すが)り付くと口々に懇願してのである。


「嫁を! 俺の嫁も!!」「ちょっと私が先よ! 夫を私の夫を!!!」「なんだと! 俺が先だっつってんだろうが!!」「くたばれこのジジイ!!」「んだと、コラァ!! やんのかこのデブ!!!」「ちょっ! 俺が!」……


 もみくちゃにされているグラセーヌは村人の抑制を振りほどこうと村人に言った。

「いたっ、いたたた!!! ちょ、ちょっと、引っ張らないでよ…… 髪が……髪が!! 引っ張るなつってんだろうが!!!」


 なんとか振り切ったグラセーヌは一息つくと腰に手を当てながら説教しはじめた。

「だいたい、そうそう復活できると思わないでよ!! 人々が死ぬのは至極当然の事であって、そうそう生き返らせられるものではないのよ。死んだら魂は天に変えるのが当然なのよ。訳があってそのこ二人はそうかもしれないけど、彼らだけは異例なの分かった!? それにそんなに復活させたら私が『ディオニュソス』にぶち殺されるか、永久封印よ!! まったくもう……! それにあなたたちの魂だってとうの昔に昇天……、してるわよ!!」


 説教している途中である1人の背後の何かに目が合ったが、グラセーヌは不意に目をそらすことにした。


 壊れていた長老『ルウス』とドライアドとして転生した『ティーア』は皆をなだめた。

「まぁまぁ……、そもそも生き返れるとは思っていたなかったし、今生の別れと思っていたことがたまたま復活につながっただけ……本来はこんなことはあってはいけなかったんじゃ……」

「わ、私だって現世に未練は……あったけどこうして復活できるとは思っていなかったのよ……」


「しょうがないわね……ちょっとまってなさい! 」そう言うとグラセーヌは身の丈ほどもある近く大岩の前に立った。


 「像でも建てて、テキトーに誤魔化してやろうじゃないのよ!」

 思わずグラセーヌの心の声が漏れた。


 そして、腰を落とし中腰になると、親指を内にして構えて一呼吸置いた。そして……


「フンッ!! シャァァァァァ!!!」


 ――ドガガガガ……


 その瞬間、岩肌を吹き飛ばしながら彫り上がっていく……はずだった。が、なぜか最初に着手したのは「眉毛」だった。しかも左右非対称で、3回ほどやり直す羽目になった。挙げ句やり直す度に首が吹っ飛んでいくのだ。


「うーん……なんか違うのよねぇ。もうちょい太眉……いや、最近の流行は細眉だっけ……?」


 村人たちは、何をしているのかとざわざわし始めたが、当の本人はひたすら「顔のパーツ」に時間をかけている。眉→まぶた→頬骨→鼻筋→顎と、ディテールに無駄なこだわりが感じられた。


「神像って言ったらほら、こう、神秘的な切れ長の目よね? なんかこう、憂いを帯びた感じ……ほら優也、見てなさいよ」


 優也はというと、「なぜにここまでこだわるんだ……」と、やや呆れながら見守っていた。


 その後も、腹筋は「6パックがトレンド」と言いながら精密に彫り込み、腰蓑の長さとフリンジの数で10分以上悩む始末。


「誰もそんな細部まで見ないって……」


「なに言ってんのよ! こういうのは“神は細部に宿る”って言うでしょうが!」


 最終的には“顔が整っていない像”どころか、変に彫り込まれすぎて“変な方向に整いすぎた像”となり、肝心の『神々しさ』が一切感じられない仕上がりに。そして胸板には『でぃおにゅそす』と彫られている。


 完成した像を前に、グラセーヌは両手を腰に当てて得意げに言った。


「ふふん、完璧ね! これぞ芸術!」


 村人たちは『短足で珍妙な像』を見るなり何の言葉も出なかった。一人の村人がようやく声を出したかと思ったら「お……おお……?」などという、若干あきれ果てたような声で、ぽつりと呟く程度であった。


 グラセーヌは汗をぬぐいながら村人たちに言った。

「いいこと、この像こと『再生の神ディオニュソス』よ、私では無理かもしれないけどこの像に祈れば良くしてくれるかもしれ……」


 でぃおにゅそす像の頭をパシパシと叩きながらグラセーヌが言いかけたその時、天が暗くなり像を中心に冷たい空気が流れ込むと、そこを目掛けて雷が落ちたのだ。

 グラセーヌのなんとも言えない断末魔の叫び声と共に、像の表面は薄皮を剥いたみたいにパリパリと弾け飛びその石片がグラセーヌに幾つか刺さった。

 そして、煙の中から像は切れ長の目から見られる鋭い眼光、長い髪は腰ほどまであり、筋骨隆々のボディにはハーネスとパンツが着せられていた像が出現したのである。ただ、残念ながら足の短さだけは修正できないようであった。


 ゆっくりと起き上がるグラセーヌは天に向かって叫んだ。

「大体あんた、こんなイケメンじゃないでしょうが!!! 天界にいるからって何でもできると思ってんじゃないわよ!!」


 グラセーヌが叫ぶと新生・ディオニュソス像の目が光った。そして次の瞬間グラセーヌの目に向かって光線を発射したのだ。


「目があぁあぁぁぁぁぁあ!!」

 光線が直撃し転げまわるグラセーヌを他所にディオニュソス像から声が聞こえた。


「……まったくグラセーヌと言ったら、勝手に人様の仕事を奪うわ、下劣な像を作るわ、懲りぬヤツよのう……まぁ人地(じんち)に落ちてしまうほど堕落してしまっていたのだから無理もないか、フハハハハハハ……」


「くっ……、なにも言い返せないわ……! でも百歩譲ってこれだけは言わせて!」


「なんだ? 申して見よグラセーヌ」


「なんでハーネスとパンツなの……」


「それはだな、筋肉を美しく見せつつ胸元も隠せる万能装備だからだ」


「ただの変態じゃ……」


「くらえ!! 威眼光線(アイ・ビーム)!!」


「甘いわ!! 完全反射油膜リフレクト・オイル・バリア!!」


 光線はグラセーヌのバリアによりそのまま跳ね返すと、ディオニュソス像の耳を簡単に貫いた。


「俺の像がああああぁ!!」


「ばかねぇ、そう何度も同じ手は食わないわよ」


「ちっ、まぁよい。おい、そこの村人らよ。折角の出会いだ、この我が像の手にある器に酒を供えよ。さすれば主達の願い聞いてやっても良いぞ。ただし復活はダメだ。それ以外の何かで返そうではないか」


「ははぁ! ディオニュソス様!!」


「さて、我は疲れたのでこの像を離れるとしよう。ではまた会おうぞ! フハハハハハ!」


 像から(もや)が抜けだすのを確認すると、吐き捨てるように愚痴を言った。


「やっと帰ったわね……、まったくもう……クソニュソスが居ると碌なことにならないんだk……」


 発光する石像に気付いた優也がグラセーヌに声をかけようとしたが既に遅かった。

「あっ、グラセーヌ危な……」


 ――アバアアァァァァァァァァアア!!!!


 突然グラセーヌから悲痛な叫び声が発せられた。


 光線はグラセーヌの後頭部にぶち当たってはいたが、それが貫通することは無かった。まぁ目にぶち当たっても平気でいられるのだから当然といえば当然なのだろう。だが痛みは感じているようで両手で頭部を押さえながら転げまわっていた。


「クソがアァァァ!!!」


「フハハハハハハハハハハ……」


 憤慨し悶絶するグラセーヌを他所に、ディオニュソスの笑い声が辺りに響き渡ると、ようやく静けさが戻っていった。


「あいたたた……、まったくあんな像作るんじゃなかったわ……、って言うかなんで降臨してきてんのよ、まったくもう……」


「そういやグラセーヌ、ディオニュソスは酒って言ってたけど、酒なんてあるの?」

 優也はふと気になった。こちらの世界に来てまだそれほど経っていないが、文明レベルで何処までの調味料が存在、発展しているのか全てを把握している訳ではないのだ。


「わたしはこのあたりの事全然知らないけど、酒なんてあるの? ルウス?」


「ありますぞ、我がウェアウルフ族に伝わる秘蔵の酒がありますぞ、本来月明かりの日にしか出さんのじゃが特別に見せてやろう」


 突然の酒の登場に驚きを隠せない優也であった。もしここで酒が手に入るようであれば、グラセーヌの食えるマヨネーズが造り放題……ということになる。優也は恐る恐るルウスに訊いてみることにした。

「えっ、ど、どうやって……それを……」


「ほら、森に山ブドウが()っておりますじゃろ? あれをひたすら踏んで作るのじゃ。ほらそこの若いの、優也さんに見せておやり」



「村長殿、今持ってきます」


 ひと際元気のいい村人が納屋から小さい樽を持ってくると、蓋を開け優也に見せた。中には紫色の液体とブドウともいうべきワインに似た独特の発酵した匂い、つまりアルコール臭が漂っていた。中身をよく確認すると、毛や埃といったものもいくつか目についてしまった。有毛族だから仕方のないことかもしれないが、この後の工程を考えるともう少し衛生的であってほしいと思った。


「う、うーん……基本工程は同じそうだが、もう少し衛生的だと良いんだけどな……」


「自分もその葡萄酒とやらを作成したいのだが、納屋とヤマブドウを借りてもいいかな?」


 優也はルウスに自分も同様の葡萄酒を作りたいと申し出ると、ルウスは快く快諾してくれた。


「良いですぞ、こんなにもしてもらったんじゃ好きに使ってくれ、若いのも連れて行ってこき使ってやってくれ」


「ありがとう村長、じゃあちょっと借りるよ」

 優也はそう言うと、グラセーヌと若い衆を連れヤマブドウのある納屋へと向かった。


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