食の代価(リライト済)
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ここはエルドレスト村。現在は優也たちの仮拠点が作られている。そんな中、洞窟探査から無事帰ってこられた優也たちは食料調査に勤しんでいた。
「うーん……うーん……、痛いよ優也……ぽんぽんが痛いよぉ……」
帰ってきたグラセーヌは激しい腹痛に喘いでいた。寄生虫より食欲が勝ったらしい。本人曰く「そんな生物、わたしの胃袋にかかれば楽勝よ!!」と豪語していたが、このザマである。なにより、寄生虫を取ることもせず、ほぼ飲み物のように生イカを食いまくった結果であった。
特に生食は注意して処置しないと危険だ。これはもちろん種類にもよるのだが寄生虫が入っていないイカもいる。通常、寄生虫は目視確認で取り除く方法と、特定条件下で死滅させる方法の二種類がある。
寄生虫を死滅させる手段としては、一度一定温度まで下げ冷凍し最低でも1日以上経ってから解凍するというのと、それとは別に一定電圧をかけることで、死滅させる方法があるという。
「かつて聞いたことがある……。電気を与え寄生虫を抹殺する方法……、つまり一度お仕置きすれば治ると言うことだ……、やってみるか、お仕置き!」
小屋で鞄を整理している優也は、グラセーヌの方を向いて訊いた。
「や……やるの……あれ?」
「俺だって何もしてないのにお仕置きとか、やりたくないんだよ。とは言えだ、このまま放置しても苦しみ続けるだけだろうし、他に方法が思い当たらん、どうする?」
「わ……わかったわよ……、背に腹は代えられないから、やってちょうだい!」
「わかった、ちょっと待ってて」
そう言って優也が祈りを捧げると、グラセーヌの身体の周りに結界が発生していく。そして雷撃が結界を伝いグラセーヌの肌に伝っていくと、結界は激しく明滅を続けた。
――ギャアァァァァ……
優也たちの居る小屋からは白い光りが漏れ、中から聞こえる悲痛な叫び声は村一帯に響き渡った。
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――バァン!
「グラセーヌ様、大丈夫でございますか!」
イカを持ったハウゼンが入ってきた。
「は、ハウゼンね……、ゴホッ……。ち、ちょっと寄生虫とやり合ってだけよ……辛うじて大丈夫……最近慣れてきたし……」
「ご……、ご無事で何よりでございます……、それはそうと優也様、スルメの作り方を教えていただきたく……」
「で、できたのね、スルメ!!! はやく!! 早くこの胃袋に納めないと!!!」
グラセーヌは目を輝かせ復活した。
「まだ、出来てないよこれからだよ! まだ始まってもいないよ!!」
優也はグラセーヌをなだめつつ、ハウゼンに製法を伝えた。わたを抜きをし下処理をしたのち、塩水に浸し天日干し。そして、風通しの良い場所で1週間程度乾燥させる。このように一週間ほどでスルメが完成する。
こうして、限界まで水分を飛ばしたスルメは、長期保存に向くため、干し肉同様、冒険に必要な貴重な食料となり得るのである。ちなみにアニサキスは乾燥によって死滅しているためそういった問題も皆無、次いで言うとうま味成分もそれなりにあり、粉末にして調味料の代わりや、細かく切って食材に使用もできる素晴らしい食材である。
「承知しました。優也様ただちに村のものを集めて作ってまいります」
そう言い残すなりハウゼンは颯爽とその場を去った。
「ハウゼンも忙しいわねぇ……、復興したり、下ごしらえしたり、教育したり……」
「ほらほら、グラセーヌも頑張らないと。痛いの治まったんだから、また発酵部屋で頑張って貰わないと……」
「ええぇ……、またあそこに行くのぉ……、臭いし辛いし暇なんですけど……」
「とはいえ、グラセーヌに出来る仕事と言えば発酵くらいしかないわけで……、ってそういえば」
「そういえば何よ」
「麦があるだろ……。酒……作れるかな……」
「ええぇ……、わたしお酒あんまし好きじゃ無いのよね……。面倒くさい工程なんでしょ、作ったところでわたし飲まないし……。まぁ、知り合いの『ディオニュソス』なら泣いて喜ぶから、献上目当てで作るくらいしかないわね……とは言えあいつに酒与えても碌な事しかしないし、酒なんて作ってもねぇ……」
「ほほぅ……、それがマヨネーズの材料、『酢』になるのに要らないと……? あーあ、酢が作れるのになぁ……、ちゃんとしたマヨネーズ作れるのになぁ、もったいないなぁ……、かといって、俺の出すマヨネーズは摂取すると後が大変だし、残念ですなぁ……」
――!
「本当に作れるの!? 信じて良いの!?」
「まぁ簡単に言うと、米とか麦、トウモロコシとか果実とかのデンプンを発酵させて酒を造るんだけど、その行程の最後に酢があるのよ、そして酒は酢を作るための通り道と言うわけよ、グラセーヌの力で発酵さえ促進できれば、それなりに時間はかからないはず」
「ほほぅ……、それは手伝わざるを得ませんなぁ……」
「まぁ、それには準備も道具も必要だから、今すぐって訳にもいかないけど、その時が来たら手伝ってもらうよ。だから今は発酵部屋で頑張ってね」
「しかたがないなぁ……、ちゃんと呼ぶのよ! 忘れたら承知しないんだから!!」
「わかった、わかった……。こりゃあ頑張って樽やらなにやら作って貰わないといけないな……また、大仕事になりそうだわ……」
こうして優也の酒造りならぬ酢作りが始まろうとしていた……。
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