イカ探し 前編(リライト済?)
――――
――
そして翌日……、神殿跡地に集合ということで、グラセーヌ、シルク、ハウゼン、そして優也が集まった。ハウゼンの案内で洞窟内の地底湖に行くというので、廃油を利用した松明を幾つか準備した。
この時、グラセーヌの出した食事に向かないものを使おうとしたが、金属や不純物等が多く含まれており、燃焼させると黒煙が発生、視界を遮ったり人体に影響を及ぼすので、今の所全く使用できない油として貯蔵されるだけの存在となっている。
「さて、ハウゼン。そういう訳で大変申し訳ないんだが、そのイカが居ると言われる場所まで案内してくれないか」
「承知しました、優也様!! こちらございます!」
「ちょっ、目の前じゃないか……!」
崩れた神殿の裏に水が溜まっていたが、それが洞窟の一部とは気づきもしなかった。こちらは村の入り口側で流れている水とは異なり、その貯まっている水場の周囲にわずかに白い粉のような結晶が付着していた。優也はその水の縁についている結晶を指で掬って舐めてみることにした。
――これは……確かに塩だ……だが、付着しているのはすごく微量だ……
優也はその手で水を掬うと、ゆっくりと口に含み、意を決して飲んでみた。
〈水 99.1 %、塩分0.9 %、塩分ほか主な構成要素の割合は、塩化ナトリウム77.9%、塩化マグネシウム9.6%、硫酸マグネシウム……〉
鑑定結果が脳内に響いた、相変わらずうるさい。ほっとけば惑星の誕生日までわかるんじゃないかと毎度毎度良くもまぁ喋ってくる。だが、鑑定によると確かに塩分は含まれているようであったがすごく薄く、海水の塩分濃度3.4%にはとても届かなかった。
「ここの水には少し塩分が含まれているようだが、おそらく他と混ざりあって濃度が落ちていると思うんだ。この水の源水ってどこら辺からきているかわかる?」
「この崩れた石壁の先にある洞窟がその源水かと思われます。中には地底湖があり、その脇を抜けてきたのが我々でございます。その時に、発光するイカを見たのです。ただ、少し道が険しく滑落してなくなってしまうものも数名おりました」
ハウゼンは火打石を使い松明に明かりを灯す、油分をたっぷり含めんだ麻布はパチパチと燃え辺りを照らした。そして洞窟の中へと足を進めると、優也たちもその後に続くように入っていった。
「かなり危険だな……、おーいグラセーヌ大丈夫かー!?」
後ろを振り向きグラセーヌに声をかけた。案の定狭い部分に腹が支えており、頑張って腹を引っ込めようとするがなかなか通れず、やっとの思いで通り抜けたと思えば、次は胸が支えたりと大変そうであった。
「ハァハァ……。な、なんでこんなに狭いのよ……体形に合わない洞窟作るんじゃないわよ……」
「いやいや、まずグラセーヌが洞窟に体型を合わせろよ。それにイカ食べたいって言ったのはグラセーヌなんだから今回ばかりは頑張ってくれよ……」
「毎回毎回頑張ってるわよ。毎日毎日肥料を作ったり肥料を作ったりと大変なのよ。ただ寝っ転がって、手や脚を突っ込んでるだけじゃなく、虚空を見つめたり、天井のシミや大気中のほこりの数を数えたりしてやり過ごさないと発狂するのよ!」
発酵部屋はある意味グラセーヌの監禁部屋に近い。だが彼女がいないと肥料の発酵は急ピッチで進められず、また植物の生長を早める肥料も製造できない。辛いがこれはグラセーヌにしか出来ない重要な仕事であり、日課であった。
「た、たしかにそれは大変そうだな……。俺だったら、たぶん2日やったら逃げ出しそうだわ……」
「そ、そうでしょ……。こっちの身にもなって欲しいわよまったく……」
「わ、わたしも、頑張ってるよ!!」
「そうですな、シルク殿には建築資材の切断の他に、おもちゃ作りで大いに役立っておりますぞ、先日村の子どものためにと、積み木を作ったりしてくれましたっけ、そのせいか、細かい魔法の扱いにも随分と長けてきまして、おかげで複雑な形状にも切断できるようになったのですよ」
「こ、これも優也たちのお陰。い、今だから言えるけど優也たちに出会えてなかったら、たぶんずっと家に引きこもってた。でもこうして活躍の場を与えられて、すごく幸せなんです……」
「でも、本当によかったな……シルク……。これも、“一応” グラセーヌのお陰だよ」
「“一応”ってのか引っかかるわね……」
「って、それはそうとハウゼン、この洞窟はここからだとどれくらいだろう?」
薄暗く何も見えない洞窟など経験したことがない。ましてや奥に進むなど経験したことがない。個人的には結構進んだつもりであったが、彼にとってはまだ進んだうちには入らないようであった。ハウゼンは顎に手を当て、松明の火に視線を向けると口を開いた。
「まだ、入ってそれほど進んでおりませぬから、ここからですと1時間程度でしょうか。それとこの先、地底湖に近づくほど足元が苔で滑りやすくなっております故、注意してください。あと、滑落すると本当に危ないので、なるべく自分の後ろを歩くようにしてください」
「結構遠いな……すまないな、ハウゼン。危険な役目になってしまって」
「いいんです、傲慢だった昔と違い今は皆の役に立ちたいのです、私が……」
ハウゼンは言葉を言いかけたところで、その足元が崩落、落ちかけるハウゼンに対し、とっさに手を伸ばす優也。なんとかハウゼンの手を掴むことに成功したが、――心配そうに駆け寄るグラセーヌの体重が加わると、その地面一帯が崩落し4人は闇の底へと飲み込まれていった。
――――
――




