出立の日(リライト済)
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翌日、出発の日。まだ日は出ていないが、窓から見える空はうっすらと明るんできていた。
優也とグラセーヌはケインの所で床を共にしていたが、グラセーヌは村に来た当日、2台あったベッドのうち1台破壊してくれたらしいので床に。ケインは優也と入れ替わるようにベッドで、優也はグラセーヌと同様に床に寝ていた。
「うへ~。だるい……、動きたくない……でもおいしいもの食べたい……動きたくない……でもおいしいもの食べたい……」
バタバタと足を動かしているグラセーヌはブツブツ言いながらうなだれていた。脚を動かす度に木の床は、今にも壊れそうなくらい悲痛な声を上げている。
「――ふあぁぁぁ……。ぜんっぜん寝られた気がしなかった……イノシシに押しつぶされる夢とか、岩が振ってくる夢とかろくな夢しか見れなかったわ……」
「……その夢は、優也がベッドに寝て、俺が床に寝ているときに見た気がするな……」
ケインはうな垂れた様子で起きてきた。グラセーヌの寝相が悪いのか時折、脚を乗せられるわ蹴っ飛ばされるわでその時は散々であったという。それが今の優也の身にも同じように降りかかっていた。
ろくに休めた気はしなかった優也は、床から起き上がり出立の身支度をしていると、ギシギシという木の軋む音が歩幅、歩調を優也の感覚器官に伝え、何故だかカーミラとハーゲン、それとシルクが入ってくるというのが分かった。
「お……おはようごいざいます……」
眠そうに眼をこすりながら朝の挨拶をするシルクであった。
「はっはっは。久しぶりに腕が鳴るわい」
「『腕が鳴るわい』じゃないでしょ……。ぶっ殺して血祭りにするのは女神様たちなのよ!」
「なんだか物騒な言葉が聞こえてきましたが、殺るというより、懲らしめるという方向性ですので……、さすがに血祭にするのはちょっと……」
「とはいえ、ぶっ飛ばすのは優也の役目なんだけどね。神が自ら鉄槌を下すのは世界の理に反するのよ」
「えっ!?」
「優也がやるのよ」
「えっえっ!?」
「ワタシサポート、ユウヤツッコム」
「剣すらまともに振れない人間があいつらと戦えるとは思えませんが……」
「ダイジョウブ、ワタシナントカスル」
「しゃべり方がカタコトなのが気になるけど大丈夫なんでしょうね……」
「大丈夫よ、この前の一件から優也とはリンクしているから、優也は思い切って敵に突っ込んで、危険を察知したときには、私が遠隔で優也の身体を直接操作するから大丈夫よ。神を信じなさい」
「えええ……、とりあえず信じますけど危なくなったら、ホントにちゃんと援護してくださいね」
「まかせなさいな! あっ。シルクちゃんはそんな訳で後方支援だから、前に出てボッコするとかないから安心してね、後ろに控えてて私の合図で適当にぶっ放ししててくれれば良いだけだから」
「えっ……ボッコしなくて、い……いいんですか。わ……わかりました神様……」
「うーん……、神様じゃなくていいわ、お姉ちゃんって呼んで。なんだか貴方を見ていると妹のグルティーヌを思い出すのよ。だから『お姉ちゃん』で良いわ」
「わかりました……、お……お姉ちゃん!」
「よしよし、それでいいわ。さて、準備も整ったし乗り込むわよ」
「よし、まかせとけ。カーミラは村の警護を、ケインは森の根城が辛うじて見えるところまで案内してやってくれ。俺はいつでも出れるよう準備をしておく」
「わかったよハーゲン、あの辺は俺じゃないと分かりづらいし、まぁお前より俺の方が目が良いからな」
一同はケインの家を後にすると、ハーゲンの用意してある荷車に乗り込んだ。奥からシルク、優也、ケインとグラセーヌの順に乗り、カーミラは荷車に鍋や調理道具がぶら下がっている革袋を載せ終えると、シルクに話しかけていた。
「二人とも頼むわよ。あとこれ……、一応なんとかかき集めた数日分の食料と、調理道具とちょっとした調味料ね。あとシルク……、この『転位石のペンダント』……これは絶対に離しちゃ駄目よ、女神は別に良いけど貴方は大切に私たちの娘。だから何が中でも離しちゃ駄目よ。分かったわね」
「いましれっと神に対して不敬な言動が聞こえたのですが」
グラセーヌはカーミラの方を振り向くと指を鳴らし始め、そんなカーミラはグラセーヌから視線を反らした。
「き、気のせいよ女神様」
「ま、まぁ……民を守るのも神の勤めって言うしわたしが居るからには大丈夫でしょ。大丈夫よシルクちゃん、わたしと優也の目が黒いうちは貴方には指一本たりとも触れさせないわ」
「俺もどこまで出来るか分からないけど、頑張ってシルクを守るから安心してくれ」
「う……うん。よろしく……おじちゃん……」
「おじちゃんかぁ……。まぁ……そんなに若くも無いですけどね……、まぁいいや。じゃあ頼むよハーゲン馬車を出してくれ」
「おうよ! まかせとけ!」
「頼むわよ!! みんな!」
こうしてカーミラに見送られた一行は村を後にした。
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