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女神との出会い(リライト済)

前作は中途半端な状態で停滞してしまいましたが、体調も気持ち的にも戻ってきたため執筆していきたいと思います。当面はこちらに注力して執筆することとなります。実生活と仕事の合間に執筆していきますので、更新ペースは概ね一週間に3~4話程度といった感じです。他のサイトには浮気せずこちら一本のみでの執筆です。

つたない文章で書かせていただきますが、楽しんで貰えたら幸いです。

 ――初|出勤の朝


 いつもとは違ういつもの早朝、春の柔らかな光がビル群の間に差し込み、街を静かに照らしている。

 塩海(えんみ)優也ゆうやは目覚ましの音に目を覚まし、いつものように布団から体を起こした。

 少し遅い28歳の社会人である。それまで働く気が無かった訳ではない、夢を追い求め都会へ出てきたものの、生活するのに手一杯だったのである。調味料の高騰……、それが彼を苦しめていた。即日即金のバイトで大量の調味料を買う日々。それらがいよいよ備蓄でき、心も身体も安定した。そして、憧れの企業からの人材募集。なんとかこぎつけ目的の企業への内定をもらう。そして今日が彼にとって特別な日。初出勤の日である。


 優也はいつものように炊きたての白米を茶碗に装い、食塩を少々ふりかけると、箸で軽く混ぜ合わせ、赤い蓋の小瓶を取り出し、少しきつめにうまみ調味料を振りかける。このとき、かき混ぜてはならない。白米を舌に乗せたとき、そのうまみ調味料の結晶を直接味わうことが出来なくなるためである。そうして軽くうまみ調味料を振りかけると、そのまま口へと運ぶ。静かな室内にはジャリジャリと小気味よい音が響き渡る。器にはネギの入ったインスタント味噌汁があり、たっぷりと湯を入れる。味噌が完全に溶けるくらい念入りにかき混ぜると、おもむろにうまみ調味料を瓶の半分程度を入れ、それを完全に溶けないよう軽くかき混ぜ、口に入れる。味噌汁・白米・味噌汁・白米……、これが彼の毎日の食事風景ある。そうして軽く朝食を済ませた裕也は、スーツとネクタイを整え鏡の前に立つ。


「今日から憧れの販売営業か……!」

 少し緊張した様子で自分に語りかける。


 彼の心の中は、うまみ調味料の販路拡大と販売促進を担う営業職という、輝かしい一歩を踏み出せたこと。たくさんのお客様にこの調味料の素晴らしさを知ってもらうこと。そして待ち遠しい昼食の食事の時間、できたてのうまみ調味料に囲まれながら、うまみ調味料を振りかけた白米を食べる……。想像するだけでよだれが抑えられない、そういった思いでいっぱいであった。


 靴を履き会社へと向かう途中、ふと鞄が気になった。入れておいたはずの調味料が僅かしかないのに気がつく。浮かれていたせいなのか日課である調味料の補充という重大な事を怠っていた。今から取りに帰っても到底間に合う時刻では無い。いてもたっても居られなかった優也は、辺りを見回すと最寄りのコンビニエンスストアへと足を進ませることにした。


 店内に入ると、眩しくもなくうっすら明るい照明がいつものように向かい入れてくれた。このコンビニチェーンは大抵どこも同じレイアウトである。入り口を入って左、アイスが陳列してあるワゴンの脇に調味料コーナーがあるハズである。が――、あろうことか、このコンビニでは『うまみ調味料』を取り扱っていなかった。いや……、それが存在した痕跡はあった。その棚は重要な一部分が欠落してあるしていたのである。少なくとも優也にとっては……だが。


「くっ……、家に帰れば備蓄があるのに……」


 肩を落し、何も買わずにコンビニを後にした優也は、歩きながら思いだした。内ポケットに詰め替え用『うまみ調味料』が忍ばせてあるじゃないか……と。万一遭難しても、これがあれば数日は耐えられるようにと、入れておいた代物である。念のため確認しようと、手を伸ばしたその時であった。前から幾人もの若者が談笑しながら近づいて来る……そのすれ違いざまであった。肩がぶつかりよろけた拍子、そのとき手に持っていた小袋は手から離れてしまっていた。落下する小袋をなんとか掴もうとしたが、それは叶わなかった。気がつくと足下には点検中のマンホールが開いており、脚が吸い込まれていった。まるで遊園地の絶叫マシンに乗っているような感覚に襲われると、視界は徐々に低くなり、そして視界は完全な暗闇に覆われたのである。


――――

――


 「俺は……、俺は、一体何を……」


 何故だか徹夜明けの気怠い朝から目が覚めたような、そんなぼんやりしたとした感覚であった。


 身体に痛みはなかった。落ちた、という事だけは徐々に理解していた。だが天を見上げても、光はなかった。暗闇の中、自身の身体をまさぐると、服装はスーツを着たままのようであった。背広とワイシャツ……、ネクタイやズボン、革靴までそのままのようであった。だが、腕は……なんだかスースーすると思ったら袖が丸ごと無く、どうやら肩の部分で千切れているようであった。心を落ち着けようと、内ポケットに忍ばせてあった小袋を探すがそれもまた無く、暗闇を手探りで探しても残念ながら見つかることはなかった。


 ひとまずここから出ようと考え、壁と梯子を探した。手を前に出し暗闇の中をゆっくりと進むが、壁どころかその気配すら感じなかった。天も地も、右も左も分からぬ状況であったが、意外にも身体は軽く感じられた。20代いや10代前半の身体が動かせていたような感覚であった。


 そのまま暗闇を進み歩き出すと、突然階段を踏み外したような感覚に襲われ、先ほど体験したような落下している錯覚に陥った。

 慌てて目を瞑り、なんとも言えない嫌な感覚に耐えた。暫くすると身体がその感覚に慣れ、再び落ち着きを取り戻した。落下は途中で止まったのかすら分からなかった。身体は不思議と重力が感じられ、気がつけば見たことも無い薄暗い部屋に立っていたのである。


 目を凝らし周囲を見回すと、そこは少し大きめの部屋のようであった。黒く重そうなカーテンは壁に垂れ下がっており、外の光は全く見えない。部屋の奥には、四角いテレビのようなものがあり、そこから発せられる淡い光は、乱雑に置かれているあらゆる物、そしてクッションに横たわる女性を煌々と照らしていた。薄暗くて距離感がつかめないので良く分からないが、身長は自分と同じか、少し大きく感じた。


 佇む優也であったが、何故だか“近づかなければいけない”という衝動の駆られ、引き寄せられるように近づいていった。


 その女性との距離は僅か1メートル。それでも優也に気付いていないのか、彼女はその巨体を横にひねると、乱雑に置いてあるマヨネーズのようなものに手を伸ばし、皿に入れる。続けざまにどこかで見たような見慣れた蓋の赤い小瓶(うまみ調味料)をふりかけ、隣の赤と緑の円筒形の小瓶を開けた。その粉……唐辛子の類いであろうか、それも続けて振りかけていた。そして大瓶の液体を少々……、それらを指でブレンドし始め、ディップソース作り始めた。


 それらを混ぜ合わせた指をしゃぶると、何も無い空間へと手を伸ばす。空間には漆黒の穴が出現し、そから1つの袋を取り出した。乾いた音を立て袋を破く。そして中から黄色い板状のものを取り出すと、作ったばかりのディップソース満遍なく漬けた。滴るソースと板状の何かは、その怠惰な口へと幾度となく運ばれていった。その姿その光景にはまるで現実感はなく、何とも言えぬ異様な光景であった。


 優也の存在にようやく気づいたのか、彼女は目を細めながら、気怠そうに口を開いた。

「……あんた。なに見てんのよ」


 優也は、突然の彼女の言葉に、不安げに返答した。

「す、すいません……、気がついたらここに……」


「んん? ああ……? あぁ……。ようこそ。私は『グルベルト・グラセーヌ』ここを司る女神よ」

 そう言うと、手をかざし何も無い空間に板状のコンソールが浮かび上がらせた。淡く発光しているコンソールに、そのふくよかな手を乗せると、目を細め、じっと優也の目を見た。

塩海(えんみ)……、優也ゆうやくんだっけ。年齢は28か……、まだまだ若いのにもったいない……」


 頬杖を付き、片手で怠そうにコンソールを動かしていた。そしてあくび混じりの怠そうな口調であった。


「ここはね、現世と異世界の狭間。ある一定の法則で亡くなった、または亡くなりそうな人が来る所よ。なんだか久しぶり見る客人だけど、今忙しいから適当に処理するわ……」


「ちょ、ちょっとまって下さい、俺死んじゃったんですか!?」


「少し違うけど似たようなもんね。でもどちらかというと死に近い感じかしら。まぁ簡単に言うと、志半ば現世で天寿を全うできなかった一部の民たちは、こうして様々な神のもとに集められ、別の人生を選択できるってことになってるのよ。まぁすぐ終わるからそこに座ってちょっとまってなさい」


 グラセーヌは、面倒そうに肩をすくめながら続けた。


 何かするわけでも、何か出来るわけでも無く、優也は目の前の女性を観察していた。女神と謳っている割には、上下はただのスウェット、腕が衣服が掛かるのが嫌なのか露出しており、ノースリーブのスウェットであった。四角い光源はその容姿を強く照らすが、見れば見るほどその怠惰な身体の輪郭を強調している。

 髪はボサボサ、一本に縛った後、髪留めで上に束ねて纏めている。顔は二重顎で太ましいが、整っていない訳ではない。眉は少し太く、目は垂れ目である。眠そうな黄色い瞳は鈍く輝き少し眠そうであった。二の腕は、腕を動かす度にぷよぷよと揺れている。

 体格は全体的に丸く、胸と腹のサイズが同等に見えるという奇跡の体型に近い。白いスウェットの背中には可愛らしい黒いウサギが一匹、それとその下には『KILL ME』と描かれ、上から赤い×印で消されてした。


 観察を続ける優也は少し離れて様子を見ているが、その言動や行動は徐々に優也を不安へと追いやった。


「ったくもう面倒くさい。久しぶり過ぎて殆ど忘れたわよ。たしか、こうやってこうで、あれがそれで……」


 強い舌打ちが聞こえる。


「ちっ! くそ、面倒だからこれと……これと、えーっと……、これでいいかなぁ……。あっ、マイナス値……、んもー。面倒だからとりあえず確定でいいいわ。良いことにする! って、なんなのこの警告!!! こんなの無視でいいわよ!!」


 不穏な言葉を交え、半ばキレながらコンソールを指で動かしている。


 優也はそんな彼女の様子に何もできず、ただただ眺めていた。そうして待つこと数十分、グラセーヌはようやく落ち着きを取り戻した。


「……はぁ……やっとできた……」


 一呼吸しすると、軽く円を描くように手を振った。

 グラセーヌの周囲には、どこからともなく風が巻き起こる。手からはキラキラと光る細かい粒子が発生すると、それは気流と合わさり、辺り一面に広がった。そして、それらが優也の体を中心に渦巻く。神々しく光った塵に混じり埃と蓋の開いた調味料も一緒に集まろうとしていた。


「ゴホッ、ゴホッ!!」


 優也は思わず咳払いをし、顔にまとわりつく塵や埃、調味料を払いのける。粒子達は回転する速度を徐々に強く加速させると、耳や鼻、口から入ろうとしていた。必死に口と鼻、そして目を押さえる優也であったが、抗うことすら適わず無情にも優也の体内へと取り込まれようとしている。


 グラセーヌは気にせずそのまま詠唱を続けると、こちらに手を向け光を放った。転げ回る優也の身体は発光し、程なくして術式が完成した。


 ようやく解放された優也は、自身の身体が内より熱く火照っていくのを感じた。未知なる力が優也の身体に宿った瞬間である。


「――ゴホッゴホッ!!」


「はぁ――、どっこいしょ。ちょっと違うのも混じったみたいだけど、何はともあれ、これで君は異世界に行く準備が整ったってこと」


「君の足元にある穴から異世界に行けるから、とっとと落ちて適当にやってらっしゃい」


 グラセーヌの視線の先、自分がいる直ぐ脇の床はにはぽっかりと穴が空いており、下には白い空間が広がっていた。

 慌てる優也は穴から少し離れて、グラセーヌに聞いた。


「ちょ、ちょっと待って下さい。なんかこう、スキルの説明とか目的みたいなのは無いんですか!?」


「そんな怠い説明なんてないわよ。大体が混沌としている世界に行って、魔王? とか 危険勢力? とか戦って、適当によろしくやってるわよ。それに久しぶりだったからパラメーターもスキルも忘れちゃって私もよく分からないの」


「分からない……って、それだけ……。ですか」


「はいはい、行った行った。キミなら多分大丈夫だから頑張ってきて」


 グラセーヌは手をひらひらとさせながら捲し立て、一刻も早くこの場から去ってほしいと言わんばかりの態度であった。


 半ば納得のいかない優也であったが、仕方なく穴へと向かった。恐る恐る頭を突っ込み覗き込むと、右も左も真っ白の空間が延々と広がっており、それ以外は何も見えない。手を入れてみるが、特に反応は無い。脚を膝ほどまで入れてみたが何か当たるわけでもなく、ただぶらぶらと脚が泳いでいるだけであった。


 ――実際にこういうのがあるとは思っていなかった。


 アニメやら小説やらでそういうのは度々見ていた、が、実際にこれほどいい加減な異世界転移は未だかつて見たことが無かった。幸先不安だけどなんとか頑張ってみるか。そう言って、自分に言い聞かせ奮い立たせようとした。しかしあろうことか、優也は高所恐怖症であった。下に何かあるわけでも無くただ飛び降りろというのは正直不安である。そして思考を反らし始める。


「そういや、こちらにも『うまみ調味料』……あるのかな。せめて帰れ……いや、どうなんだろうか……」


「あははははははは……」


 後ろから乾いた笑いが響いた。先ほどの光源の前に横たわり何かを観てするようであった。時折床を激しく叩き、爆笑している。


 なかなか降りれない優也を見かねたのか、ゴミやら飲み終わった空き缶などが飛んでくる。


「ほらほら、そこはゴミ箱も兼ねてるんだからとっとと降りなさいよ!」


 グラセーヌが優也に怒号を浴びせたその瞬間であった。部屋はガタガタと激しく揺れ、飲みかけのコップは転倒、薄暗い部屋が一面真っ白になったかと思うと、野太く威厳のある声が響いた。

 声の主は上位神であろうか。突然グラセーヌを叱りつけた。


「このバカ娘が!!!」


「ちょっ、グラールお父様! なんで急に!!」

 突然起き上がり慌てふためくグラセーヌと穴から落ちそうになる優也。慌てて木枠の端に掴まりなんとか難を逃れた。


「最近仕事に……人生に疲れたからと言って、お主に割り振る仕事量を百万分の1にしてやったにも関わらず、調子が悪いというから暫く黙ってみていれば、グラセーヌ!! 貴様の仕事があまりにも雑すぎる!」


「わ……私だって頑張ってるんですよ、それにこれからちゃんとそこの人間に説明しようと……」


 うつむくグラセーヌに、先ほどより酷い揺れがあたりを襲った。まるで部屋自体が顔を真っ赤にして激怒しているようであった。


「馬鹿者が! こんな事だからいつまで経っても、おまえの管轄している地域は、いつもいつも混沌として、民も貧困に喘いでおるのだろうが。もう我慢ならん!! 今よりここは妹のグラティーヌに任せることにした。お前もそこの人間と一緒に行って、その怠けた体と世界をどうにかしてこい!」


「お父様! 勘弁してください出来心だったんです! ごめんなさい!」


「出来心も糞も無いわ!」


 再び激しく揺れる部屋に、脳内に直接囁いてくる声が優也に聞こえてきた。


 ――すまんが優也よ、この馬鹿娘のために私からスキルをいくつかオマケするから頼まれてくれ。異世界に行って人々を苦しめている根源を絶って、争いを鎮めてほしいのだ。全て――とは言わんが娘がある程度、精神的にも成長するまでで良いのだ、頼んだぞ。さすれば貴殿の願いを叶えてやろう。


 そういって唐突に始まった親子げんかに戸惑いながらも、優也は強制的に女神と共に地に堕ちることになったのだ。


 真っ白に光っている部屋は、無数の黒いヒビが入ると崩壊が始まり、床と共に崩れ去った。その中には優也とグラセーヌ、そしてグラセーヌの家財道具と共に異世界へと落ちていった。


 落ちゆく感覚の中、優也は自分がこれから何が待っているのか、全く見当がつかなかった。ただ、目の前に広がる真っ白な世界と、隣で悲鳴を上げ泣き叫ぶグラセーヌ、飲みかけのコーラ、散乱するポテチやお菓子、テーブルや書庫、大型TVなども一緒に落下しているようであった。


 こうして二人は真っ白な空間の底へと消えていくのであった。


――――

――

----

読み返したら誤字も表現も、設定もあまりにも酷かったので、以降リライトしてきます……;

エピソードタイトルの横に(リライト済)を付けていく予定で、これはこのep.01から始まり、ep.13~20付近まで行います。以前よりはマシになったと思います……たぶん。そのためリライト済が付いていないエピソードは、勢いで書いているところもあり、多少読みづらいかも知れませんのでご了承ください。

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