酒場での一件1
「今日も誰にも話を聞いてもらえなかった……」
夕暮れに染まった街を軽武装の赤髪の美人が肩を落として歩いている。
私、シルヴィアは諸事情により実家を飛び出してこの街に来た。
だが、一週間経っても誰ともパーティーを組めていない。
なぜ誰も話を聞いてくれないのだろう?
女騎士であるはずの私はどのパーティーにおいてもそこそこ役に立つと思うのだが?
前衛において剣を使うもよし、盾を用いて防御に徹するもよし、または殿を務めるもよしの三拍子そろった騎士だぞ!
なのになんで、
「……誰も仲間になってくれないんだ……」
頭を抱えながら石畳を闊歩していき目的の場所まで足を運ぶ。
酒場だ。
冒険者ギルドでは誰にも相手にされなかったが、ここなら酒の席ということもあって誰か一人くらい話を聞いてくれるだろう。
失敗してもヤケ酒をすればいいだけだ。
淡い期待に胸を膨らませて両開きのドアを開ける。
ギィィという音がよく似合ういかにも年季の入った木製のドアを開けて入店したとたん何かにつまずいた。
「……なんだ?」
まったく誰だドアの前にモノを置いたのは。
出鼻を挫いたものを確認するために振り返ると、そこに置いてあったのは体格のいい男だった。
男は冒険者か荒くれ者かというような姿をしている。
「ただの酔っ払いか?」
こんなところで潰れるなんて行儀の悪い。
潰れるなら店の隅っこにしてほしい。
まったく、しょうがないな。
「騎士たるもの人がやらないようなことを率先してやるべきだな」
他の人が私みたいにつまずかないように男をドアの横に移動しておく。
それにしてもこの男を介抱しようとする者が一人もいないのはなぜだ?
冒険者ならパーティーメンバーの一人くらいいてもおかしくない。
荒くれ者でも知り合いの一人くらいいてもおかしくない。
誰も介抱しないということは一人で飲みに来たのだろうか?
どっちにしてもこの男を放置しておくことは出来ないので知り合いを探すべきだ。
店内を見渡そうと振り返りざまに一歩踏み出して、……またもつまづいた。
「今度はなんだ!?」
再び足元を見ると今度は女冒険者が倒れている。
……なぜ?
人間で二回もつまずくなんて流石におかしい。
なにがあった?
事態を把握するために店内を見回すと、視界に変な光景が映り込んだ。
「人間を山のように積み上げて、その上で酒を浴びるように飲んでいる小さな女の子?」
どういう状況?
さっぱり意味が分からない。
飲んでもいないのに酔っぱらって夢でも見ているのだろうか?
そう思ってしまうほど現実離れした光景だ。
状況は全く掴めないが、騎士としてこのままにしておくのはよろしくない。
人山に近づき頂上で鎮座している少女に話しかける。
「私の名はシルヴィア。未成年がお酒を飲むのは犯罪だ!」
名乗りをあげて少女に注意する。