転移そして酒クズへ3
「スッキリした!」
先ほどまでの気持ち悪さが嘘のように今の気分はとても晴れやかだ。
頭上に広がる雲ひとつない空のように、頬を撫でる優しい風のように爽やかな気分。
私が吐瀉物をまき散らした宿屋は追い出された。
店主に激怒されて二度と来るなと出禁を言い渡された。
でも、気分がいい。
吐いたものが美人さんだけでなく自分にも被害を及ぼし酸っぱい匂いが私からしているが、それでも気持ち悪さや頭の痛みから解放されたから気分がとてもいい。
だが、その気持ちのいい気分を壊しかねない負のオーラをまとっている存在が後ろにいる。
「うぅ、ぐす、あうぅぅぅ」
振り返ると美しい顔が涙や鼻水で台無しになっている赤髪の美人さんが歩いてついてきている。
「えっとぉ、そのぉ、ごめんなさい。悪気はなかったの。ただちょっと初めの経験で制御が出来なかったから……」
二日酔いなんて人生初だ!
酒飲みが誰でも一度は通る道だ!!
これで私も酒飲みの仲間入りだ!!!
などと気分が高揚しそうになるところをこらえて、自分がしてしまった過ちを認め美人さんに誠心誠意、手を合わせて頭を下げる。
「本当にごめんなさい!汚いものをかけてしまって。それに覚えていないけど……たぶん昨日も何かやらかしたよね!重ねてごめんなさい!!」
「……いいんだ。君の介抱をかって出たのは私なのだから、騎士たるもの自分の責任は自分で負う。うぅぅぅ……」
涙目になりながらそんなことを言われても、罪悪感がすごい。
それにしてもさっきから街の住人や通り過ぎる人たちから変な視線を向けられている。
酸っぱい匂いをさせながら歩いている二人組の女子はすごく目立つのだろう。
しかも片方は泣いているし。
気分は良かったのだが、だいぶ居心地が悪い。
「えっとぉ、美人さんとりあえずどこかに移動しましょうか?お風呂に入って服を着替えたいですし」
「……ぐすっ。それなら私が借りている宿屋がいい。近くに銭湯もあるから」
「ついていってもいいですか?」
汚してしまってこんなことを言うのは心苦しいが、私も出来れば着替えたい。
ついでにお風呂も入りたい。
たぶん昨日はお風呂に入っていないだろうから。
「当然だろう?私たちはパーティーなのだから」
パーティー?
さっきもそんなこと言っていたような?
「……ごめんなさい。覚えていません」
さっきから謝ってばかりいるな私。
ほんと昨日の私はいったい何をやらかしたんだ。
こんな美人さんと知り合いになったんだから覚えておけよ。
「そういえばそうだったな。私の方もだいぶ落ち着いてきたし、道すがら昨日ことを話そう」
最後に鼻をかむと美人さんは泣きはらした赤い目で昨夜のことを語り始める。