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ツバメ村

 文崇はドロレスに教えられ、近くの村へとやって来た。

 村に入ると誰もがタクシーを遠巻きに眺める。

 文崇はその様子に不審に思った。

 タクシーから降りて、近くの男に尋ねる。

 彼は不審者を見るような眼で文崇を見ていたが、断る事は無かった。

 「あのドロレスさんに聞いてツバメ村にやって来たのですが」

 そう言われて、ようやく男は安堵した表情になる。

 「あぁ、あんた、ドロレスさんの知り合いか?」

 「はい。昨日、この世界に連れて来られまして」

 「この世界って・・・あぁ、ドロレスさん、異世界に行って来たのか」

 「それで連れて来られたのですが・・・」

 「それは災難だったね」

 「はぁ・・・それで、暫くの間、こちらで生活しないといけないみたいで」

 「それで、この村を紹介されたのか。解った。村長さんの家に連れて行こう」

 男に連れられて、文崇は村長の家に向かった。

 村長の家は酒蔵をやっているらしく、かなり大きな屋敷だった。

 扉の呼び鈴を鳴らすと、扉を使用人が開ける。

 「あぁ、村長さんはいらっしゃるか?」

 男の問い掛けに使用人の少女は答える。

 「はい。いらっしゃいます。どういったご用件で?」

 「こちらの渡邊さんって言う人がドロレスさんに別の世界から連れて来られてしまったようで」

 「別の世界から?」

 「あぁ、ドロレスさんが異世界に遊びに行ったみたいでね。巻き込まれたみたいだ」

 「それは大変ですね。すると10年後にしか帰れないんじゃ?」

 「そうなるわな。だから、こっちで生活したいそうだが・・・」

 「解りました。ご主人様に話してみます」

 「そうしてくれ」

 使用人がその場から離れて数分後に再びにやって来た。

 「応接室にどうぞ」

 使用人に連れられて文崇達は応接室へと向かう。

 質素ながら、それなりに調度品のある部屋に通され、文崇達は椅子に腰掛ける。

 すると使用人に連れられて、一人の老齢の男がやって来た。

 「私が村長のアルマイトです」

 村長が挨拶をすると文崇達も立ち上がり、会釈をする。

 「あの、初めまして、渡邊文崇と申します」

 文崇を見た村長は少し驚く。

 「すいません。オークかと思いまして・・・」

 それを聞いた文崇を連れて来た男が大笑いをする。

 「村長、それは思っても口に出しては悪いですぜ」

 文崇は何の事だかわからない感じにキョトンとする。その様子を見て、男は説明をする。

 「あんたはこっちの世界を知らないから解らないだろうな。この世界には人以外にも亜人と呼ばれる人に近い種族が居てな。オークは豚みたいな顔をした亜人なんだ」

 つまり、文崇の顔は豚みたいだとバカにされたわけだと、文崇は理解して、少しイラつく。

 「すまない。お詫びってわけじゃないが、この村の空き家を好きに使ってくれ。おい、マーサ。彼をあの空き家にお連れしてくれ」

 マーサとは使用人の少女の事だ。彼女はコクリと頷き、外出の準備の為、その場を後にする。

 その間に村長と文崇は雑談をした。

 村長たちは文崇の居た世界に興味津々だった。

 文崇の世界の事はドロレスに時折、聞いてはいるが、彼女はそもそも、飲んだくれて帰って来るので、あまりアテになる事が聞けないそうだ。

 文崇もこの世界に関して、色々と知る事が出来た。

 魔法が当たり前の世界。

 亜人も魔獣も悪魔だって、存在する世界。

 文化的には中世ヨーロッパ程度。

 科学の発展もその程度で、ドロレスから文崇の世界の科学は聞いているが、あまりにも違いが大きすぎて、夢物語だとして、切り捨てている。

 事実、魔法が文化、生活の主体となっているため、科学を発展させる事は歴史的に希薄のようだ。

 当然だろう。村人ですら、火を点けるにも水を出すにも魔法を使うのだから。

 魔法は生まれた時には自然と使えるらしい。ただし、使い方を学ばないと、左程の効果は発揮されない。魔法は呪文だったり、魔法陣だったり、儀式だったりと合わせることで効果を強くする事が出来るそうだ。因みに文崇も魔法を使ってみようとしたが、少しも出る事は無かった。

 マーサの外出する準備が出来たので、文崇は村長達と別れて、マーサと外出した。

 文崇はタクシーを置きっぱなしにするのに抵抗があったので、マーサを後部座席に乗せて、案内されながら行く事にした。

 初めてタクシーに乗るマーサはかなり緊張していた。

 文崇は馬車のような物だと伝えたが、それでも馬の牽かない馬車はマーサの知識には無く、かなり不安そうな顔をしている。

 文崇がアクセルを踏むとタクシーは走り出す。エンジン音がしないので、常にEVモードのような不思議な感じに文崇もなかなか慣れない。

 村の少し外れにある空き家へと到着した。

 空き家は元は農家だったらしく、納屋がある。それは車庫として使えそうな感じだった。

 「裏には小川が流れており、水も問題ありませんよ」

 マーサは家の紹介をしてくれる。水の問題は文崇には大きい。

 何故なら、魔法で水が生み出されるため、この村には井戸が存在しないのだ。

 無論、魔法も無尽ではないので、井戸という存在はあるのだが、それを掘る労力を掛けるなら、魔法で水を産み出した方が良いし、近くに川があるならば、そこから汲めば良いとなる。

 魔法の使えない文崇にとってはとにかく飲料水の確保は重要であった。

 だが、問題はそれだけではない。火を起こすのも原始的な方法に頼るしかない。

 つまり、文崇はいきなり原始生活を強いられているわけである。

 台所を見て、文崇はその事実に愕然として、へたり込んだ。

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