<1> 付喪神、異世界に転移する
ここはいつでも美しい桜の景色を見ることができた。一面桜が咲き乱れ、どこまでも広がっている。濃紺色の空には雲はなく、金色に輝く満月がひとつ。そして、月光に照らされた満開の桜は、淡く発光しているかのように夜の空間に浮かび上がって見えた。
風が吹くと桜の木から花びらがはらはらと舞い散っていくが、どれだけ散っても木々から花がなくなることはなかった。散った花びらもまた、地面に落ちると自然と消えてなくなり、地面には一面に薄らと積もる程度を保っている。それは永遠にその景色を形づくるようであった。
そして耳に聞こえてくるのは、優しく吹き抜ける風の音と揺れる桜の枝の音だけ。それ以外のものはここには存在していない。ここはそういう不思議な空間なのである。
「絶景かな、絶景かな」
遠くに見える桜色の山まで一望できる桜の大木の一枝に、雪花は座って景色を眺めていた。
その桜は枝までどっしりと太く、まるでこの桜の園の王であるかのような存在感である。他の桜の木を寄せ付けないかのように開けた原っぱに1本だけ生えていた。「お待たせ、雪花。御神酒持ってきたよ」
瞬きをする間に雪花の隣に姿を現したのは花天月地だった。ここは雪花と花天月地のお気に入りの場所であった。
先ほどから「絶景、絶景」と感嘆している雪花は、嗜んでいる酒のせいで白い肌がほんのりと色づいている。
雪花は普段から白を基調とした衣装をまとっており、今日も袴姿で手がちょうど隠れる長さの白いマントを身につけていた。白のマントの裏地は藍で染めてある。紺色の生地に白銀色と藍色の混ざった糸で雪花の模様が刺繍されていた。マントがひるがえると光沢のある絹糸で縫われた雪花が目につく粋な技巧が施されていた。
今も杯を持ち上げるたびに藍の裏地が見え隠れし、そこから雪花が浮かんで見えた。
そしてそこに薄桃色に染まった白い肌とうっとりした表情で桜と月を眺める雪花の姿は、まるで桜の精霊のような儚い美しさを醸していた。
「雪花、もう一献」
「ありがとう、花天月地」
竹で作られた片口酒器を雪花に差し出す花天月地に、雪花は杯を持ち上げた。
「花天月地の笹酒は甘露でつい呑みすぎてしまうね」
「ふふ、『竹林』の掛け軸のおかげね。彼女の竹はとても青々としていて香りがいいのよ。酒器に合うと思って、私の桜一振りと交換したの」
「掛け軸同士でそういう交換ができるんだね」
「ええ。ほんの少しなら絵同士で交換なんてよくやっていることなのよ」
「そうか、それは便利でいいね。我みたいな刀では、交換するものがないからねえ。鍔を交換してもいいけれど、今の鍔は気に入っているからねえ。鞘は型があるから難しいし、なかなか交換できるものがないな」
「『雪花』は、鍔も鞘も美しいから取り換えちゃダメよ」
「花天月地の絵の美しさの方が換えは利かないさ」
雪花は杯に満たされた酒を口に運んだ。杯を持つその手は、男性にしては華奢でいて、女性にしては大きくしっかりしていた。
「ここの美しさは実物の桜にはない。描き手の魂が感じられる。その魂の気配が心地良いんだ」
酒気を帯びた感嘆まじりの声は、滑らかで少し低めだった。
「うふふ、ありがとう」
嬉しそうに笑みを零す花天月地は、真っ赤な振り袖で口元を隠した。そして見た目が8歳くらいの幼女は鈴を鳴らすように笑った。肩と目の上で切り揃えた艶やかな黒髪は、笑うたびにサラサラと揺れる。
深紅の絹地に牡丹をあしらった振り袖と蝶の刺繍で彩られた黒い長帯姿は禿を思わせた。切れ長で大きな目の縁と小さな形のいい唇に紅を差し、白い肌と相まって幼い容姿とは似つかわしくない大人びた色香をまとっている。
「私、雪花に褒めてもらうのが一番好き」
「花天月地の絵の中は、いつ来ても美しいよ。いつも我の心を潤してくれる」
「ふふ、私の掛け軸はそれで400年も大事にされてきたんだもの」
花天月地と呼ばれた幼女は、『花天月地』という銘の掛け軸の付喪神であった。
『花天月地』とは、花が美しく枝の先々まで咲き乱れ、月が大地を明るく照らしている風景のことを表す言葉で、見渡す限りの桜の花と月夜が描かれたこの掛け軸の絵は、それを銘にして描かれたものだった。作者は400年ほど前の有名な画師の弟子の作だという。
付喪神となってからは、その絵の中に入ることができ、時折雪花や他の付喪神を誘い入れては花見を楽しんでいた。
そして雪花は、『雪花』という銘を持つ1000年以上前に打たれた太刀の付喪神である。雪の結晶をも斬ったという逸話のある大業物で、すらりと伸びた細身の白い刀身が大変美しいと謳われた一振りだ。切れ味と美術品としての価値を併せ持つため、雪花欲しさに戦が起きたという逸話すらある。
2人は、それぞれに所有者を渡り、受け継がれ、今は天皇の御物として宝物殿に収められていた。
そこはとても清浄な場であったが、日々何の揺らぎもなく時が流れるだけで付喪神たちは暇を持て余していた。
その中で2人は気が合い、よく一緒にいた。話をしたり、宝物殿の中やときどき御所の方にまで散歩に出たり、こうして掛け軸の絵の中に入って花見や月見をして日々の退屈を紛らわしていた。
今日も花天月地に誘われて、絵の中で月夜の桜を肴に一献傾けていたのだが、今夜はそれだけで終わらなかった。
その異変は突如起こった――。
眺めていた満月がぐにゃりと歪んだ。
「あれ?」
花天月地が顔を上げた。そのとき、それまでゆっくりと舞い散っていた桜の花びらが急に上空に舞い上がった。
まるで嵐の前触れのような強風が桜の園を吹き荒らした。桜の花びらは、上空に舞い上がると同じ方向へ向かっていく。
「空に穴――?」
花びらの向かう先に穴が開いている。それは夜空の絵の真ん中を丸く切り取ったような穴だった。
その穴の中は真っ黒で向こう側は見えない。そこへ花びらは吸い込まれて消えていく。
「なんで穴が開いてるの? 私の絵を誰か破いたりしたのかもしれない。どうしよう!」
花天月地が血相を変えた。
花天月地の絵の中は、『絵の中』という空間であって空気もあれば風も吹く。だが、月はいつでも満月で、桜が咲き終えることもなければ、季節が変わることもない。ただ『絵』に描かれた世界が不変に続く世界なのだ。
なのに、今『絵の中』で変化が起きている。風はだんだんと強まり、まるで本物の嵐のようだ。
「きゃあ!」
巻き上がる花びらと強風に息もつけず、雪花と花天月地は袖で顔を覆った。
「雪花! 何これ」
「花天月地、我から離れるな!」
風はますます強くなり、枝から落ちないようにしがみつくのでやっとだった。雪花は花天月地を胸元に抱き寄せた。
「雪花、怖い!」
「大丈夫だ。絶対に離さないっ」
今一度空を見上げると、ぐにゃりと視界が歪んだ。月だけでなく、桜の木々も夜空も歪んで見える。
「な、何なんだ、これは――」
雪花は両手で花天月地を支え、目を細めた。
気持ち悪い……。だが目を閉じたら――何か起きても対処できない。
「――くっ」
歪む視界に平衡感覚が狂わされていく。
まさか花天月地の掛け軸がどこかに運び出されているのではないか――他に何の可能性がある?
理解を超える事態だが、それでも雪花は考えようとした。
急にしがみついていた枝の感覚がなくなり、宙に投げ出されたような感覚に陥った。
――落ちる!
足場を失った途端、視界が暗転した。
――と思った直後、硬い何かに着地した。急な足場にバランスを崩し、雪花は思わず片膝をつく。
視界はいつの間にか明るくなり、桜の花びらが舞い上がるほどの強風もおさまって静かになっていた。そして、空気も変わっていた。
――匂いが違う。ここはどこだ?
これまで桜の香りと少し湿り気の帯びた土の匂いがしていたのに、今は乾いた埃の匂いと何かの香のような薬のような嗅ぎ慣れない匂いがする。
明るさに目が慣れてくると、周囲に人がいることに気づいたが、雪花は先に花天月地の安否を確認した。
強く抱きついた花天月地の温もりに安堵し、形のいい頭を撫でてやる。そして周囲のざわつきに視線を上げた。
そこは見たことのない場所だった。今までいた花天月地の絵の中でもなく、宝物殿でも御所の中でもない。屋内のようだが、見覚えのない石造りの建物だった。
ステンドグラスのはまった大きな窓からは光が差している。
――我たちが絵の中にいたときは、まだ日付が変わる前だったが、もう夜が明けたのか。
周囲には一定の距離を保ったまま複数の人物が、こちらの様子を窺っていた。ちょうど床に描かれた円の外側に沿って立っている。
足元を見ると、自分と花天月地を中心とした円陣が描かれており、その中には見知らぬ文様が複雑に描かれていた。
そして、自分たちのそばに『雪花』と『花天月地』も転がっていた。雪花は、花天月地を抱えたまま、片手で素早く2つの本体を手にとって袖に隠した。
本体がなぜこんなところに無造作に置かれているんだ? これが動かされたらすぐに分かるはずなのに――何が起きているんだ。
足元の円陣に目を落とした。
やはりこれが原因か。これは何らかの呪符のようだな。
足元の文様に似た呪符を描いていた陰陽師が昔いた。雪花の脳裏に浮かんだのは、自分が刀として打たれたばかりの頃に遭遇した陰陽寮の陰陽師と呼ばれる呪い師の姿だった。
その陰陽師は内裏で天皇や大臣に言われて卜占を行ったり、呪符を作成していた。その呪符や儀式で円だの星形だのと一緒に変な文様を描いたものが使われていた。
――あのときの陰陽師と同じ術師の仕業か。
陰陽師の中には、円陣の中に精霊や魂を留める術を使う者が稀にいた。
雪花は、打たれたときには既に付喪神としての魂を成していたため、雪花と銘がついてすぐに顕現していた。
付喪神は、本来長い年月を経た道具などに魂が宿るものであった。花天月地はそれである。
だが雪花の生まれた時代は、濃密な神気を宿した魂が多かった。濃密な神気とは、神や自然の力に満ちた気のことである。
作られる素材の純度やその物の伝承などとなる事象の根源の力が大きく作用されたものが付喪神となる。
特に刀鍛治は神聖なものである。浄化の火と純度の高い玉鋼と清らかな水、そして神がかった状態で打ち込む鍛冶師の魂を込めた刀となれば、それは神寄りの物となる。
雪花は打ち込まれる際にそれらの神気をまとい、精錬された刀だった。打たれた時節が雪の舞い散る冬で、打ち上がった刀をかざしたときに舞い落ちてきた雪が刃にあたり、2つに斬れた。
故に雪の結晶を斬ったという逸話が生まれたのだ。その逸話を聞いて銘をつけたのは陰陽師だった。
当時はその手のいわれは多く存在していた。なので作られてすぐに付喪神として顕現する魂は多かった。
しかし、時代とともに多くの付喪神を宿した物たちが、何らかの理由で破損して魂が消えてしまった。その頃の付喪神は、今では数えるほどしか存在していない。
雪花は改めて周囲の人々の姿を見た。
そこにいる者たちは西洋の衣服を身につけていた。多くは墨色のローブをまとってフードで顔を隠している。 胡散臭いなあ。やはりこの陣で召喚の類のまじないに巻き込まれたか。
「雪花ぁ、ここはどこ? 私の絵の中じゃない」
ずっと雪花の腕の中で大人しくしていた花天月地が不安げに顔を上げていた。雪花は花天月地の頭を撫でながら笑みを浮かべる。
「そうだな。我も知らない場所だ。どうやら何かしらのまじないに巻き込まれたようだ」
「まじない……もしかしてここに『花天月地』も来てる?」
「ああ、我の『雪花』もここにある。『花天月地』は今我が持っている。今は我が持っていた方が安全かもしれないから、状況が落ち着いたときに渡そう。それでいいかい」
「うん、わかった。雪花、『私』を守ってね」
「ああ、わが『雪花』に賭けてキミを守るよ」
雪花がそう言うと、それまで不安で泣きそうな顔をしていた花天月地がキュッと唇を引き締めて周囲に視線を向けた。雪花も視線を向ける。
墨色のフードの者たちは、こちらを見ているか、話し合っているかでそれ以上何かする気配が見られない。小声で何か話しているが、その言葉ははっきりと聞こえてこなかった。
だが、その者たちの背後からは明らかに大きな不安と小さな殺気がうかがえた。聞き慣れた金属音が聞こえてくる。
――人垣の向こうに鎧と武器を身につけた者たちがいる。
雪花も自分の本体である『雪花』の柄を袖の中で握った。
そのとき、墨色のフードをまとった者の中からひとり前に出てきた。そして深々と被っていたフードを払った。
フードの下から出てきたのは鋭い目つきの男だった。男がフードを取ったことに周囲にいた他の墨色のフードたちが慌てだした。
「宰相様、顔を出しては――」
「うるさい。このままでは埒が明かない。ここからは私が執り行う。あなたたちは下がっていてください。――さて、お待たせして申し訳ありません。あの、私の言葉はわかりますか」
「――ああ、わかる。この状況の説明願いたい」
雪花の返事に、周囲がホッと安堵するのがうかがえた。雪花も安堵と困惑がない交ぜで複雑な気持ちだった。
耳に入ってくる言葉は明らかに知らない言語だが、頭ではちゃんと理解できている。これはどういうことか――。
不思議に思っている雪花をよそに男は話を続ける。
「まずは自己紹介をさせてください。私は、クロード・ジャン・ヴァルドゥア。フェルンホルム王国の宰相です」
そう言って会釈する男を雪花は見つめた。よく見れば、中年に差しかかっているが若い頃はさぞ女性にモテたであろう凜々しく整った顔立ちで、灰色がかった水色の瞳でこちらを探るように見つめていた。
「宰相ということは、これは政の類か?」
「それは――」
「私は知らない。こんなおじさん知らない。雪花、御所に帰ろう。ここは嫌」
クロード宰相の言葉を遮って花天月地が駄々をこねだした。雪花のマントに自分の顔を埋めながらクロード宰相を睨む。
花天月地を見た目どおりの幼女と見ているクロード宰相が子供をどうなだめるのかと困り顔になったので、雪花が手で制した。そして花天月地をなだめるように頭を撫でた。
「そうだね。我も御所に戻りたい。でも、ここは我たちのいた国ではないようだ。我たちはまじないの類でここに引き寄せられたらしい」
「だったら、その術師を殺しちゃえば? そしたら術が解けるんじゃない?」
いきなり物騒なことを言い出した花天月地にクロード宰相がギョッとして数歩後退った。
「クロード様、危険です。下がってください!」
それと入れ替わるように甲冑を身につけた兵たちが前に出てきて剣や槍を雪花と花天月地に向けてくる。
それを見た雪花の金色の目が鋭くなる。美しい少女のような面差しが急に研ぎ澄まされた刃物のように鋭い気配をまとった。
「我たちに剣を向けるか。勝手に連れてきて、勝手に殺そうとするか」
少しでも動けば斬られそうな雪花の殺気に兵たちは身動きできなくなる。互いに牽制し続ける双方にクロード宰相が割って入ろうとした。
「ちょっと待ちなさい。勝手な――」
「おい、何をしている」
ところが、その前に張りのある通った声がそれを制した。
その声を聞いたクロード宰相を始め、そこにいた兵たちや墨色のフードの者たちが一斉に声の主に道を開けるように後退して頭を垂れた。人垣の後ろにいた声の主の姿が現れ、その男は軽く手を挙げた。
「よい」
そのひと言で頭を垂れていた者たちが顔を上げるが、視線は下に向けられたままである。
この男は宰相よりも位の高い――そうこの風格は天皇や王の位の者か。
雪花は元いた世界で多くの武将や貴族、果ては天皇までと高貴な位の者たちの手に渡ってきた。なので、人垣を作ってこちらへ歩いてくる男が、高貴な位の者であることは、そのまとう雰囲気からわかった。
その男は、艶やかな黒髪が歩くたびに小さく揺れ、長めの前髪の下に見える瞳はやや垂れ気味で長い睫毛に縁取られて優雅な顔立ちをしている。
だが、そんな見た目とは裏腹に男のまとう圧倒的な存在感は、やはり凡庸な他の者たちとは違っていた。
雪花は咄嗟に花天月地を自分の背後に隠した。
「宰相、説明しろ」
「はい――」
男は、雪花と花天月地の立つ円形の文様の外で立ち止まり、クロード宰相に話を聞いていた。何を話しているのかは小声で聞こえてはこなかった。
雪花は男たちの次の動きに注意した。
あの男は、この場の決定権を持っている。我たちに価値があるのか判断するのはあの男だ。
「――わかった」
男はクロードとの話を終えて、雪花の方へと視線を向けた。そして、数歩進み出て、円形の文様の中へと入ってくる。
「私は、フェルンホルム王国の王太子、エリアース・レクセル・リンダールです。突然このような所に来たことに困惑されたことでしょう」
エリアースと名乗った王太子は、朗らかに笑みを浮かべた。その顔は優美にして気品に満ちていて、雪花の脳裏に『人誑し』という言葉が浮かぶ。
言い得て妙だ、と雪花はふっと笑みを零した。
「少しは話のできる者が現れたと思っていいのかな。我たちはまだ何の説明も受けてはいないのだがね」
「それは失礼しました。こちらも少しばかり混乱してしまっているようで、礼を欠いてしまったようですね。宰相、彼女らを王宮の客間へ案内するように。あなたたちを王宮の方へ案内します。説明もそちらできちんとしましょう」
エリアースの言葉にクロード宰相は一礼してすぐ客間の準備をするように、そばにいた者を走らせた。そして、雪花たちに向き直ると、深々と頭を下げた。
「改めまして、非礼をお許しください。客間の用意ができるまでの間、応接室に案内いたします」
閉ざされていた扉が開き、外の光が入り込んだ室内に雪花は目を細めた。外の様子もわからない状況だったので、外へ出られることに少なからず安堵する。花天月地も眩しそうに目を細めて、その表情が少し柔らいて見えた。
とりあえず今は状況の把握だな。第一に花天月地の身の安全を確保しなくては。それから御所にどうやって戻るかも探らなければ。この者たちが素直に我たちを戻してくれるかは甚だ疑わしいが――。
雪花の前で優雅に微笑む男を胡散臭そうなものを見る目で見つめ、傍らを歩く花天月地の方へ小さく声をかけた。
「花天月地、しばらくこの者たちの出方をみよう」
「御所には帰れそう?」
「それも含めてかな。とにかく情報がほしい。それと『花天月地』はもう少し我が持っていよう。安全とわかったらすぐに返してあげるから、それまで我慢しておくれ。それと『花天月地』のことは、この者たちには絶対に見せてはいけないよ。話しても駄目だからね」
「うん、わかった」
「さあ、ここがどんな世界なのか、お楽しみだ」
「花天月地は楽しくない」
「はは、そう言うな。戻るまでせめて楽しまねばつまらないだろう」
雪花はにやりと口角を上げると、エリアースたちについて外へ出た。