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生きる理由:ロビンソン・クルーソーに憧れた

『202X年8月、地方都市の役所にて爆弾テロ』

明日の地方新聞の一面はこれかもしれないと爆破に巻き込まれた私は思った。


仕事の昼休みと時間給を使って役所に来ていた。勤務先に迷惑をかけると思った。

爆破で人体欠損、流血が酷すぎた。これは死ぬ。間に合わない。

唯一の救いは、未来ある子どもを爆破から庇えた。これは趣味が幸いした。

彼か彼女かわからないこの子がトラウマにならないか不安であるが、そこは簡便して欲しい。



趣味、私はライトノベルが好きだった。特に異世界物は良く好んで読んでいた。


異世界主人公に実際なってみたいとは思わない。飽くまでも読み物として好きだった。

自分で言うのも何だがそこそこ優秀であり、路線から外れなければ人生安泰であった。


私は路線から外れて海に出ることはできない。安定と平穏を手放して冒険はできない。

私は無人島で28年暮らした『ロビンソン・クルーソー』のようにはなれなかった。



だからこそ、ライトノベルの異世界物で心の空白を埋めていた。

手軽に読める物語、違う世界で生きる主人公、自分ならどうするかと空想した。

その関係で現代科学チートで火薬等を知っていた。爆破テロに遭うとは思わなかったが。



「…どの道、私は爆破に巻き込まれていたから…君は気にしないでくれよ」

私は聞こえているかわからないが、泣き出している子どもに言った。


もう目が見えないのだ。ただ現場がパニックになっているのはわかる。

子どもが泣いているのに誰も構える様子ではない。

この子の両親はどこだと思った。だが、もう何もできない。



意識が永遠に失う瞬間、何かが世界を静止した。



「あれま、この子生きているよ」

大鎌を持った漆黒の少女が私の庇った子どもを見てそう言った。

…まて?何故私は目の前の存在を少女と認識できている?そもそも見えている?



「え、お前が庇ったのか?」

少女は私に向かって尋ねているようだ。どうやら思考が読めるようだ。

そうだが、貴方は死神か何かだろうか?私は死んだという仮定で。



「そうそう。私は死神、お前は死んでいる。…ええ、マジで」

少女は困惑した様子で同意した。…死ぬ運命だったのだろうかこの子は。



「死ぬ運命も何も、この子が死んでこの世界は加速するはずだったんだよ。お前に言ってもわからんだろうが」

死神は携帯端末と思われる物を高速でタイピングしてそう言った。

この子がテロで巻き込まれて、反テロ運動が加速したのだろうか。

となるとテロは個人ではなく組織的?まぁ、死神さんの言うとおり判断材料がない。

お偉いさんの子か何かで色々組み合わさって世界大戦となったらなんてのは妄想が過ぎるか。



「そうそう。世界大戦。ここでいうなら核とかバンバン使う奴」

死神は端末を弄り、写真を取るような動作をしている。

私の死体と泣いている子どもを映しているようだ。世界大戦だったらしい。

私の人生設計は完全に破綻していたようだ。まぁ、その前に死ぬ運命だったのだろう。



「……驚かないのな?40億人くらい死んでようやくここの人類は次の段階に進むんだ」

死神は端末を仕舞い込んで、私に話しかけてきた。

私は間接的に40億を救えたのか、それとも進化を阻害したのか気にはなる。

信じられないというか死んでいるのでどちらでも良い。天国や地獄があるのか気にはなる。



「私はアニメとかここでなら続きを見れそうで嬉しい。まぁ、ここの神は怒るだろうな」

死神は私に興味をもったのか話しかけてきた。色々教えてくれるが大丈夫だろうか。

神は人類が増えすぎたと考えているのだろうか。



「無駄に高度な技術はあるのに人類そのものは進化しない歪な時代だぞ。大体の神はこの時代は早めに終わらせたいのさ」

死神は自嘲するように私にそう言った。

私が神からすると大戦犯なのは兎も角、死神さんはそこまで語って大丈夫なのだろうか。



「お前が知ってももう何もできやしない。それに火種は起こしやすい時代だから私からすれば少し延びただけでもある」

死神は気さくに話してくれた。私は子どもを救えただけ良しとした。

未来は碌なことにはならないらしい。私は神のヘイトを買ってしまったようだが。



「……神からすれば知ったことでもないだろうけれども」

死神はそう言うとため息を吐いた。気苦労しているようだ。まるで生前の私である。

とはいえ、私は結局どうなるのだろうか?地獄行きより酷い目に遭うのか。



「善人で信仰深い奴でも地獄に行くやつは行く。……神様の気分次第って奴だ」

死神は私にそう言うと先程の携帯端末を弄り始めた。

私は信心深いわけでもないが、神様の気分次第でどうにでもなるらしい。



「ああ。お前の末路が決まったぞ」

死神は携帯端末を見ながら私に宣告した。私のその後はメール一つで決まるらしい。

いや、まぁ、なんだろう。死神さんと会話ができて嬉しかった。

神様の気分を害したようだが、この時代のアニメが好きならば見れると良いな。



「お前、変わっているって言われない?」

死神はそっぽを向いてしまった。私は人の機微を読み取るのがやや苦手だが。

……今更ながら先立つ不幸を両親に悔いた。ちょっと泣きたくなってきた。



「おせえよ。どのみち、お前は両親も忘れちまうだろうから気にすんな」

死神は辛辣な言葉を吐き捨ててきた。転生という奴だろうか?

地獄以下ならきっと永遠に食肉以下の存在として輪廻するのだろう。



「いや、お前はちょっと違う。偶然とはいえ、善意で世界を救ったわけだ」

死神は転生という言葉は否定せず、私へ言ってきた。

私は善意で動いたのだろうか。ただ単に目の前にいた子どもを庇っただけなのだが。



「この世界は魔法やらそういうのがない。代わりにほぼ全ての運命が決まっている」

死神はこの世界の理を語った。ほぼ全ての運命が決まっている世界。

予定説という神学は知っている。それがこの世界なのだろう。

ただ、ほぼ全てということは多少の偶然の介入の余地はあるということでもある。



「極稀にお前のようなバグはあるが。教材として人気な世界観だ」

死神はそう言って私を指さした。私はそこそこの人生で満足する平凡な男なのだが。

というかこの世界は、正確には近似する世界は教材扱いらしい。とすると死神さんは一体…。



「バグは最初からおかしいので生前に排除するんだが、お前の場合死ぬ瞬間まで運命に従っていた」

死神は淡々と語ってくれた。死神さんはデバッカーなのかもしれない。私は普通の人間である。

だが、好奇心を無理やり抑えていた。平凡な人生で満足しているのに変化が怖いからである。



「まぁ、その通りなんだが。大体の人間は平凡な人生すらまともに送れない口だけさ」

死神は私の臆病さに同意しつつ、一部訂正した。…私はもしもが出来たのだろうか。



「出来ているさ。今、やってみせたじゃないか」

死神はそう言って私が庇った子どもを指し示す。今更ながら女の子のようだ。

不審者として警察に捕まらないか…。死んでいたので問題ないと安堵した。

両親に恩義を返せていない。記憶を失う等色々ぐちゃぐちゃになるのを感じる。



「大丈夫か、こいつ。まぁ、これ以上は説明しても覚えていられるかわからないが…」

死神は私に色々話してくれた。私はそれに納得したかしてないか、これ以上は覚えていない。





月が二つある。それだけで地球とは違う物理法則だとわかる異世界。

五歳の私は恵まれた魔力で力を補って斧で薪割りをしていた。もうすぐ冬である。

前世で散々気にしていた両親の記憶は本当にない。ただ前世の知識だけは幾分残っている。

そして、死神という存在と神は人を進化させたがっているのは覚えている。




私は言葉はわからないが、赤子の頃からなんとなく記憶にあった。

私はなろう系中世ファンタジー世界、戦争の真っ最中に生まれた。

敗戦国の貴族か何かだと思う。断定できないのは言葉を知る前に逃されたからだ。

三歳まではとある貴族の騎士の世話になっていた。だが、流行り病で亡くなってしまった。

結局、私がどこの誰なのか言わずにそのまま亡くなってしまった。


最後の言葉は『申し訳ありません』だった。誰に向けて言ったのかはわからない。


私はその騎士の非嫡出子として扱われた。私以外にも諸事情も語らないでいたらしい。

非嫡出子の私には財産を相続する権利はないが、騎士の遺言により小屋と土地を与えられた。

仮とはいえ父である騎士が誰なのかも教えられていない。恐らく貴族であると思われる。

騎士の両親からは小屋で暮らしている分には構わないが、家の恥だからそこで死ねと言われた。

騎士には嫡子がいるので仕方がない。騎士の妻は私が来る前に既に亡くなっていた。

出ていく最後の日、嫡子からも死ねと言われた。父親を狂わせ、母親を裏切らせた汚れた云々言っていた。

騎士は死ぬ最後の三年間は私に構っていたので恨まれても仕方がない気がする。

ともかく、私は三歳で何か出来たことはなかった。

運命を変えられるとか言っていた死神は前世の私の妄想かもしれない。

生前の騎士は何というか生真面目で一度決めたら融通が効かないように見えた。

その為、生前は無理やり黙らされていた。その鬱憤で死ね死ね言われたと思っている。

なんだかなぁという感じである。騎士の死後は本当に放置されており、今のところ誰も来たことはない。




三歳までは仮にも貴族の屋敷にいたので文字の読み書きは学べた。

今思うと嫡子よりも飲み込みが早すぎたのも疎まれる原因だった気がする。


小屋にはこの時代では高価であろう本が幾つか隠されており、魔法等はそれで学んだ。

スローライフとは聞こえが良いが、魔法無しなら最初の一ヶ月で死んでいる。

騎士の実家からは生きているとも思われていない気がする。

融通の効かない騎士が私の追放先である小屋にあれこれ仕込む発想が出てきたのかは不明である。

というか、普通は三歳で魔法の本を読解できないだろう。誰かの入れ知恵をそのまま流用したのだと私は推測している。亡くなったのでもう何もわからないが。



騎士の実家には三年の恩義がある。スローライフも魔法があれば問題なく出来ている。

土地内での狩りの権利等は追放前に確認していた。偶に来る獲物を狩っている。

魔法と前世の知識を融合し、一人で生きていく分には問題ない程度の蓄えが確保出来ていた。



人は孤独に耐えられないというが、ロビンソン・クルーソーも28年間耐えたのだ。

目標は20歳まで生きることである。今まで放置なので大丈夫だろうと思っている。

不安なのが、良くわからない血筋だという事くらいか。晴耕雨読の生活も悪くはなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

主人公:享年2X歳のサラリーマンが転生した存在。前世に関しては無駄なことは覚えているが肝心なところを覚えていないと思っている。

 転生後は自分が何者であるか困惑していたが、三歳で追放されて世界からいらないもの扱いされた。

 ライトノベルも好きだが、ロビンソン・クルーソー等に憧れを抱いており以外と今の生活が好ましかったりする。

 本人は前世がある分のズルだと認識しているが、この世界の文字の読み書きを三歳でマスターし公文書も読める。

 生まれた瞬間から哲学的な問を常に考えていた為、頭脳が異常発達している。

 小屋に配置された魔導書は魔法使いギルドで保管されている本であり、本来は一個人が所有して良い物ではない。

 本人も魔導書がどこかの物で見られたら不味いとは思っているが、この世界の魔法の価値までは判断しかねている。

 俗世から離れているので常識がわからない。趣味は鍛錬と研究。というかそれくらいしかやれることがない。


騎士:貴族であることは間違いない。敗戦し領土は減ったもののかなり広範な領土を所有している。

 主人公の読み通り愚直な性格で融通が効かない。一度決めたら死んでも口を割らない。

 その分誠実であり、潔癖だと思われていた。その為、主人公の存在が汚点として認識されていることに気がつけなかった。


嫡子:騎士の娘。まだ幼く10歳くらい。現在は隠居した騎士の父に手伝ってもらいながら統治している。

 弟であると思われる存在は無視している。どうなったのかもしらない。死ねと言わんばかりの土地に捨てられたとまでは思っていない。

 一番主人公を見てきた存在であり、化け物と認識している。本人も大概傑物であるのだが、弟の異常さを見てきたので才能に一切慢心していない。

※主人公が運命を変えた最初の人物。本来の運命は…

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