盗賊団との戦い
ざっと周囲を見渡す。
盗賊団の数は十二名。
それぞれに凶悪な武器で武装しており、じわりじわりとジョシュと呼ばれる男を取り囲んでいる。
粗末な服を着た少女はジョシュの背中にしがみついている。
ただでさえ、多勢に無勢なのにジョシュという男はその少女を守りながら戦わないといけない。
不利の上に無謀を上塗りしている。
絶体絶命といっていい状況だ。
あの二人を助けるとして正面から盗賊団にたちむかうのはそれもまた無謀な話だ。そんなのは勇気でなくただの死に急ぎだ。
背後から奇襲し、できるだけ盗賊団の戦力をそぐべきだ。
僕が気配をけしながら、盗賊団の背後にまわりこもうとしたら、あろうことかフランが奇声をあげてあの集団に突撃した。
「ひゃはっー!!」
甲高い奇声を発し、フランはジャンプする。
ジャンプひとつでちょうどジョシュらと盗賊団の間にはいる。
「あははっ!!」
今度は高笑いする。
突然の乱入者にその場は騒然となる。
「なんだ貴様は!!」
さきほどのスキンヘッドの男が剣の切っ先を向け、そう言う。
「お医者さんだよ」
うふっとフランは微笑むと両拳を腰の辺りにあてる。
「肉体強化率は三十パーセントでいいだろう」
フランがそう言うと彼女の肉体に変化がおこる。
驚くべきことにフランの体が一回り大きくなったのだ。
腕や太ももの筋肉はもりあがり、普通でも大きかった胸がさらにボリュームアップする。
ふーっと息をはきだすとフランは地面をけった。
瞬時にスキンヘッドの男に肉薄すると回し蹴りをはなつ。
フランの爪先がスキンヘッドの男の顔面にクリーンヒットする。
男の首はあろうことか百八十度回転し、後ろに倒れた。
続けざまに隣の男の心臓めがけて手刀を繰り出す。
フランの拳は男の胸に吸い込まれる。
ニヤリと笑うとその手刀を引き抜く。
その手にはなんと心臓が握られていた。
それをぐにゃりと握りつぶす。
あわれ自身の心臓を目の前で握りつぶされた男は前のめりに倒れる。
文字通りフランは屈強な盗賊の男二人を瞬殺した。
すさまじい戦いぶりだ。
これが医師とはいえ高レベルの者の戦いなのか。
これは負けていられない。
僕も長剣を抜刀し、敵の一人に切りかかる。
フランの驚愕すべき戦闘を見て、盗賊団は恐慌状態におちいっている。
彼らが冷静さを取り戻す前に戦いを終わらせなければ。
一度目の攻撃は成功した。
フランの戦いを見て、呆然としている一人の男の喉笛に剣を突きつける。
切っ先は見事に頸動脈を切断し、男は血しぶきをあげながら倒れる。
「す、助太刀します!!」
僕は背後のジョシュに声をかける。
彼も突如あらわれた救援に驚愕していた。
しかし、僕たちを味方だと認識した彼はすぐに冷静さを取り戻す。
「助かる」
そう言うと両手の短剣で一人の男を攻撃する。
持っていた槍で防ごうとした男であったが右の短剣で手首を切り落とされ、左の短剣で腹部を切り裂く。
その男は内蔵と血をまきちらしながら、絶命していた。
なかなか見事な戦いぶりだ。
おっと感心していると斧をもった男が突撃してくる。
すさまじいパワーだが単調な攻撃だ。
戦いはいかに冷静になれるかだ。
そう田舎の剣の師匠に教わった。
今、その教え通りに僕は冷静だ。
猪突猛進してくる斧の男をぎりぎりのところで左にかわす。
右足首だけ残して。
男は面白いように僕の足にひっかかり地面にキスをする。
倒れる男の背中に長剣を突き刺す。
長剣は簡単に男の背中につきささる。
おそらく心臓までたっしただろう。
数回けいれんして男は動かなくなった。
僕がふりむくとフランが両手それぞれに男の首をつかみ持ちあげていた。
「バイバイ」
そう言うと手首を捻る。
男たちは首をへしおられ、絶命していた。
僕とフラン、それにジョシュはそれぞれ奮戦し、盗賊団は残り五名ほどになった。
「く、くそ!!」
男の一人が叫ぶと一目散に逃げ出した。
一人逃げ出すと残り全員が逃げ出してしまう。
「殲滅しちゃう?」
目を輝かせてフランは僕に訊く。
「いや、無駄な戦いはよそう」
僕は答える。
実はこの戦いが初陣であったのだ。
帝都の武術大会や模擬戦闘はしたことがあるが実際に人に剣をむけるのははじめてだったのだ。
はじめてにしてはよくやったと我ながら思う。
「ふうん、やさしいのね。そういうところ好きだよ」
フランは言った。
彼女の強化された肉体はもとにもどっていた。
盗賊団を撃破しました。
騎士アルリスLV15
戦闘力134
魔力70
素早さ198
幸運306
おおっやはり実戦をくぐりぬけるとレベルアップは早いな。
盗賊団員らから特技斧使い、脅迫、逃亡を模倣できますがどうしますか?
視界に文字が浮かぶ。
なるほど戦闘に勝利すれば特技を手に入れることができるのか。
これは模倣というスキルはとんでもないものかもしれないぞ。
僕はもちろん「はい」を選択する。
僕のスキルに斧使い、脅迫、逃亡が追加された。
「やあ、たすかったよ。俺はクラウドキラー盗賊団の一人ジョシュだ」
ジョシュは言い、右手を差し出す。
「僕は騎士アルリスといいます」
僕はその右手を握り返す。
「ボクは魔界医師のフランケンシュタイン、よろしくね」
フランはウインクした。