ウロボロスの瞳
次に目覚めたときに最初に目にはいったのはフランの寝顔だった。
かなりの美人なのに顔にはしる十字の縫合後が痛々しい。
いったいどれほどのことがあればこんな傷を負うのだろうか。
この傷は彼女が受けた悲痛な出来事の証拠なのかもしれない。
ほどなくしてフランも目をさます。
しかしどうして彼女は僕のとなりでねているのだろうか。
「いやあ、お目覚めだね。体の調子はどうだい?」
フランが訊く。
そういえばあれほどあった痛みや疲労感がすべて消えている。
なんだか体が軽く感じる。
それに左目にまかれていた包帯がとれている。
ちゃんと両目でものが見える。
「手術は成功のようだね、ふふっ……」
笑顔でフランはベッドからおりるとまた彼女ははだかの上から白衣をはおる。
手術ってなんだ。
フランは僕にいったいなにをほどこしたのだ。
「まあ、これで自分の顔を見てみな」
そう言い、フランは僕に手鏡をわたす。
僕はそれを受けとり、自分の顔を見る。
つぶれたはずの左目がちゃんとなおっている。
あれっ。
左目の眼球をよくみるとなにかおかしい。
僕は鏡を近づけ、自身の左目をよく見る。
そこにはある模様が刻まれていた。
円形になった二匹の蛇がお互いの尻尾を噛み合っている。
「そいつはウロボロスの瞳。魔力がこめられた瞳さ。つぶれた眼球にかわってうめこめさせてもらったよ」
フランが言う。
魔力がこめられた義眼でほんとうの目玉のようにものを見ることができるという。そのほかにもいろいろな効果があるという。
拒否反応をおこすものがおおいが無事に定着してよかったとフランはつけたした。
こんなものをかってに埋め込まれたのは少々腹がたつがもとの視力をとりもどすことができたことは感謝するしかない。
「そいつはこれからの冒険の助けになるさ。ちなみにボクも同じものをいれてるのさ」
そう言いフランは自身の右目をみせる。
その大きな瞳にも円形の二匹の蛇がお互いの尻尾を噛み合っていた。
「ところで君、珍しい特技をもっているね」
フランは言う。
それってあの夢のような世界で女神レスフィーナにいただいた模倣のことだろうか。
「ためしにボクの特技鑑定を君にあげよう」
フランはそういうと突如、僕の頬を両手ではさみブチューとキスをした。
ちょ、ちょっと何をするんだ。
その唇はとんでもなく柔らかくて気持ちよかったが、驚きがその快感をうわまわってしまう。
ほんの数秒、唇をかさねたあと、僕の視界に異変がおこる。
あれっ視界の左下になにか文字と数字がうかんでいる。
数字の横にグラフのようなものが浮かんでいる。
「どうやら特技の移行はスムーズにいったようね」
唇を離し、フランは言う。
魔界医師フランケンシュタインLV72
年齢十八
戦闘力120
魔力789
素早さ223
幸運106
特技魔道医術、魔法薬学、鑑定、肉体強化、縫合術。
僕の視界に綺麗だが縫合後のあるフランの顔の左下にこれらの文字と数字がうかんでいる。
「こ、これは……」
これはいわゆる素質解析ではないか。
高位の神官や魔術師だけが使えるといわれるものだ。
「それはボクの特技鑑定が模倣されたからできるんだよ。昨晩のうちに君の模倣の特技を解析させてもらったからね、それを移行させたんだよ」
フランの説明では任意の相手がスキルの移行を認めるかその相手を倒すかすると対象者からスキルをひとつ移行できるのだという。
そのやりかたはとても簡単で肉体の一部を触れさせればいいとのことであった。
うんっ、なら別にキスする必要なかったのではないか。
「あっそれはボクがただ単にキスしたかっただけ」
フランはペロッと舌をだした。