魔道医師
全身にはしる鈍い痛みを感じ、僕は目をさました。
まぶたをあけて最初に目にはいったのは黒髪の女性であった。
瞳の大きい、美しい女性であったが顔に十字の縫合後があり、それが痛々しい感じがする。
髪は軽くウエーブしていて彼女はそれをかきあげる。
驚いたことにその女性はなんと全裸であった。
かなりスタイルがよくて胸とおしりはきっちり大きいのにお腹だけはきゅっとしまっている。しかしそのスタイル抜群の肉体にも痛々しい縫い後だらけであった。
彼女はすぐとなりに寝転び、僕の顔を見ている。
「やあ、おめざめかい」
かすれた声で彼女は言う。
「君は浜辺にうちあげられて、今までずっと眠っていたんだよ」
と縫合後だらけの女性は言う。
彼女はベッドからでると壁にかけられている白衣を着る。
「かなり体温がさがっていたからね、私が温めてあげたんだよ」
そう言い、彼女は水さしからコップに水をそそぎ、僕にてわたす。
僕はその水は一気にのみほす。
水が乾いた体にしみわたる。
「あ、ありがとうございます。あなたが助けてくれたのですか?」
僕は訊く。
「そうだよ。近くの漁師が浜辺にうちあげられている人がいるってこの診療所にはこんできたんだよ」
縫い後だらけの女性が言う。
この口ぶりからして彼女は医師なのだろうか。
「さあ、ところで君の名前をきかせてくれないかな。三日三晩ずっと看病してあげたボクにさ」
と彼女は言う。
「僕はアルリス。神竜帝国の王都警護騎士団に所属していたんだ」
僕は名乗る。
「でも流刑となった。そうだね」
彼女は言う。
僕はうなづく。
「じゃあ、ほぼボクと同じ境遇だね。まあ、ボクの方が先輩といったところかね。そして君の命の恩人であるボクの名はフランケンシュタイン博士」
そう彼女は名乗る。
この名前は聞いたことがあるぞ。
帝国魔道学院を至上最年少でしかも首席で卒業した人物の名前がフランケンシュタインという名前であったはずだ。
神童とよばれた人物とこのような流されたはてで遭遇するとは。
これも女神レスフィーナの導きだろうか。
あっ、肌身離さずにもっていた女神像はどこだ。
僕があわてているとちらりとフランケンシュタインはベッド横のテーブルをみる。そこにはあの女神像がおかれていた。
僕は安堵のため息をもらす。
今となってはこれが両親から受け継いだ唯一のものになってしまったな。
僕がホッとしているとお腹がぐーとなる。
「うんうん、食欲があることは回復のきざしだね。ちょっとまっていな。食べるものを用意するからね」
そう言い、フランケンシュタインは奥の部屋に消える。
ほどなくして木のトレイに土鍋をのせて彼女は部屋にもどってくる。
ああ、いいにおいがする。
「さあ、おじやを用意したよ。まずは消化のいいものから食べて体力を回復しないとね」
そういい、スプーンのおじやをすくい、ふーふーと息をふきかける。
フランケンシュタインの話ではこのリズモニアでは小麦よりも米をよく食べるのだという。
「ほら、あーん」
僕は彼女の言うとおりそのスプーンのものをぱくりと口にする。
塩加減が絶妙でかなりうまい。
僕は自分で食べようとしたが、うまく体がうごかない。
フランケンシュタインの話では冷たい海で体力をほとんど失い、体の機能がぎりぎりまで落ちているのだという。
溺れ死ななかったのが奇跡だとも言った。
これも運命の女神レスフィーナの加護だろうか。
結局、おじや全部をフランケンシュタインが食べさせてくれた。
「あ、ありがとうございます、フランケンシュタイン博士」
僕は礼を言う。
「いいってことさ。同郷のよしみだしね。ボクの目的のためにも君には死んでほしくないんだよな。あとねフランケンシュタインって呼ばれるのはあんまり好きじゃないんだ。フランってよんでくれたまえ」
フランケンシュタイン博士ことフランはそう言った。
お腹がみたされるとまた眠気がおそってきた。
そういえば左目に包帯がまかれているな。
フランが言うには、岩かなにかにぶつけたようで左目が回復するのはかなり難しいとのことだった。
「さあ、もう一晩眠るといいさ」
フランはボクの顔をそっとなでる。
そうするとどうだろうか瞬時に僕は眠ってしまった。
「つぶれた左目のかわりはボクがつくってあげるよ。今晩はぐっすりと眠るといいさ。ボク特製のお薬をたっぷりといれておいたからね。大丈夫、ぐっすりとねむれるさ」
その言葉を聞いた直後、僕は完全に意識を失った。
三話目です。物語のキーとなるキャラクターが登場しました。
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