運命の女神レスフィーナ
たらふく海水を飲み、意識を失った僕が次に目覚めたとき、そこは真っ白な空間であった。
上下左右、真っ白な空間がどこまでも広がっている。
ああっ、僕は死んだのだ。
あの卑怯なベルゼング子爵たちの罠にはまり、僕はあっけなく死んでしまったのだ。
そう思うと悔しくて悔しくて涙があふれてきた。
やつらに一矢報いたかった。
むざむざと死んでしまうなんて。
「顔をあげなさいアルリスよ」
女性の声がした。
耳に心地よいその声はついさっき、溺れながら聞いた声とまったく同じものだ。
僕はその声の言うとおり、顔をあげる。
そこには息をのむほど美しい女性がたっていた。
背が高く、とても豊かなスタイルをしている。
ぴったりとした白い服を着ていて、胸の深い谷間がはっきりとわかる。
黒い艶のある髪が魅力的だ。
「あ、あなたは……」
僕はこの女性をどこかでみたことがある。
「わたくしは運命と時を司る女神レスフィーナ」
その女性はいい、指で僕の頬に流れる涙をぬぐう。
「め、女神様……」
目の前に我が家が信仰する女神様がいらっしゃるということはやはり僕は死んだのか。
女神レスフィーナは秀麗な顔を左右にふる。
「いいえ、あなたはまだ死んではいません」
と女神は言った。
「じゃあ、ここは?」
僕は訊く。
ではここはとごなのだろうか?
「ここは時空の間。わたくしのわずかな領域といったところでしょうか。騎士アルリスよ、わたくしと契約を結ぶのならば加護を与え、命を助けてあげましょう」
女神レスフィーナは言った。
ここがどこだか説明されてもよくわからなかったが、女神様は僕を助けてくれるという。
十六歳という若さでまだ死にたくない。
僕はお願いしますと女神様に答えた。
でもその契約とはなんだろうか。
「今、わたくしを信仰するものは実は騎士アルリスよ、あなただけなのです。わたくしの神霊力は他の神々と比べてごくわずかなものなのです。そこであなたには生き延びてわたくしを信じるものを増やしてほしいのです。神の力は信じるものに比例します。わたくしがまた女神として復権できるよう尽力するならばあなたの命を助けましょう」
女神レスフィーナは言う。
そういえばレスフィーナの名前は我が家でしか聞いたことがないな。他の家では五女神の誰かを信仰していてな。
レスフィーナを信仰していてたのは我が家だけで、数年前に両親が病死したので僕だけになってしまった。
「わかりました。たすけていただけるなら、僕はなんだってします」
僕は言う。
生き延びて絶対にベルゼングたちに復讐してやるんだ。
「よろしい、では加護をあたえましょう」
そう言うと女神レスフィーナはその白い手を僕にむける。
「さあ、ここに口づけして加護を得なさい」
女神レスフィーナは手の甲を僕に向けていう。
僕は女神様に言われるままに手の甲に口づけする。
すべすべとしてきれいな手であった。
口づけをした次の瞬間、体がなんだか温かいものに包まれる。
「ではこれで女神の加護が与えられました。あなたはその特技模倣を使い生き延びるのです。そして目的をはたしなさい」
女神レスフィーナはそう言った。
その言葉を聞いた次の瞬間にはまた意識を失ったのであった。