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第5話

ずいぶん遅くなりました。

もし、待っていてくださる方がいるならば、ネネーシアをよろしくお願いします。

 さて、王太子妃エリカ・ルルー様は、ネネーシアの言葉を笑顔で受け止めてくれた。

 本来ならば、わざわざ王妃様に茶会を開いてもらい、招かれたネネーシアは、求められている答えを伝えなければならなかったはず。

 王太子妃の美点は、その美しさではなく、その心根にある、とネネーシアは思った。エリカ・ルルーに出会った王太子は幸運だ。ネネーシアは、エリカ・ルルーに愛されている王太子がちょっと羨ましくなった。

 ビクターの婚約破棄騒動はともかく、ネネーシアも人並みに恋愛に憧れがある。

 あるが、少し諦めてもいた。

 だって、ネネーシアの足は動かない。確かに、イケメンパパのおかげで高性能魔道具車椅子があり、移動に不便はない。それでも、ネネーシアの足はハンディだ。この世界でも、前世でも。



 

 向日葵のようなエリカ・ルルーの笑顔を見ながら、ネネーシアはそんなことを思っていた。

 アリステアがそっと娘の頭を撫でた。


「じゃあ、3ヶ月後にまたネネとお茶会をしなくてはね!

 ね、お母様?お義姉様?」


「テティア、あなた、どうせ3ヶ月も我慢できないじゃないの。

 2週間もしないうちにまたネネを呼ぶでしょう」


「だって、ネネは学園にも通っていないし、なかなか会えないんだもの」


「学園といえば…なぜ、通ってもいないネネの噂が学園に流れるのかしら?

 テティア、あなた、何か知らないの?」


「私は今年入ったばかりだから、そんなに情報を掴んでいないけど…

 ネネの噂は、占い姫としてのものがほとんどだったわ。

 あとは…兄様達が卒業してしまっているから、学園にいる高位貴族の中で王族に近しい者として、ビクターが人気があるみたいね。

 私にはどこがいいのか、さっぱり分からないけど」


「そう…

 なぜ、ビクターはネネと婚約しているなんて勘違いをしていたのかしら?

 ネネ?

 あなた、ビクターと会ったことあるかしら?」


「レイゼマン様ですか?

 王妃様のお茶会で一度だけお見かけした気がしますけれど。

 たしか…今回のようにいきなり入っていらしたことがありました」


「その時に勘違いするようなことがあったのかしら…?」




 昔からビクターは、なぜ自分が王族でないのか、それが不満だった。

 父の姉は王妃で、従兄弟は王族。だったら、自分もほとんど王族と言っていいのではないか、そう感じていた。

 叔母である王妃が優しくしてくれたので、王宮にはほとんどフリーパスだった。

 従兄弟である王子二人は、自分より容姿も文武も優れていたが、それは二人が年上だから、優れた教師についているからだ、と思っていた。彼らの歳になれば、自分も同じようにできると思っていた。ただ、そのための努力はあまり好きではなかった。

 叔母が王妃となっているだけで、王族の血筋ではないため、継承権はなかった。

 だが、王族に近しい、王族みたいな者、と曖昧な言い方で自分を表現していた。


 ほとんどの貴族は、12歳から17歳まで学園で学ぶ。

 その入学前の秋の日、ビクターは王妃のお茶会にいつものように顔を出した。

 顔を見せないと、王妃が寂しがるから、と思っていた。

 その日は辺境伯の「車椅子令嬢」がくるらしい、と聞いていた。


「叔母上は、なぜ、『車椅子令嬢』なんかをお茶会に呼んだんだ。

 歩く事もできない令嬢など、結婚もできないだろうに…

 王妃の茶会の品位が下がる。

 一言申し上げねばならないな」


 そう思い、鼻息も荒く王妃の茶会に乗り込んだ。


 ビクターはいつもの様にサロンの扉を侍従に開けさせ、お茶会に参入した。

 ちなみに、ビクターがやってくるのは大抵お茶会であり、従兄弟の王子二人の鍛錬に参入しにきたことはない。


 カテリーナのテーブルまでやってくると、ビクターは王妃にまずは挨拶をした。


「叔母上、ご機嫌伺いに参りました!」


「あら、ビクター。

 つい、先週も来てくれたんではなかった?」


「はい、週に一度は叔母上にお会いしたいのです!」


「あらまあ、嬉しいこと。

 今日は、わたくしの従姉妹のアリステアと令嬢のネネーシアが来てくださっているのよ」


「そうでしたか!

 それは…」


 例の「車椅子令嬢」では…と言葉を続けようとしたビクターは、王妃の隣の夫人を見て息を飲み、さらに隣の令嬢を見て言葉を失った。


 王妃の従姉妹というその方は、流れるプラチナブロンドを優美な形に結い上げ、若葉のような新緑の瞳、伝説のエルフの姫君のような美しい貴婦人だった。その隣の令嬢は、母親と似た面差し、同じ白金の髪を結わないまま下ろした、大きな藍色の瞳の美少女だった。


 …なんて美しいんだ…!

 美しいが、歩けない…憐れな…

 そうか!叔母上は、それを憐れに思って、この席を設けたに違いない!

 この憐れな車椅子令嬢と私を娶せるためか…。

 まあ、歩けなくともこれだけ美しいのであれば、叔母上の意を汲んでもいい。


 そこに思いいたり、ビクターは再び王妃に声をかけた。


「叔母上のお気持ちは分かりました。

 叔母上の意を汲み、引き受けましょう。

 多少の不都合は、私の方でなんとかしましょう」


 そう言って、「では」と来た時と同様に足早に去っていった。

 早く侯爵家に戻り、自分の婚約者は王妃が決めた、と父に伝えなくてはならないからだ。



 そうして、ビクターの主観的には、ネネーシアが婚約者となっていた。

 しかし、もちろん、客観的には、王妃の茶会に礼儀を知らない少年が乱入して、すぐに去って行った、それだけの出来事だった。

 王妃にとっても、ネネーシアにとっても。






 

 

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