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第1話

つい、思いついて書き始めてしまいました。

のんびり車いす美少女ネネーシア。

楽しんでいただければ幸いです。

恋愛要素はゆっくり登場します。

「ネネーシア・ランドクリフ!

 お前との婚約を破棄する!」


 一人の小柄な令嬢を囲んだ若者達の集団が王妃主催のお茶会に乱入し、唐突に声を上げた。

 中心にいるくすんだ金髪の若者は、王妃カテリーナの兄、レイゼマン侯爵の次男ビクター、つまり王妃の甥である。王妃の息子である二人の王子は、帝王教育の甲斐あってか十代半ばにして独立独歩の精神にあふれ、母親の手から離れて久しい。そのせいもあって、王妃は、少し考えの足りないこの甥を可愛がっていた。

 そう、招待されていないお茶会にいきなり現れても笑って許す程度には。


 しかし、このセリフには、王妃も眉を顰めた。


「ビクター。

 いきなり現れて、なにを言い出すのです?」


 優雅にカップを置き、カテリーナは問いかけた。

 ビクターの「婚約破棄」のセリフの意味が分からなかったのである。


「叔母上!

 叔母上も此奴の外見に騙されているのですよ!

 人畜無害なふりをして、その実、悪辣卑劣!

 学園では、私の愛するテレーゼを陰でいじめ抜き、下級貴族と馬鹿にして領地にまで手を出す始末。

 占いと称して不吉な言葉で噂を広め、テレーゼは学園に通えない、と泣いています。

 叔母上の顔を立てて、お情けで婚約を受け入れましたが、もはや我慢の限界です。

 この場で、ネネーシアとの婚約は破棄させてもらいます!」


 鼻息も荒く大声で宣言したビクターの隣には、赤みがかった栗毛の令嬢の姿があり、それが甥のいうテレーゼ某という娘だろうと、カテリーナは見当をつけた。

 

「ねぇ、ビクター?

 あなた、ちょっと考え違いをしてはいない?」


「いいえ!叔母上!

 いくら親愛なる叔母上の取りなしがあったとて、婚約を継続するわけにはいきません。

 私は、ネネーシアとの婚約を破棄し、愛するテレーゼを妻にします。

 これこそが真実の愛!

 どうか、国王陛下にもそのようにお伝えください」


「あのね、いいこと? ビクター…」


「いえ、これ以上この場に留まると、テレーゼが怯えます。

 お茶会を乱しまして、申し訳ありません。

 これにて失礼いたします。

 では!」


 入ってきた時と同様に、ビクター達は突風のようにその場を去っていった。


 王妃主催のお茶会といっても、今日のものは私的な集まりであった。

 王太子である第一王子の妻、隣国の王女エリカ・ルルー、末の王女テティア、王妃の従姉妹ランドクリフ辺境伯夫人アリステア、その娘ネネーシア・ランドクリフがテーブルを囲んでいた。

 貴婦人達は、揃ってビクター達が退場して行った扉を見つめていたが、1番年少のテティア王女が口を開いた。


「ネネ?

 あなた、いつ婚約したの?」


「さあ?

 お母様、わたくし、婚約していたんですの?」


 ネネーシアが隣に座る母親に問いかけた。


「わたくしは聞いていないのですけれど、ジークが決めたのかしら?」


「アリステアに黙ってジークが娘の婚約を決めるわけがないでしょう。

 むしろ、全身全霊で婚約を阻止するでしょうね。

 ビクターは、一体なにを勘違いしているのかしら?

 婚約の話もだけれど、ネネーシアは学園に通ってもいないのに…」


 我慢していたため息を一つつき、カテリーナはこめかみを押さえた。多少考えが甘いと思ってはいたが、あの甥はこれほどまでに愚か者だったのだろうか。カテリーナは、頭痛を我慢しながらビクターに対する評価を下方修正し、改めてネネーシアに向き直った。


「ごめんなさいね、ネネーシア。

 いきなり、謂れもない暴言を受けて、びっくりしたでしょう。

 嫌な思いをさせてしまったわ。

 わたくしが甥だからといってビクターを甘やかしたせいだわ。

 今後は、ビクターへの対応も考え直さなくては…

 何か埋め合わせをさせてちょうだいね」


「カテリーナ様、レイゼマン様は何か思い違いをしてみえるのでしょう。

 わたくしは特に気にしておりません。

 お気遣いは不要ですわ」


 ランドクリフ辺境伯の長女、ネネーシア・ランドクリフは12歳。貴族の娘であれば、その年齢で婚約が決まっているのは珍しくない。そして、ネネーシアは、母親譲りの美貌と白金の髪、垂れ目がちな大きな藍色の瞳の美少女である。しかし、ネネーシアの場合は、少し特殊な事情があった。


 ネネーシアは、生まれた時から大人しく、聞き分けの良い子どもだった。まるで大人の話が理解できているかのように、大きな瞳で両親や乳母、侍女達を見つめ、その声に耳を傾けていた。そんな可愛らしい姫の誕生に辺境伯家は喜びにわいていたが、ある時乳母が気づいた。


 ネネーシアの膝から下が全く動かないことに。


 12歳になった今も、ネネーシアの膝から下は動かない。

 そのため、ネネーシアは、車椅子の令嬢なのである。

 


「ネネ、ネネ、勘違いオトコのことは置いといて、私を見て欲しい。

 デュークがまだか、まだか、とうるさいのだよ。

 私も早く知りたいし…」


 王太子妃エリカ・ルルーが少し頬を染めながら口を開く。隣国の騎士姫であったエリカ・ルルーは、戦場で第一王子デュークと劇的な出会いをし、互いに一目惚れしたという。二人の恋は、戦争を和平に導き、両国を結びつけた、世紀の恋として小説や舞台にもなっている。そんな王太子妃は、ただいま懐妊中であり、このところ何かと話題の占い姫ネネーシアに子どもの性別を占ってもらうために、王妃に茶会を依頼していたのである。



 

   



 

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