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舞は涙にむせび、あえぎながら、吐きだすように言った。


「だけど私は……あの人に相応しくなりたいから……そんな人間になれるように努力したいから……ずっと……ずっとあの人が好きだったから……!」


久松の表情がかすかに強張ったことに、舞は気づかなかった。


「もっとちゃんとした人間にならないと、大人にならないとって、私……」


過呼吸気味になっている舞を見つめ、久松は肩をすくめた。


優しく細い身体を抱きしめ、背中をさすってやる。


その抱擁ほうようは、まるで親が子をあやすようなものだった。


舞が泣きやむのを辛抱強く待って、久松は呟いた。


「そうやって、無理して自分を理想に近づけても意味がないと思うけどね」


温かくて、心地よい。


舞は今、自分が抱いた感情が信じられなかった。困惑が波紋となって心に伝わっていく。


「まずは自分が自己中心的な人間だってことを認めなよ。恋愛なんて所詮しょせんエゴの押しつけあいだし、相手に遠慮していたところで何も始まらないんだからさ」


驚いたように顔を上げた拍子に、舞の頬から久松の膝へと、ぽろりと涙がこぼれた。


久松は人さし指で舞の額をつつき、呆れたように言う。


「男の前で、何でそんなに簡単にぼろぼろ泣くかな。もしかして、一人前に俺のこと誘ってるのかな?舞ちゃんは」


舞はぱっと久松から離れ、慌てて手の甲で目を拭った。


その瞳に覇気はきと光が灯ったのを見て、久松は軽く笑う。


「頑張れとは言わないよ。君は篠宮には全然似合わないからね。それでも、その気持ちが本物だっていうなら、傷ついてぼろぼろになるまで向き合ってみればいい」


自分が何より欲しがっている答えを、久松は決して口にしない。


それが悔しくて、苦しくて――けれども心のどこかで、舞は深く安堵していたのだった。



















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