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08

そのとき久松はまだ、気づいていなかった。


別の席に座っていた客の1人が、彼を射るように(にら)みつけていたことに。


(あおい)さん?どうなさったんですか」


尋ねられ、葵と呼ばれた男性は持っていたグラスをあおり、中身を飲みほす。


地味なグレーのスーツに洒落(しゃれ)っ気のない眼鏡、硬質(こうしつ)な容貌。


軽くゆるめたネクタイや、額にかかった前髪から落ちついた色香が匂い立つ。


「いや、何でもない。少しぼうっとしていた」


「葵さんったら。私の前で他のことを考えるなんて、禁止ですよ」


鈴蘭(すずらん)は柔らかな笑みを浮かべて彼の背をたたく。


葵は適当に返事をしながら、冷ややかな視線を彼に向けて注いでいた。


非の打ちどころのない容姿、しなやかな体躯。

そして瞳の奥に宿る、他者を圧倒し惹きつけてやまない強い輝き。


「四井不動産の、久松か」


まさか、こんなところで会うことになるとはな。


胸の内でくすぶっていた執念の炎が、音を立てて大きく燃えあがる。


葵はいささか力のこもった動作で、手にしていたグラスをテーブルに置く。


溶けかかった氷が、澄んだ物哀しい音を立てて夜に響いていた。

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