表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/292

78

どんな痛烈なののしりが待ち受けているだろうと身を固めたとき、久松はぽつりと問うた。


「君は、どうしていつもそうやって、馬鹿正直でいられるのかな」


静かな口調だった。


呆れたような、それでいて奇妙な哀しみのこもった声だった。


舞は毅然きぜんとこうべを上げて、背筋を伸ばしたまま答える。


「分かりません。これが私ですから。もう変えられないのかも」


したたかに生きていくには、知識も経験も不足しすぎていた。


傷ついても辛くても、人より損をして苦しんでも、他に手段がなかった。


けれど今は心から思える。こんな自分でよかったと。


「それに」


舞は一旦言葉を切ると、胸を張って言った。





「あなたのこと、ちゃんと最低だって言ってあげられるの、私だけだと思うから」





久松は今度こそ目を見開いて絶句ぜっくした。


頭を思い切り殴られたような衝撃に襲われる。


いまだかつてない、強い強い驚きだった。


目の前にいる少女が、別人のようにまぶしく輝いて見える。


彼女の放つ光が、気高くその身を包むのが見えるようだった。


「……面白いこと言うね」


瞳を細めて薄く笑う。


その指先は、かすかに震えていた。


「それって、俺への宣戦布告せんせんふこくと取ってもいいのかな」


久松の挑戦的な台詞に、舞は微塵みじんもひるまず応じた。


「ええ。構いません」


強く美しくなった舞を目の前に、久松はようやく気づいた。


いや、認めざるを得なくなっていた。


自分が大きな間違いを犯していたことに。


逃がしてしまった魚の大きさに。


気づいたと同時に、舞は自分の手の届かないところへ行ってしまう。


驚きと、猛烈な焦燥感。


奥歯に噛みしめながら、久松は精一杯の虚勢きょせいを張った。


「分かったよ。今度会うときは、お互い社会人として、競合相手としてだ。手加減はしないから、そのつもりで」


「望むところです」


舞は透きとおるような微笑みで、凛と受けて立った。


二人を包む空気の色が、時間の流れが、音を立てて変わる。


そんな劇的な瞬間を、身体中からだじゅうで感じながら、久松は知らず手のひらを強く握り締めていた。


彼の心に初めて、まぎれもない恋の炎がともったことを、舞は知るよしもなかった。

































【就職活動編・終】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ