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走り続けること数十分。海を架ける壮麗な橋が見えてきて、舞は目を見開いた。
レインボーブリッジ。
優艶な幻燈に縁どられたその橋は、豪華な宝石をまき散らすかのように輝き、光の渦となって暗い水面に彩りを添えていた。
ほんの一瞬、拉致されてきたことも忘れ、舞は目前の景色に見入った。
目に焼きついて離れないほどの美しい世界だった。
海浜公園の前に車を停めると、久松は、
「出るよ。おいで」
と言ってドアのロックを外し、歩き出した。
逃げようかとも思ったが、全く方向が分からず、最寄駅も見当たらない。
仕方なく、舞は暗闇に揺れる久松の背中を追いかけた。
暗がりの中、ほの白く浮かび上がる景色は夢のようで、歩く自分もまた幻想のように思える。
内定者懇親会にいた自分と、今ここにいる自分が同じだなどとは信じられないような気がしてくる。
久松が入ったのは、海と夜景の一望できるレストランだった。
高級感漂う店内を見るなり、舞は逃げ出したくなった。
華やかに着飾っている女性たちとは違って自分はスーツ姿であり、明らかに場違いだった。
「あの、久松さん、」
「いいから」
久松は舞の訴えを四文字で却下し、窓際の席に案内されて悠然と腰かけた。
気負う様子は全くない。
洗練されている彼からすれば、ここに来るのは自然なことなのかもしれなかった。
それにしても、一体何を考えているのだろう。
今まで彼が玉響に来ることはあっても、二人で食事に行ったことなどなかった。
これには何の意図が隠されているのだろう。それとも単なる思いつきなのか。
コース料理を注文すると、久松はワインの注がれたグラスを持ち上げて笑った。
「四菱地所内定おめでとう」
舞は飲みかけていた水を噴き出しそうになった。
「どうして……」
「やっぱりそうなんだ」
そうじゃないかと思ったよ、といたずらっぽい笑顔で言われ、かまをかけられたのだと理解する。




