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大人しくシャツを着替えて試着室から出ると、葵はもう会計を済ませていた。


払うと言って聞くような人ではないと察し、舞は素直に好意に甘えることにした。


それにしても、紳士に見えて意外に反抗的というか、強引というか。


もしかすると、もしかしなくても――この人、久松さんに少しだけ似て、


四井よついに行かなくてよかったのか」


考えていたことを言い当てられたようで、舞は肩を跳ねあがらせた。


「はい」


葵は怒ったように眉を寄せている。


「うちは売上では四井に劣る。後悔しないと言い切れるか」


「自分で決めたことですから」


競売けいばいや事業拡大の争いで、四井に負け、悔しい思いをさせられることもあるだろう。


それでも構わない、受けて立とうと舞は決めていた。


覚悟の上で、あえて四菱に来たのだ。


迷いのない瞳を見つめ、葵は「そうか」と呟くと、


「お前のその顔を見て、正直ほっとしている。だが、不安でもある」


「どうしてですか?」


葵はどこか遠い目をすると、独り言のように、


「有能な美人は、どこにいようとあいつが目をつけるからな」


その『あいつ』に自分でも嫌になるくらい心当たりがあり、舞は溜息をつきそうになった。


遅れて、言葉の意味を理解し心臓が踊る。


もしかすると、自分のことを褒めてくれたのだろうか。


「気をつけろ。喰い殺されないようにな」


葵は舞の頭に軽く手を乗せ、エレベーターホールへ向かって歩き出した。


広い背中を追いながら、舞は肩を落としてゆるゆると息を吐く。


葵の懸念は当たっている。恐ろしいほどに的中している。


ただ一つの間違いは、もうそれが実現してしまっているということだった。















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