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四菱地所東京本社を出ると、舞は全身の酸素を吐き出すようにして息をついた。
しくじった。完全に失敗した。
思っていたことの半分も言えなかったし、実力の三分の一も発揮できなかった。
あの人たちを目の前に、緊張に声が震えないようにすることだけで精一杯だった。
暗澹たる気持ちが胸を包む。
落ちた――絶対に確実に落ちた。
うつむき、とぼとぼと駅に向かって歩き出す。
ああ言えばよかった、あのときああすれば少しはましだったのに、と詮方ないことばかりが心に浮かぶ。
けれども、もう面接は終わった。終わってしまったのだ。
どんなにやり直したくても叶わず、できることは何一つ残されていない。
考えてみれば、最終面接に行くことができただけでも御の字だと思わなければならないだろう。
引っ込み思案で人見知りで、自信もなく、適性があるかどうかも定かではない自分が、デベロッパーになりたいという熱意だけでここまで来ることができたのだ。
叶えたい夢のためなら、いくらでも努力することができた。
努力できるということが喜びだった。
今まで入口にすら立てず諦めてきたことばかりだったから、なおさらに。
四井不動産から内定をもらったとき、就職活動を辞めようか少しだけ悩んだ。
このまま四井に入社し、デベロッパーとして活躍する。
そこには望みどおりの道が用意されていた。喉から手が出るほど欲しかった未来だった。
踏み切れなかったのは、久松と出会ったからだ。
あの男が嫌いだから、許せないから、ということももちろんある。
けれども舞を踏みとどまらせていたのは、もっと別のものだった。
説明会の雰囲気、会社を訪問して抱いた感想、集まる学生の顔ぶれ、面接官の様子――どれをとっても、四井より四菱の方が自分に合っているのではないかと感じた。
言葉ではうまく言い表せないその直感を、単なる印象で片づけてしまうのは危険だと思った。
だから、せめて今日この日までは就職活動を続けようと舞は心に決めたのだった。
四井から内定をもらったとき、電話をかけてきたのは久松ではなかった。
しかし人事部の人間である以上、当然、内定者の顔ぶれは把握しているだろう。
彼はきっと舞が入社してくると信じて疑わない。
そうでなければ、あれだけの辱めを耐えた意味がなくなってしまうからだ。
それでも、もし選べる道があるのなら、そのときは――。
心に浮かぶ懐かしい面影を思い、舞は目を閉じた。




