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三月下旬は、舞にとってまさに目が回りそうなほどの忙しさだった。


就職活動の本格化、日々重なる説明会や選考、加えてアルバイトのシフトを減らせないという金銭的事情――全てがからみ合って、体力的に限界なスケジュールを強いられていた。


早朝に起床し母と弟の分の食事を作り、セミナーに出かけ、いくつかの企業の選考をはしごして、リクルートスーツを着たまま『玉響』におもむく。


夜明けごろ自宅に戻り、ほんのわずかな睡眠時間をむさぼる。


まるで手押し車のような毎日に疲労が蓄積ちくせきし、倒れてしまわないのが不思議なくらいだった。


辛いとは思わなかった。


むしろ、自分は恵まれている、幸せなのだと感じていた。


他の大学に行った友人には、学歴フィルターと呼ばれる基準が災いして、選考どころか説明会にも参加できず、悔し涙に袖を濡らす者もいる。


OB訪問を受け付けてもらえず、途方に暮れる者もいる。


自分の行きたい企業に足を運べ、話を聞き、自己PRの場を与えてもらえることだけでも感謝しなければならないだろう。


芽吹きの予感に彩られ、春めく街並とは裏腹うらはらに、就活前線には未だ寒風が吹き荒れている。


エントリーシートや面接で不合格の通知をもらうことが増えていた。


そのたびに、落ち込んでばかりはいられないと自分を励まして立ち上がろうとする。


しかし、一日に何通もお祈りのメールが来ると、流石に捨てばちな気分になることもあった。


自分なんて社会に必要とされていないんだという、強烈な疎外感そがいかん


これほどまでに苦労しているというのに、世間では若者の離職率が取り沙汰されている。


ゆとり世代の抱える問題点と闇。


無責任に自分たちのことが報道されるのを、舞は歯がゆい思いで眺めていた。


世の中、頼りない若者ばかりではない。


混迷を極める時代をうれい、状況を変えようと努力している人だっているはずだ。


勇気を持って変革を図り、覚悟を持って責任を果たし、希望を持ち続けて働こうとしている人が。



自分たちの前に広がるのは道ではなく、氷河でさえなかった。


硝子ガラスのように硬く凍てついた氷の海だ。


見渡す限り茫漠ぼうばくとした残酷な白に覆われ、実りを恵む草木は見当たらず、安らぎの場所もなく、進むべき方角も定かではない。


吹雪に凍え、飢えと絶望に打ちのめされながらも、そこから抜け出すために必死で足がいている。


今立っている場所が薄氷はくひょうさながらに不安定であることを知っていても、壊れてしまわないことを信じて走るしかない。


恐怖に凍りつき、力尽きて動けなくなってしまう前に。



街でリクルートスーツ姿を見かけるたびに、「同志よ」と思う。


近づいて肩をたたき、心から声援を送り、励まし合いたいと願う。


見ず知らずの人間でも、強い絆を感じていた。


私たちに与えられたこの苦境は乗り越えるためにあり、この困難は感謝を知り自分を成長させるためにある。


そうであってほしい。そうであると信じていたかった。
















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