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「クラブ『百合』。いつか自分の店を持つのが、私の夢だった」


飾られている花には、『開店祝』と大きく書かれている。


どうして気づかなかったのだろう。百合は、独立するのだ。


「牡丹も私が引き取っていくわ。私の元で手伝ってくれると言ってくれたから」


「あら、私はあなたの部下になるわけじゃないわよ。『百合』に行くって言ったのは、あなたからママの座を奪うためよ」


牡丹は腕組みしてつんと鼻を上向ける。


「まあ、そういうわけだからね。玉響たまゆらにはお世話になったけれど、いつか追い抜いて六本木のナンバーワンになってみせるわよ」


と、百合は白い歯をきらめかせて誇り高く笑った。


感動で胸が熱く打ち震える。


彼女は夢を叶えたのだ。自分が足ぶみを繰り返し、勇気のないままいじけている間に。


「おめでとうございます、百合さん」


心からの気持ちで、舞は言った。それ以上の言葉が見当たらなかった。


百合は少しばかり目を見開き、舞をじっと見つめた。


「おかしな子ね。自分を殺そうとした相手を祝うなんて」


「私……百合さんのことが大好きですから」


百合が打たれたような顔をした。


舞の瞳に透明な涙が溜まっている。唇は優しく弧を描いていた。


「百合さんがいなければ、私、一日だってこのお店で働き続けることはできませんでした。優しくて綺麗で、たくさんのことを教えてくれた、私の憧れの人です。それだけは、どんなことがあっても変わりません。迷惑ばかりかけて、何もお返しすることができなくて、本当にすみませんでした」


舞は百合の瞳を見つめ、美しく典雅な挙措きょそでお辞儀をした。


百合は舞が初めて玉響へ来た日のことを思い出していた。


一目見て思った。向いていない、と。


清い水の中で生きてきたであろう育ちの良さが、世間知らずの甘ったれた瞳が、如実にょじつに物語っていた。


けれども放っておけなかった。気づいてしまったからだ。


危うくはかなげな彼女が、時折誰よりも強い輝きを放つのを。


「……謝るのは私のほうよ、舞」


小さく呟いた。


舞は聞こえなかったのか、首を傾げる。


百合は手近にあった花束から、薄紫色の可憐な花を抜き取ると、舞の頭にしてやった。


「私は夢を叶えたわ。次はあなたの番よ、あやめ。いつか自分だけの夢を叶えて、一人前の女になったら、いつでも遊びにいらっしゃい。待っているから」


舞はこらえ切れずに泣きだした。温かい涙の筋が頬をつたう。


かつて百合と交わした約束が胸の中に蘇った。


いつか、この花に相応ふさわしくなれたなら。


「必ず会いに行きます。今まで、本当にありがとうございました」


一際美しく輝く百合の笑顔を、舞はしっかりと心に刻みつけた。





















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