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ホールは、ホステスや常連客の姿で華やかににぎわっていた。


その中央で、凛とした気配をまといながら、あでやかに笑う百合の姿があった。


手には、純白の花束が握られている。


舞は無我夢中で人をかきわけ、


「百合さん!」


百合が舞に気づいたのか、こちらを見つめる。


舞は息を切らしながら近づいた。


「何を考えてるの。そんなみっともない格好で」


ヒステリックな声で冷水を浴びせかけたのは、隣に立っていた牡丹ぼたんだった。


真紅のドレスに身を包み、耳や腕や首に宝石をきらめかせている。


舞はようやく我に返り、いかに場違いな格好をしているかに気づいた。


服装は私服のままで、化粧もアクセサリーもしていない。


祝いの場の雰囲気には到底そぐわなかった。


恥じ入って縮こまる舞に、賓客ひんきゃくの視線が突き刺さってくる。


「ほんとに、仕方ない子ね」


優しい声が言った。


驚いて顔を上げると、百合は微笑を浮かべていた。その瞳に怒りの色はない。


「引っ込み思案で、いつまでたっても客あしらいは上手くならないし、失敗しては凹んでばかりだし、泣き虫でとろくさくて足手まといで……こんなに駄目なホステスは初めてだったわ」


言葉とは裏腹に、百合は慈しむような表情をしている。


舞はごくりと唾を飲んだ。


言いたいことが、言わなければならないことがあるのに、何一つ出てこない。


「辞めないでください」


ようやく出た声は、無惨むざんにひび割れていた。


「百合さんのおっしゃるとおりです。私、いつまでたっても全然だめで。たくさん教えてもらって、お世話になったのに、何一つまともにできなくて。百合さんがいなきゃ、私」


「甘えるんじゃないわよ」


百合は厳しく言い放った。


「どんな事情を抱えていようと、お金をもらったからにはあなたはプロなの。言い訳が許されると思っちゃいけない。辛くても楽しくても笑顔で、しっかり自分の足で立って、立派に務めを果たしなさい」


叱られているのに、嬉しくてならなかった。


きちんと目を合わせ、心からの言葉で伝えてくれる。


いつだって至らない自分を見捨てず、馬鹿にせず、正しい方向へ導いてくれたのは彼女だった。


「それに私は、辞めるわけじゃない。来月から新しくお店を開くの」


舞は口を手で覆った。

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