06
「久松様、大変失礼いたしました。すぐに替えのお着替えをお持ちいたします」
薄桃色のハンカチを取り出し、百合は舞に手渡した。
彼女の距離からでは届かないので、代わりに拭けと目くばせする。
「平気ですよ」
久松はそつのない笑顔で応え、再び舞を穴があくほど見つめた。
恥ずかしいやら恐ろしいやらで狼狽しきったまま、舞は久松の膝にハンカチを当て、必死で染みを拭きとった。幸い、こぼしたのは少量だった。
膝頭につくほど頭を下げ、
「本当に申し訳ありません。クリーニング代をお支払いします」
「いえいえ。大丈夫ですから。それより、」
久松は舞の耳元に口を寄せ、からかうような声音で、
「君、さっきの小林さんだよね?」
舞は「ひっ」と音を立てて息を呑む。
「やっぱりそうだったか」
そう言って久松が笑う。
どうしてそんなにも、嬉しくて嬉しくて仕方がないというような顔で、人を取って食い殺しそうな顔で笑うのか。
「意外だったな。君ってこういうところには縁がなさそうなのに」
舞の顔色が青ざめ、こめかみが引きつる。心臓がばくばくして、ひどい眩暈がした。
「さて、どうしようか。綺麗ごと抜きで言うと、こういうバイトは企業受けが悪いんだよね。このことがうちや他社にばれたら、内定はまずもらえないだろうな。ただでさえ氷河期だし」
まるで明日の天気について話しているかのように、のん気な口調が逆に恐ろしい。
舞の膝が、恐怖でがくがくと震え始めた。