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夕刻、久松はわざと車に乗らずマンションを出た。


コンビニで酒やつまみなど適当なものを買い込み、ぶらぶらとあてどなく歩き回る。


夕闇ゆうやみの公園は、浮浪者か貧乏な学生カップルくらいしかおらず、時間をつぶすのに最適とは言えなかったが、ともかくそのベンチに腰を降ろした。


買っておいた缶コーヒーを飲みつつ、気配を探る。


一人。


おもむろに半分程度中身の残った缶を握りしめると、突如、思いきり振りかぶって背後の茂みに投げつけた。


がつっ、と鈍い音がしてうめき声が上がる。同時に影に向かって飛びかかっていた。


茂みにひそんでいたのは、小柄で痩せた体つきの少年だった。


額にクリーンヒットした缶からコーヒーがこぼれ、前髪や肩のあたりが茶色く濡れている。


高校時代にやっていた野球がこんなところで役立つとは、と久松は皮肉に笑った。


相手の腕をつかんで押さえつけると、淡々と逆方向へひねり上げる。


少年が「ぎゃっ」と情けない悲鳴をあげて這いつくばった。


「お前は誰だ」


低い声で詰問する。


少年は完全に戦意を失ったのか、狼狽ろうばいした声で、


「お、お、俺じゃない!」


「誰だって聞いてるんだよ。腕折られたいか?」


耳元で凄むと、少年はますます青ざめて口をぱくつかせ、


「いい井上!井上琢磨いのうえたくま!!!」


「オーケー、井上君。君が何のために俺をけ回していたのか聞こうか」


久松は穏やかな声で言った。目は凶悪に笑っている。


井上少年は半狂乱はんきょうらんになって、早口でまくしたてた。


「頼まれたんだ!あんたを、あんたが外出するときは、どこに行って誰と会ってるのか、全部、報告しろって」


久松は目を丸くして口笛を吹いた。


「それじゃ、一日中マンションの前で張り込んでたってことか?すごいなあ、刑事なみだよ。ご苦労さま」


ねぎらう口調とは裏腹に、腕にこもる力がさらに強まった。


「いたたた痛い!ごめんなさい、ごめんなさい!」


男の悲鳴を聞くのは楽しくも何ともないので、久松は少し力をゆるめた。


「がたがた騒がないでくれる?ご近所迷惑になるから。で、それを君にお願いした奴は誰で、今どこにいるのかな?」

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